これは、わが家の息子が、未来の伴侶として選ぼうとしているお嬢さんのご両親に、私たち夫婦が書いた手紙である。
全く異なる家庭環境、生育暦の二人が出会い、新しい関係を作り出して、家族という単位で長く社会生活していくことは、人生の一大事業である。多くの困難、壁を乗り越えなければ、出来ないことである。
このような困難に出遭った時、今の若者の多くが、その前でたじろぎ、あるいは面倒に思い、避けて生きていこうとしている。お互いが協働の作業を通して、二人の前に立ちはだかるもろもろの困難を乗り越えたとき、人生のより素晴らしいパートナーとして、相手を認め、愛情を高めていけるはずだ。現代の若者の多くが、その達成感、その生きる充実を体験することなく、結婚に背を向けて歳を重ねている。
面倒をさけ、気楽に楽しく(?)生きようとしている。
わが家の息子の未来の伴侶となるであろうお嬢さんは、現在、就職活動中である。昨年の12月、アメリカの大学を卒業し、帰国。その後、就職活動をしているが、中々思うようには進展していない。悪戦苦闘中である。
この悪戦苦闘は、日本の女子学生が一様に体験していることである。
女性が働きつつ家庭を築いていく困難さは、並大抵のものではない。色々な社会支援が現在ではなされるようになっているが、実際の困難さ、厳しさは、私たちの時代と変っていない。
女性が、子育てしながら、働きやすい社会。
その実現への道程は、まだ遠く、厳しい。
では、なぜそれまでして、女性が働き続けるのか。なぜ、働きつつ子育てしようとするのか。
私自身も、この問いに対して、苦悶しながら、今日の齢を重ねてきた。
若い人々は、この私たちの世代を、更に超えて生きていける社会的な変化、環境が整ってきている。その利点をいかして、さらに素晴らしい人間関係、愛情を育んだ夫婦や家族のあり方をぜひ追究して欲しい。
以下の手紙は、そんな私たちの思いをこめて、私たち夫婦が、議論を重ねて、到達した考えをまとめたものである。
息子のお相手のご両親の心配に、少しでも応えることが出来ればと思い書いたものである。
そして、それは私たち個人的な家庭の問題としてだけでなく、世の親たちが考え、悩んでいることでもあると思いあえて、公開することにした。
『私たち夫婦からの手紙』
(以下の文面で、プライバシーに関る部分は削除、訂正した)
ご夫妻さま
先日は、お休みのところ、ご足労頂き有難うございました。私どもは、ご夫妻にお会いでき、短い時間でしたが有意義な一時を過ごすことが出来ました。
ご夫妻が、お嬢さんを愛情をもって大切に養育されている様子が窺え、そして、娘を思う親心の深さ故に、色々心配、憂慮されている事も、娘を持つ同じ親として、同感の至りです。
ご夫妻のご心配を解消できないとは思いますが、私ども夫婦の考えの一端をお伝えできれば幸いと思い筆を取りました。
若い二人での人生をスタートするに際して、今、二人は色々な困難に直面していますが、私ども夫婦は、これらの困難を、若い二人が自分たちの力で乗り越え、生活を切り拓いて行くことを大切にしたいと思っております。
自立した社会人としての人格の確立、これを、今、あの二人は力を合わせてやっている所です。その子供たちの伸びようとしている力に依拠して、見守ることも親の務めであると、私ども夫婦は考えています。今しばらくは、彼らにそのための時間を与えて、親はあえて我慢して待つことも必要ではないかと思っています。
お嬢さんも、必ずその困難のなかで、悩みながらも考え、行動し、自分の身の丈にあった新しい生き方を見つけ出せるものと確信しています。息子もそのように主体的に物を考え、生活することのできる女性を望んでいるはずです。就職もその一環として起きていると思います。単に経済的利益や体面を保つためだけに、就職先の選別を厳しくしているのではないと思います。 息子は、お嬢さんが、将来、人間として、女性として、大きく成長していける場としての職業を考えて、勢い短兵急に厳しくなっていますが、これは若さ故の未熟さから来ているものと理解しています。その意味で、息子自身も、大人としてもう一回り成長して、お嬢さんに接することが必要ですが、今少し、時間が必要と考えます。親としましても、この点については、息子に成長を促す助言をし続けていくつもりです。
これからの女性が生きていく上で、子どもをどのように育てるかは、その母親がどのように生きているか、どのような家族関係を築けているかが、とても大切なことです。あの子たちが生きていくであろう社会は、今と大きく変っていくはずです。その社会で、充実した有意義な家族を造り上げていくという大きな目標に向かって、二人は歩み始めたばかりです。
お嬢さんの素直で飾らぬ人間性は、とても希少で優れた資質です。そのお嬢さんの良さを更に伸ばし、女性として自立した人格を完成させつつ家庭を築ければ、とてもやさしい心豊かな家庭が出来ると思います。お嬢さんは、まだ若く、色々な試行錯誤は当然であり、困難でもその壁を乗り越えて行くエネルギーがあります。お嬢さんは、まだ歩き始めたばかりです。その意味からも、おおいに悩み、苦しむことが、彼女の素敵な人生を切り拓く力に必ずなります。現実の社会で生き抜く力となります。
これはとても素晴らしいことです。このような困難に出会わず、成り行きに任せて、楽にやっていくような家庭は、未来がなく、二人が望むものではないと思います。
息子は、私どもの夫婦のあり方をモデルにしているところがあるでしょう。お嬢さんは、自分の育った家庭をモデルにしているでしょう。その二人が出会い、一緒にやっていくことは大変な事業です。長い年月をかけて造り上げるものです。今、スタートにあたって出遭っている壁や困難は、その長い道のりを乗り切るための助走です。ここで問題点を曖昧にせず、直視して乗り切ることができたら、若い二人のこれからは、大丈夫。どんなことがあっても力を合わせてやっていけるでしょう。 その意味でも、今しばらく、じっと我慢の子となって見守っていこうというのが、私どもの当面の考えです。遠くから見守り、援助すべき時には、私たちの出来る限りの手を差し伸べていくつもりでいますのでご安心ください。
私たちの思いを十分お伝えできたかどうか心もとない限りですが、私たち夫婦はこのような思いで、二人を見守っている所です。
以下略。
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