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2006.02.10
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「なあ、おい」


口にテープをされていて、上手く喋れない。
そのテープのおかげで、さっきは囁くようにだが、サトシだけに話せた。
それはある意味良かったかもしれない。
サトシが口のテープを剥がした。

「トイレ行かせてくれよ」
誘拐されてから、飲まず食わずで縛られたままだった。

サトシは赤石を見て、リーダー格の男へ視線を移した。

リーダーの男は忠告した。

サトシは赤石の足の縛りを解き、立たせて、トイレへ付いていくため、後ろに回った。
トイレは小屋から出た所にある仮説トイレのようなものだ。
少し距離がある。
このトイレ時間が赤石に与えられた唯一の時間だ。

「なあ」
赤石は交渉を始めた。

「・・・」
サトシは黙っている。
というよりかは、考えているように感じだ。
サトシの心は揺れているはずなのだ。


「さっきの話、どうだ?頼むよ、逃がしてくれよ。約束する、誰にも言わない、更にアンタの姉ちゃんを助けよう」
当然ではあるが、助ける気など毛頭ない。
犯罪者のために誰が金など払うか。

「・・・・・本当に・・」
サトシが口を開いた。

搾り出したような声だった。

「・・・・あ・ああ・勿論だ、約束するよ。」
赤石はサトシの悲痛の叫びにも似たこのか細い声に戦慄を覚えた。
予想していた返答と違っていたからだ。
結局は金のために、自分のことだけを考えているものだと思っていた。
その姉の病気もそんな重たいものではないと決め付けていた。

だが、サトシの言葉は違う。
自分はどうなってもいいから、姉だけは助けてくれという、願い、祈り。
すがれるものなら何でもすがる。
切羽詰っていることがわかった。
誘拐もやりたくてやっているわけではなく、それしか方法がなかったのだ。
姉を助けるための大金を得るためには、それ相応のリスクが伴う。

そうなると疑問が残る。
サトシ達には「依頼人」がいるのだ。
その目的がまだわからない。

「おい・・」
サトシの呼びかけに、我に返った。
「いいか・素早く逃げろよ」
そう言いながら、赤石の手の縛りを解き始めた。

「・・・!」
サトシは本気だ。
本気で姉のために自分を逃がすつもりなのだ。
「ちょっ・ちょっとまて!」
赤石はサトシの動きを止めた。
怪訝な顔をしてサトシは赤石を見た。
「まだ早いだろう。もう少し状況を見てから行動に移そう。いきなりすぎる。もう少し、もう少し待とう。2人だけの秘密だ。」
訳のわからないことでまとめて、トイレで用を足し、小屋へ戻ろうとした。

サトシは不思議そうな顔をしていたが、段々不機嫌な顔になっていった。
それもそうである、自分の必死の覚悟を止められたのだ。
仲間を裏切ってまで姉のためを思った行動を止められたのだ。
嫌で複雑な気分になるのは当たり前だった。

赤石はサトシの気迫に圧倒されたのだ。
自分は裏切るつもりでうわべだけの言葉だったが、その言葉にサトシは本気で姉の人生を託してきた。
その姿に赤石は今まで感じたことのない感情を覚えた。

つづく。


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最終更新日  2006.02.10 17:14:33
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