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2006年02月03日
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南南東 もくもくたべる 恵方巻


むかしむかしある村に、燃燈というお百姓さんが住んでおりました。
燃燈は美人の奥様の竜吉と、かわいい娘の普賢の家族3人で仲むづましく暮しておりました。

ある年、その村はひどい干ばつに見舞われました。
雨が全然降りません。
田んぼや野菜畑、果樹園すらも、どんどん干からびてゆきました。
村人は神様に『どうか雨を降らせてください』とお願いしましたが、一向に降る気配がありません。
すぐにでも、田畑は枯れてしまいそうです。
村人が途方にくれて泣き暮らしている時、燃灯家に大き…くないですね。


「雨を降らせてほしいか?おぬしの娘を嫁によこせばのう、降らせてやっても良いぞ。」

燃燈は大層びっくりしましたが、このままでは、遠からず村中飢え死にしてしまいます。
藁に縋る思いで、『雨を降らせてくれたなら』と約束しました。

「では、明日を楽しみにしておるが良い」

と言うと鬼は山へ帰ってゆきました。

次の日、どしゃぶりのような雨が朝から降っていました。
雨は3日3晩降り続き、田んぼや畑をすっかり潤しました。
村人は皆大喜びでしたが、燃燈の家だけはしょんぼりしておりました。

約束をくやむ燃燈に、村は助かったのだから、と普賢はなぐさめ、竜吉は精一杯の嫁入り支度を整えました。

「わしの嫁はどこかのう」

真っ白な花嫁衣裳を身に纏った普賢は、少しばかりの荷物と一緒に鬼に抱えられ、瞬く間に山に連れ去られてしまいました。


普賢が連れ去られた後、毎日普賢はもう食べられてしまったかもしれないと、泣き暮す燃燈夫婦の姿がありました。







さて、年も明けて少しして。
山深く、鬼の家に住む普賢は窓から地面をみておや?と思いました。
この辺では見かけない、小さな芽が行儀良く並んで生えております。
村で良く見た菜種の芽のようです。


つまり…これを辿っていけば、家に帰れる…?

芽を見てじっと考えていた普賢は決心しました。
鬼は、朝出かけると夜まで帰ってきません。
次の日、普賢は鬼が出た後に、菜種の芽に沿って、山を降りてゆきました。





夕暮れ遅くに家に飛び込んで来た普賢に、燃燈夫婦は鬼に食べられていなかったのかと大喜びしました。
普賢は菜種の芽を辿って家に帰って来た事を話ました。
と、言う事はこのままでは、また鬼が来るかもしれません。
奥の間に普賢を隠すと、燃燈は玄関で見張っておりました。

間もなく鬼がすごいスピードで燃燈家に到着致しました。

「普賢を…嫁を返さぬか!」

すごい形相で鬼は叫びました。

「そのような者おらぬ!」

負けじと燃燈も叫びましたが、鬼には通用しませんでした。

「いいや、普賢はここにおる!返せ!」

喚き散らす鬼に、竜吉は炒った豆を持って近づきました。

「この豆を植えて、芽が出る頃に普賢を返そう、それまでは渡せぬ」

「…芽が出たら…じゃな?」

鬼は豆を地面に投げ捨てました。
手を上げると、雷が走り、超局部的な雨が降りました。
豆をまいた所にのみ雨が降っています。
しばらくするとポンと芽が出て蔓が延びてゆきました。

