誰が戦場で戦っているか?
堤 未果 著 『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書) 紹介の2回目。
今回は、ブッシュ政権が目指した小さな政府によって、公的部分がどんどん削減され、市場原理にまかせた民営化の行き着いた先は何処であったか?を見てみよう。
堤未果さんのこのルポは、アメリカの若者たちの今を記録することで、アメリカ社会が現在陥っている社会の矛盾を鋭く暴きだしている。しかも、グローバル化の名のもとに、出現したアメリカのこの現実は、まさに日本の明日の姿でもる。
2002年春、ブシュ政権は「落ちこぼれゼロ法案」(No Child Left Behind Act)を打ち出した。これは、「全国一斉学力テスト」を義務化する法案である。学力テストの結果については、教師及び学校側に責任を問うものとし、良い成績を出したものにはボーナスがでるが、悪い成績の学校には、助成金の削減又は全額カットするなどである。
競争システムがサービスの質を上げ、学力の向上が国力につながるという論理である。
だが、この「落ちこぼれゼロ法案」は表向きは教育改革であるが、実際は、兵隊の不足を法的に確実に補足する「 裏口徴兵政策」 なのである。その法案には、「全米のすべての高校は生徒の個人情報を軍のリクルーターに提出すること。もし、拒否した場合は、助成金をカットする」という1項目が設けられている。
生徒の個人情報とは、名前、住所、親の年収および職業、市民権の有無、そして生徒の携帯電話番号である。州からの助成金だけで運営している貧しい地域の高校は、選択肢がないために、やむなく生徒の個人情報を提出することになる。これは、個人情報漏洩に敏感なアメリカでは、それまでありえなかったこと。しかし、裕福な生徒が通う高校は、もちろん個人情報など提出していないし、「武器持ち込み禁止原則」によって、軍服を着て武器を携帯した兵士が校内に入ることも禁止している。
米軍は、この「落ちこぼれゼロ法案」によって得た膨大な高校生のリストから、さらにふるいをかけて、、なるべく貧しく将来の見通しが暗い生徒のリストを作り直す。そして、軍のリクルーターたちが直接、生徒たちの携帯に電話をかけて勧誘する。
勧誘条件は大きくわけて、次の5つである。1)大学の学費を国防総省が負担する。2)好きな職種を選ぶことができ、入隊中に職業訓練も同時に受けることができる。3)信念と違うと感じたときは、除隊願いを申請できる「良心的兵役拒否権」の行使が可能。4)戦地に行きたくない場合は予備兵登録が可能。5)入隊すれば兵士用の医療保険に入れる。
若者たちの入隊希望理由の8~9割が1)の「学費免除」である。貧しい地域の高校生がどれほど大学に行きたがっているか、そしてその親たちに選択肢がないことを見抜いた上での巧妙な作戦である。
甘い夢のような勧誘で入隊した若者たち。
実際に入隊後に大学の学費を受け取る兵士は35%。これは学費を受け取る時、前金の納付が義務づけられており(額は1200ドル)、その納付が出来ない為だという。更に、前金をなんとか納め学費を受け取ったとしても、除隊後の4年間の大学を卒業する兵士はさらに15%に過ぎないという。これは、受け取る額(平均2万ドル弱)が、軍が契約の際、約束する(最高5万ドルまで)額を大幅に下回るため、学業とバイトの生活が維持できなく大学を断念せざるをえないからだという。
学費免除についで多いのが、5)の「医療保険」である。2007年1月現在、アメリカ国民の無保険者は4700万人。とりわけ貧困地帯の高校生達は家族そろって無保険のため、入隊すれば本人も家族も兵士用の病院で治療が受けられるという条件はとても魅力的なのである。
しかし、実際は、2003年以降、「退役軍人協会」の予算を年間1億ドルずつ削減、医師、看護師、医療機器及び薬不足のため、帰還兵専用病院が次々閉鎖に追い込まれ、治療が追いつかなくなった。ニューヨーク州にある帰還兵専用病院の平均予約待ち期間は1年である。
