幼幻記9 結い髪





結い髪

 幼幻記 9



 私は母のことを「あーちゃん」と呼んだ。

 あーちゃんは夕方になると夕食の準備や家事を始める。

 時々、長くなったパーマの掛かった髪を左右ふたつに分けて、黒いゴムで結んだりおさげに結うときがあった。

 そのときのあーちゃんは、片足を立てて座り、首をかしげるようにする。私はこの仕草がとても嫌だった。

 その理由は髪をふたつに結び終わったときのあーちゃんは私のあーちゃんではなかったから。
「私の母」から「若くて美しい女性」に変わっていく過程に見えたからだ。

 それがとてもとても切なかった。

 そして母が誰かに獲られるのではないだろうかと心配になってきた。

 2005年9月8日記


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