「これこれっ!!待たんかっ!!」

竜吉は頭を軽く押さえました。ちょっとめまいもいたします。

「なぜ炒った豆から芽が出るのじゃ!
ここは、芽がでぬのに諦めて鬼の帰るシーンであろうがっ!!
そして鬼は外、福は内と豆を投げる所じゃぞ!!」

そんな竜吉を鬼は鼻で笑いました。

「わしら、鬼は山神だぞ?この程度出来ずしてどうする。
とにかく、普賢は返してもらうぞ!文句はあるまいな!?」

そう言い置くと、勝手に玄関を開けて奥に入ってゆきます。
慌てて引きとめようと燃燈夫婦が後に続きました。

がらり、奥の間の扉を開けると異様な光景が広がっておりました。

「あ、望ちゃん。迎えに来てくれたの?
よかったあ、少し荷物持って帰ってくれる?
もう、重くて、どうしたらいいかわからなかったの」

「……」

部屋には、鍋や釜やら服やらが、所狭しと並び、それを大風呂敷にぎゅうぎゅう詰めている普賢は、盗人以外の何にも見えませんでした。

「おかーさあん、鍋とか、釜とか貰ってっていいよね?
この家は新しいの買ってー。
うち何にもないんだものー。買いに行くにも店まで遠すぎるし」

「…そのようなもの、わしがいくらでも揃えて…」

「こないだ言ったら望ちゃん全然違う物買って来たじゃない。
いいのよ、わたし達また若いんだし、そんなに贅沢しなくても有る物使えば」

その、有る物ってのは燃燈んちのものです。
まあでも、娘なんて嫁に出してしまえばこんなもんです。

「着物もねえ…わたしのはみんな貰って帰っていいよね?もう着る人いないし。
うち、山頂でしょう。すっごく寒くて」

「おぬし寒いなど一言も…」

「うーん、望ちゃんいる時はね、あんまり感じた事ないの。
でも居なくなると一気に寒くなって…。
あ、ねえ鬼の体温って高くてあったかいの。知ってた?」

知るわきゃねーだろそんなことっ!!

にこおっと笑う娘に心でつっこむ両親でした。
逆に赤くなって慌ててるのは鬼の方で。
母はこんな娘に育てた覚えは…と泣き崩れておりました。

「そんな酷い家で暮らしておるのか?」

涙を拭き拭きたずねる母に、普賢はぶんぶん首を振りました。

「ううん!すっごい大きなお屋敷なの!
大きな蔵が隣にあって、何でも入ってるし。
米も、野菜も、めずらしい果物も、肉も、それにね、魚も!」

山では、この時代魚はとてもめずらしい食材です。
なにやら物々交換で、川の神様と肉と魚を交換してくるらしいのです。
でも調理道具がないんだよね。と、普賢はいい足しました。

「おみやげにねえ、めずらしい果物たくさん持って出てきたんだけど、途中お腹すいて食べちゃった。
だって、望ちゃんに連れてってもらった時は四半刻くらいで着いたんだもの。
1刻もあれば来れるかなあって思ってたの。まさか半日かかるとは思わなかった」

今度はお土産ちゃんと持ってくるからね、なんて言う普賢にきて欲しいんだか欲しくないんだか竜吉は複雑な心境でした。
普賢の瞳が、次はどれを頂いていこうかしら、と家具を物色しているように見えたからです。

「す、すまぬ。貰った物の代価は後で持ってくるゆえ」

小さくなって謝る鬼は、なにやら結構良い婿殿かもしれません。

「鬼殿、お名前は?」

「太公望じゃが」

その後、みんなで夕餉を取って話をしているうちに、昼間の疲れか、普賢はぐっすり眠り込んでしまいました。

「これ、普賢!」

「まあ、わしが連れ帰った方が早いからのう。気にするでない」

鬼は自分の背丈程もある荷物と普賢を担いで、いとまを告げました。

「すまぬのう、普賢をよろしく」

「いや、わしの方こそ…馳走になった」

だかだか帰る鬼を見て、竜吉は溜息を一つ。

「…どこへ出しても恥ずかしくない娘と思うていたがの」

「…でも、良い婿殿で良かったではないか」

「そうじゃな」

ぱしりと玄関を閉めて、燃燈夫婦は家に入ってゆきました。

娘夫婦が来た時など、どこもこんなものです。

鬼夫婦もそろそろ家に着く頃でしょう。


やわらかなぽかぽか羽布団に降ろされた普賢が、額にそっと口づけられるのを、夢見ごこちで覚えていたり。





節分の夜のお話です。








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最終更新日  2006年02月03日 15時03分08秒 コメント(6) | コメントを書く
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