このため、帰還後、病院の治療をまともに受けることも出来ずにホームレスとなって社会に掘り出されている兵士も多い。
更に、2007年には、さらなる兵士の不足を補うためか、新しい移民法「夢の法律2007」(Dream Act 2007)を打ち出した。それまでは、ビザを持って入国した移民にかぎって、入隊と引き換えに市民権取得手続きが開始できたのを、ビザを持たない不法移民にもそのチャンスを与えるという法律である。
国内に75万人いるという不法移民は、兵士不足に悩む米軍にとっては、「宝の山」である。この若者達に「教育」と「市民権」という飴をぶらさげることで、素晴らしい愛国心と忍耐力を軍に提供させようという魂胆である。
国防総省の記録によるとイラク戦争が開始された2003年に米軍がリクルートした新兵の数は、21万2000人、そのうち3分の1は高校を卒業したばかりの若者である。
では、大学生はどうか。政府の新自由主義政策の流れで教育予算が大幅に削減された結果、授業料が高騰する。そのため学資ローンの申請者も急増。しかも、学資ローンの貸し出し機関の民営化も急速に進んでいる。このローンは、政府が保証人の役割を果たすことに加え、教育予算から利子補給されるので、貸し手にとっては、非常に割りのいい『ローン』である。金融機関では「学資ローン」はドル箱と呼ばれている。政府にとっては、コスト削減、金融機関にとっては、利益増大。まさに教育への市場原理そのものが貫徹されている。
アメリカ国内の若年層におけるカード借金額の平均は4000ドル。その原因の一つが、成績優秀者に対する返済不要な学資を提供する奨学金制度の予算カットにあるという。奨学金の申請が却下され、仕方なくカードで学費を払い始め、生活費や教科書代であっという間に限度額を超え、次々に別なカードで返済していくうちに、雪だるま式に利子が増えていくカード地獄におちいる学生が多いとう。
その上、4年生大学を出ても賃金の低い職にしか就けず、カード地獄から抜け出すことは困難を極める。 ここで登場するのが軍の 「入隊すると大学費用を負担する
」という「学資ローン返済免除プログラム」である。学資ローン返済免除プログラムの広告サイトは次のようなものだ。
『学資ローン返済に追われていませんか?非情な回収業者から電話で嫌がらせをうけていませんか?私たちはそんなあなたの味方です。現在かかえている学資ローンの返済から自由になるお手伝いをさせていただきます。ご興味のある方は以下のフォームに必要事項を書き込み。。。』と誘い込むのである。国防総省が返済額の大部分を肩代わりしてくれるというのである。
バイトと低賃金の仕事に明け暮れ、それでも借金返済できない若者にとっては、夢のような話。甘いささやき。
更に、驚くべき事は、「 国の仕事は、軍と警察以外すべて市場にまかせる
」という「外注革命」をモデルにして、国の付属機関を次々に民営化していった。
そして、 戦争までもが民営化された
。 それが「イラク戦争」
なのである。
多重債務者や失業者を狙い撃ちで、「素晴らしいお仕事があるのですが」と電話をかけてきて、夢のような破格の給与を提示して勧誘する、 国際規模の派遣会社
である。
あくまでビジネスとして、外国で働く派遣労働者なのである。
それでも、現在の貧困よりはまし、現在のおぞましい状態から抜け出すことができるのではという期待から、戦場へと派遣労働者として出稼ぎに行く。
(40度を超える炎天のなかで1日12時間働き通し、週7日労働。食事は米兵の残りものを列を作って貰って食べ、夜は零下の地でトレーラーにほうりこまれて寝る。それでも、本国の貧困よりましという人々。このような人たちが米軍を成り立たせている)
派遣労働者のターゲットは 全世界の「貧困層
