月のひかり★の部屋

月のひかり★の部屋

2006年10月03日
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今日も待ち合わせの場所に行ったけれど淳二の親友である山本が来て、手紙を受け取りはしたものゝ遂に淳二には逢うことが出来ず、傷心の風子はその儘、大木老人の家へと向かった。そして・・・


風子は家政婦の真紀子さんに案内されて、大木邸の応接室に一人座っている。

前、ここに来た時は確か薄の穂が銀色に輝いていた秋の頃で他の人達と一緒だった。

あの時の私はまだ、何も問題が無くて幸せだった。

それなのに、今は・・・今は全くそうではなくて、どう考えても不幸せであるとしか言いようがない。

どうして?その答えは淳二さんという私の最も好きな人に逢えなくなってしまったから・・しかも、その淳二さんが大きな負債を抱えてどうすることも出来ず、お金の工面の為にあちこち駆けずり廻っているらしいが、そんな努力も遂に空しくなったのか私に出逢ったら私までを不幸に巻き込むことになるからと、何処か遠い所に去って行ってしまった・・・私には何も相談もしないで、私を一人ぼっちにして行ってしまうなんて・・あまりにも一方的で酷い!酷すぎるわ!

淳二さんて、今頃どこでどうしているのかしら?

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今はそんな風に考えて淳二のことを可哀想だと思うよりも、責める気持ちの方が強いいつもの風子らしくない風子であった。

すでに夕闇の漂い始めた大木邸の庭園には今にも咲き出しそうな桜の木が幾本も佇んでいて、如何にも春らしい様子を呈しているし、遠くにはこれもまた柔らかな色合いをした山々の連なる風景がまるで一枚の水彩画のように窓いっぱいに広がって見えているのだが、普段の風子なら既に間違いなく丁寧に鑑賞し始めているところであるが・・


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今は何も目に入らないのか、力無く、ただうな垂れ続けて居るばかりである。

その時、ドアーが開いて、大木老人が部屋に入って来た。

「風子さん!よくお出で下された!いつもは洞穴の部屋でお逢いすることが多くて、ここに一人でお出で下さるとは珍しいことじゃが・・・はて、さて、一体どうなされましたかな?顔色が少しよろしくないように見えますが・・」

相変わらず静かで落ち着いた雰囲気で、品位のある優しさが立っているだけで体全体から溢れている。

「はい!私、とても辛いことがありまして・・・こんなこと、本当は誰にも聞いて貰わずにいつもなら何とか自分の力で解決するのですが・・今日はあまりにも辛過ぎまして・・辛いというよりも、悲しいのです。それで、自分の家には帰らずに自然にこちらに足が向かってしまったのですが、お忙しいところ、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません!」

「それはいいですが・・しかし、そんなに悲しいですか!風子さんにも悲しいことがありますか!いったい何がそんなに悲しいのか聞かせて頂けませんか?」

「はい、それが・・・実は私・・」

風子は淳二と自分が出逢ってからの経緯の一部始終を大木老人に話し始めた。

風子が他の人にそんな風に自分自身の個人的な困った問題を聞いてもらうことは、今まで殆んど無かった。自分自身どうにもならないことを他の人に聞いてもらっても、何とかなれば良いが、殆んど何ともならない時の方が多く、却って良くない結果になるのが関の山だと思っている。

それで、風子の場合どんなことも秘密にするという訳ではないにも拘わらず、結局は秘密にしていることになってしまうのである。

それが大木老人の前だと、(こんなによくもまぁ喋れるんだなぁ・・)

と自分でも感心するくらい、すらすらとよく喋る。と、言っても、淳二と自分の出逢ってから今までの経緯(いきさつ)なんか、言葉にすれば、ほんの数分間のあっと言う間に終わってしまうあっけないほど簡単なことだと判って、何だか少し拍子抜けした感じになったのも意外と言えば意外であった。

風子の話を大木老人は黙って何度も頷きながら聞いていた。

淳二からの手紙も風子は見せた。

「ふーむ・・・これはなかなか深刻そうじゃが・・しかし、男には、誰にでもこんな時を人生には経験することがあるものじゃよ!この青年だけではなくて、実はワシにもそんな時があった。それまで好調だった事業が俄かに不調になり始めて、まるで坂を転がり落ちるように駄目になってしまって、どうすることも出来なかった。あの時、まだ若かった妻は産まれて間もない女の子を連れて、ワシの前から姿を消してしまったのじゃよ・・妻は成功者は好むが敗北した男はどうにも受け入れられない人だったと、今から思えばただそれだけの簡単なことなのだが・・あの時は、それはそれでずいぶん辛い思いをしたものじゃったが・・時が経てば少しずつ薄れて行くものじゃよ。風子さん!ご覧なさい!十字架を!」


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風子は大木老人の見上げる窓の上に掛かった木の十字架を自分も見上げた。

十字架には釘付けにされた儘のキリストが相変わらずうな垂れている。

「風子さん、淳二さんというその青年のことを祈って上げなさい!そうすれば、必ず守られるよ・・それはそうと、青いサファイアのネックレスよく似合っているね!」

風子がにっこり笑う。

(大木老人に出会って気持ちが明るくなれて良かった・・)と思う。

にも拘わらず、その日から数週間が経った頃、せっかく少し明るさを取り戻して元気になった風子に追い討ちをかけるかのような思い掛けない事態が待ち受けていたのだった。


-続くー


風子の秘密<33>をご期待下さい
次回は10/6(金)か10/7(土)の朝8時頃に更新する予定にしています。


↑のキリ画と写真はHP≪Azusa≫とインターネットを検索してお借りしました。
Thanks ☆☆**v(o^▽^o)v**☆☆ Thanks!!





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最終更新日  2006年10月03日 07時13分22秒
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Re:短篇小説「17」 風子の秘密<32>(10/03)  
アリスMOON.A  さん
まぁ! どんな事が追い討ちをかけたのでしょう?
だんだん、複雑になってきますね?
大木老人も、、複雑な人生を歩んできたんですね、、
淳二さん、、どうしているのでしょう? (2006年10月03日 07時01分44秒)

Re[1]:短篇小説「17」 風子の秘密<32>(10/03)  
アリスMOON.Aさん
>まぁ! どんな事が追い討ちをかけたのでしょう?
>だんだん、複雑になってきますね?
>大木老人も、、複雑な人生を歩んできたんですね、、
>淳二さん、、どうしているのでしょう?
-----
それが、思い掛けない事態が待っていたんですよ。
ほんとうに淳二さんのこと心配ですね・・
大木老人も大変な試練の中を歩いて、ここまで来たみたいで・・ (2006年10月03日 07時28分06秒)

Re:短篇小説「17」 風子の秘密<32>(10/03)  
竹田千夏  さん
いったいどんな思いがけないことが待ち受けているのでしょうか?  気になりますねえ!

私事ですみませんが、タローが死んだら、と思うと悲しくって生きていたくない気分です。 (2006年10月03日 14時43分58秒)

Re[1]:短篇小説「17」 風子の秘密<32>(10/03)  
竹田千夏さん
>いったいどんな思いがけないことが待ち受けているのでしょうか?  気になりますねえ!
>
>私事ですみませんが、タローが死んだら、と思うと悲しくって生きていたくない気分です。
-----
淳二さんのことって気になりますね。

タローのことを思ったら、きっとそんな気持ちになるだろうと思います・・
それが命あるものゝ運命というものでしょう。
「明日は明日の風が吹く」と思って、誰でも先のことなんか考えても何も判りませんから・・

(2006年10月03日 16時03分30秒)

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