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第16回 早坂茂三さんの遺言 その9
早坂茂三さんの遺言 9
ふたりにとっての中国
「私はね、大学時代からの夢を1972年、昭和47年にオヤジの力で実現させた。それが日中国交化の実現だ!!!」と早坂茂三さんはますます大きな声で言いました。
早坂さんの言うオヤジとは、まさしく田中角栄首相(当時)のことです。
「ニイゼキさんが日中友好協会なのでちょうどよかった。私が青年のときに忘れ得ぬ一冊の本に出合った。それが嘉久治さんの言ったアメリカのジャーナリスト、エドガー・スノーの『中国の赤い星』だった。『外国人に土下座しない。中国の運命は自分たちが決める』という毛沢東や朱徳、周恩来らが率いる八路軍の思想と行動が書かれていた。これには血気盛んな正義感溢れる若者は誰しもが影響を受けたのじゃないかな?なあ、嘉久治さん!?」
ニコニコして早坂茂三さんは向側に座っている相澤さんに確認するように言いました。相澤さんも懐かしそうにニコニコして頷いて「先輩」に応えています。お酒をひかえている相澤さんは料理を丁寧に噛みながら、思い出も噛みしめているかのような表情になっていました。
早坂さんは「ふたりの時代」を思い出したように、「嘉久治さんはこの本の影響をまじめに読み受け留めた。そして私と出会った。 ご存知かも知らないが私も嘉久治さんも早稲田大学で民科つまり民主主義科学者協会という共産党と関係の深い組織だね、そこに所属したことがある。そこから嘉久治さんの人生が狂ったってことかなあ?ハッハッハッハ……」
相澤さんは「なにをいうんですか~、そんなことはありませんよ~ハッハッハッハ……」と言ってふたりで大きな声で笑うのでした。
「嘉久治さんは『この日本、この山形で山形の運命は自分たちで決める』…と闘ってきた。私はオヤジと一緒に中国との国交を実現しようと企んだ。嘉久治さんも私も原点は同じだった」
「あの当時の毛沢東や朱徳の中国はあこがれだった」と相澤さんが言いました。
「私はね、隣の大国中国と隣の日本が手を繋がなければアジアの平和は望めないと思っていた。それは学生運動をしていた時代でも、オヤジの秘書をして自民党という国政を動かしている中枢にいた時代でも(信条は)変わらなかったのだよ」と言う早坂さんの表情は一瞬ですが厳しくなりました。
早坂さんと相澤さんの繋がりは50年間に渡り立場が変わっても、変わらない友情と信条のひとつに「中国」があるということがわかりました。
つづく
2004年10月3日記
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