」の人たちなのだという。実際に戦場でその戦いの一部を担っているが、戦死者としてもかぞえられず、ゴミとして捨てられる人々。
米軍は後方支援として、現地でのさまざまな業務を、この民間の派遣会社に依頼している。内容は、基地への食料や武器の輸送から、倉庫内の作業員、電気技師、トラックの運転手、本国からくるVIPの護衛と実に多義にわたっている。
その派遣会社の頂点にある親会社・ハリバートン社。その下に何層もの下請け会社を置くシステムによって、米軍は下請け会社に対して、最低賃金の保障ラインを定めていない。さらに、死亡や負傷にたいしても責任を負う必要もない。勿論、戦死者などにはかぞえる必要もない。
ハリバートン社やその下請け戦争請負会社は世界中に500社以上あると言われている。
この業界で生き残るためには、ここでも熾烈な自由競争の市場原理が働いて、必然的に勧誘ターゲットを生活水準の低い貧困国に向かわせる。人件費をゼロに近く切り詰めていく競争である。
その市場競争を支配し、頂点に君臨しているハリバートン社は、2005年5月には米軍から業務奨励賞および7200ドルのボーナスが与えられた。イラクでの米軍支援の質の高さと、愛国的業務に対して感謝の意を賞したものだ。
ハリバートン社とは、チェイニー副大統領が1995年から2000年までCDOを勤めた石油サービス・建設企業なのである。
ハリバートン社と並んで米軍のコスト削減に貢献している民間会社に「 ブラックウォーターUSA社
」がある。前者が後方支援だとすると、こちらは 戦闘自体を請け負う「傭兵」
の派遣会社である。イラクに派遣された「傭兵」には、監視も法的拘束もかからない。この派遣会社は、主要業務が警備であることから、国務省と契約をむすんでいるために、どんな非人道的な行為も、軍法会議の対象とはならない。
「ブラックウォーターUSA社」の副代表を務めるコーファー・ブラックは、2004年11月まではCIAのビンラディン追跡及びテロ対策部門の責任者であった。彼は議会でこんな発言をしている。
「9・11以前と以後がある。9.11以後の世界はルール無用の世界だ。」
彼らにとっては、まさに「イラク戦争」は、お金のなる木。戦争の大義名分が嘘であろうと、ここで止めることは出来ない。撤退はできない。自らで「貧困層」を大量に作り出す政策を実行し、次には、その貧困層をターゲットにさらに一儲けしようとするこのシステム。
これが「新市場主義」なる政策の究極の行き着いた先だ。
自国の徴兵制などいずれ必用なくなる。
借金で出口ふさがれ、大学に行って勉強したがっている若者たち。貧困から抜け出したがっている若者たち。この若者達のほうが、よほど優秀で愛国心あり、忍耐づよい。安上がりで役に立つ。ビジネスで戦争を請け負う人々。莫大な利潤を得ることを目的とした企業がおこなう戦争。
日本の軍隊、自衛隊は、このハリバートン社の行なっている後方支援を行なっていることになる。ハリバートン社は、米軍のコスト削減に貢献したと報奨金までもらっている。さらに、戦場では莫大な利益を得ている。
日本軍は同じような後方支援や、一部、戦争請負までやって、報奨金をアメリカからもらえないばかりか、まだお前達の貢献は足りない。もっとアメリカ軍の基地のために金を出せと、言われ続け、日本人の税金から莫大な額を米軍に与えている。米軍の使う日常の住宅から道路、NHKのテレビ視聴費に至るまで日本が負担しているのである。
ハリバートン社の待遇にも劣る自衛隊。
アメリカ軍にどれだけの日本の税金がつぎ込まれているか、皆さんご存知か?
後期高齢者の医療費や幼い子たちの保育園を支援する財源はいくらでもある。
堤未果さんのルポ「貧困大国アメリカ」には、ここではまだまだ紹介しきれない、アメリカの今がルポされています。ぜひ若い人たち一読を。
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