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第20回 早坂茂三さんの遺言 その13
早坂茂三さんの遺言 13
初心と原点
「私たちが多くの心有る人たちと日中国交正常化にたどり着くまでの短くて長い戦いはこういうことだった」としんみりとして語る早坂茂三さんでした。
私も新関さんも無言でうなずくだけでした。
「早坂先生、先生はどうして新聞記者になられたのですか? そして学生運動に奔られた動機はなんだったのでしょうか」と新関さんが質問をしました。
「先ほどお話した『中国の赤い星』だよ。アメリカの新聞記者ジャーナリスト、エドガー・スノーが書いたこの著書に私は大きな影響を受けてね。外国人ジャーナリストとしてただ一人中国に入り、毛沢東らが率いる八路軍の思想と行動を長い間彼らと生活を共にして対話し、記録した」
「……」
「読んで驚いた。私が驚いたのはそこに描かれていた八路軍だよ。その徹底した社会正義だ。大地主には小作人たちの借金の証文を焼かせ土地を平等に分けさせた。八路軍の皆はテントを張ってそこに泊り、小便、大便は数百メートル離れたところに穴を掘り、そこで用を足しその後は土で埋めた。どうですか、ニイゼキさん? これが中国の農民の革命です。
日本軍の中国侵略は強盗、強姦、殺人を繰り返した。この日本軍との違いに強い衝撃を受けた。その八路軍の若きリーダーの中に毛沢東、朱徳、周恩来、とう小平らがいた。」
「……」
「ニイゼキさん、ジャーナリストとは凄いと思った。ひとりのジャーナリストの取材で中国農民軍の実態を知ったのだからね」
「それで新聞記者をこころざされたのですね」と私が言いました。
「あの農民軍の社会正義を知って、中国共産党毛沢東の革命に憧れ、信じ、そして大学に入っての学生運動だった。嘉久治さんも私と早稲田の民科で出会ったのが運の尽きだった(笑い)。希望に燃えた運動も、当時の共産党は仲間同士の足の引っ張り合いだった。そして挫折していく者や戦いの場所を移していく者がいた。私は初心貫徹で新聞記者になった。嘉久治さんは演劇の世界に入って行った。そういうことでしょう」
「RED STAR OVER CHINA(レッドスター・オーバー・チャイナ)だよ」
それが早坂さんの初心と原点だったのか、とその時私は思ったのでした。
2004年10月23日記
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