日々草

日々草

2006.07.19
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カテゴリ: 本の紹介
 この本は、中学生、高校生にぜひ夏休みに読んで欲しい本。大学生には原書(フランス語)で読んで欲しい本。50ページ余りの短編であるけれでも、人が生きるとき、何が大切なことなのかを、深く考えさせてくれる本である。

「木を植えたひと」 ジャン・ジオノ作 ウイリー・グラサウア(絵) 
          福井美津子(訳)              (世界文化社)
“L'homme qui plantait des arbres" Jean Giono : Editions Gallimard Jeunesse

 世捨て人のようにみえた一人の農夫が、荒れ果て、無人になってしまったプロヴァンスの高地に、来る日も来る日も黙々とドングリの実を蒔き、ブナの苗を植え、シラカバを植え続けるという、極めて単純な物語である。
農夫55歳から87歳の30年間、木を植え続け、廃墟の大地に自然の営みをよみがえらせ、人の住む村に変えた物語である。

 3年間で植えた種子10万粒。10万粒のうち2万粒が発芽したが、その半分は育たないであろう。残り、1万本のナラが育ちつつある。30年後にはこの1万本は、大海の1滴にすぎないものとなるであろうと、本の中に描かれている。
気の遠くなるような種蒔く仕事を30年余り、降る日も照る日も毎日つづける日常。その間に第1次世界大戦、第2次世界大戦と大きな戦争が起きている。ただひたすら、人里はなれたこの高地に木を植え続けていた。

 さらにこの本のすごさは、木々が樹齢10年目のころには、自然は連鎖反応して、涸れていた小川に水を流し、風が種子を運び、鳥が種子をばら撒き、蝶が飛交って、花々の種子を天文学的に増やしていくさまを見事に描ききっている。


 しかし、誰も知らない。
 この緑豊かな穏やかな村が、かっては荒涼とした廃村であったことを。緑の野山は、自然に作り出されたものと思って暮らしている。政府の視察に来た高官でさえ、すこし疑念を抱いたが、緑は自然に栄え、そこにあると思っている。誰かの手によって、作り出されたものであることを知る人はいない。

 完全に無私無欲で、見返りををもとめない農夫の生きざまは、現代の私たちが忘れ去ってしまったもの。
ただ、そのように生きる日常に心地よさを感じているだけだ。どんな苦難も厭わない生き方。

 自らの生きざまや、仕事が、社会を突き動かす。しかも、社会を心地よく生きる方へ突き動かすことが出来るなら、それこそ最高の生き方ではないだろうか。

 このように生きたいという願望を誰もが心深いところに持っているとは、現代は言いがたい。

そのように生きる事は、格好悪いことと否定されている。
若い子供たちのこころには、欠落したままの生きざまだ。
ぼろぼろの衣服を身にまとい、粗末な食事で、木を植えるなんて、子供たちにとっては、馬鹿らしいお笑いのネタだ。

 木1本植えるのも、すべてお金に換算され、儲からないことはやらないという考えかたが、染みついてしまつている大人や青年たち。この心の貧しさは、無数の寂しい人間を作り出している。

 「金儲けして何が悪い」と堂々とうそぶく社会。都合が悪くなれば、「盗人金」を海外に異動させ、日本の税金や法から意図も簡単に逃れることができる日本。


このような国で日常を営む我々にとって、この「木を植えるひと」の生き方、価値観は全く相容れない、雲の上の話にみえる。

しかし、長い人生、最後に微笑みながら穏やかに死をむかえるよう生きることこそ、最も生きがいある生き方ではないだろうか。
そのためにも、人生のその途上、途上で、立ち止まり、生きる意味を、生きる原点に立ち返って考える事は意味のあることである。

まして、若い人たちは、これからを生きていく人たち、自分の人生を自分の力で切り拓いていく人たち。自分の力で、どのようにでもなる未来を持っている。

そんな若い人々が、ぜひこの「木を植えたひと」の生きざまにふれ、物を「無から有へ」と創造していく時、何が生まれてくるか読み取って欲しい。そのスケールの大きさを知って欲しい。


短編で読みやすいので、じゅっくり読んで欲しい。
更に、ウィリー・グラサウアの挿絵が素晴らしい。荒々しい自然、やさしい自然を、スケール大きく細やかな線描画で描いている。自然の営みが聞こえてくるようである。







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最終更新日  2006.07.19 12:41:05
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