成定 竜一~高速バス新時代~

成定 竜一~高速バス新時代~

2010.01.13
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カテゴリ: 高速路線バス
子供の頃「演歌は日本の歌だ」と誰かに教わった。だから、北島三郎や石川さゆりがテレビで歌うような演歌は、ずっと昔(それが江戸時代か平安時代かそれとも邪馬台国の時代かは考えもしなかったが)から日本で歌われていたと思い込んでいた。しかしある日、演歌の伴奏にギターが使われているのを見て驚いた。ギターというのは「西洋の楽器」。「演歌は日本の歌と違うん? なんでギターで伴奏してんの?」と両親に尋ねたら、北島三郎らが歌う「演歌」は、言ってみれば戦後日本の「流行歌」であって、江戸時代のような昔からあったわけではない、と答えが返ってきた。子供の頃のちょっと恥ずかしい思い出だが、「一面的な(ステレオタイプの)捉え方」から生まれる「思い込みの怖さ」に出会った瞬間でもあった。たぶん生活の中には思い込みが溢れていて、ふだんはそれで流している。ただ時々立ち止まって歴史や背景を振り返り、思い込みや常識を客観的に「因数分解」してみるのが私は大好きだ。

例えば業界の常識となった「高速路線バスの共同運行システム」。運輸省の当初の方針では「高速バス」に参入できるのは国鉄バス、または沿線の路線バス事業者が共同出資した高速バス専業者(日本急行バスや東名急行バスなど)に限られていた。一方で高速道路の延伸が進むと、一般道を使う長距離路線バスがその区間にもともと運行されていたりする。沿線を事業エリアとする路線バス事業者が「相互乗入」を行なっていたのだ。必然的にそれが高速道路に乗せ換えとなり、結果として「高速バス」となっていく。路線バス事業者が自ら高速バスに参入した端緒である。そもそも一般道で結べる距離だから隣接する事業者同士(例:京王/富士急、西鉄/九州産交)がほとんどだったが、やがてより長距離路線を開設する動きが生まれた際、中間事業者の扱いなど様々な課題に直面し、最終的には「起終点の事業者同士の共同運行(例:京王/西鉄の新宿-福岡線「はかた号」)」という制度が定着する。私が 「第2フェーズ」 と呼ぶ時代だ。

では、その共同運行の「意味」「意義」とはなんだったのか。それは決して一つではない。まず、当時は「路線権」という概念が大切にされており運輸省としても免許秩序の維持を最優先していたから、起終点に路線権を持つ事業者同士のペアでないと開設を認可しないという方針には説得力があった。また、地上設備(ターミナルや車庫)を相互利用することで余計な投資を不要とするなど、運用面において目に見えるメリットが大きかったことも間違いない。それらが、「事業者が自ら認識していた意義」である。

一方、私が重要視しているのは、当時彼らにも見えていなかった「隠れた意義」の方である。大きかったのは、路線バス事業者が自ら高速バス事業に参入したことにより、地域で大きな存在感を持つ路線バス事業者が「自らの商品として」「本気で」高速バスを売り込み始めたこと。それが、特に地方側において高速バスの認知を急激に高めることとなった。様々な経緯の末、生きた化石のように「第1フェーズ」(JRバスが独占)の面影を引きずっていたものの近年になって静岡鉄道らが高速バスに本格参入した結果、高速バスが急成長した静岡-東京の高速バス事情はまさに「遅れてきた第2フェーズ」である(逆に、同じ状況ながら距離が少し長いため高速ツアーバスに向いた市場である仙台-東京は、一足飛びに「第3フェーズ」化し高速ツアーバスの草刈り場となったが…)わけだが、他のほとんどの県では1980年代にそれが起こっていたのである。

で、いつも書いている通り大都市側では路線バス事業者の販売力は結果としては発揮されなかった。路線バス事業者のマーケティングは常に「沿線」を対象とする。地方において路線バス事業者の「沿線」とは地域全体を覆う「面」であるのに対し、大都市の私鉄系事業者にとって沿線とは、文字通り「線」でしかない。考えて欲しい。小田急電鉄(京王であれ阪急であれ)が、系列の百貨店やホテルやスーパーのマーケティングを沿線で行なう。これは非常に効率がいい。小田急沿線の住民が買い物や結婚披露宴をする際、小田急のターミナルである新宿に(または郊外の最寄り駅に)立地する店舗は、銀座や池袋に比べて非常に優位性がある。私鉄系の流通やホテルはそのアドバンテージを大いに活用し成長できた。しかし高速バスの場合はそうではない。小田急グループは沿線で新宿発の高速バス(箱根行きや秋田行き)を告知できるが、小田急沿線の住民が「新宿からバスがあるから」という理由で「次の出張は秋田」と決めるわけはない。大手私鉄の沿線マーケティングは、流通やホテルには有効だったが高速バスには十分とは言えなかったのである。

では、そもそも「路線権」概念が公式には消滅した今、大都市の私鉄系事業者は高速バス業界に果たせる役割はないのか。とんでもない。首都圏や京阪神という「まだ掘り起こせていない広大な土地」に向かい合えるのは彼らなのだ。巨大市場において本気でマーケティングを行なうには、空中戦、地上戦、硬軟織り交ぜたあらゆるアプローチが必要だ。たしかに人件費などコスト構造が高めで運行から上げられる利益は大きくないが、多数の地方側事業者と共同運行を組む「ハブ」である彼らには多くの情報が集まる。大企業ならではの優秀な社員も多い。彼らは「高速バスの頭脳」としての役割を担うことができる。大都市側事業者は自身が持っているリソースに早く気付くべきであり、そのリソースを活用できるようビジネスモデルを変化させていくべきである。一共同運行事業者として運行から稼ぐのではなく、ウェブマーケティングの積極活用も含め「集客」「ブランド」、そして都心ターミナルの提供など、よりソフト側で収益構造を確立すべきである。

本当は、そこに競争原理が生まれれば高速バスはもう一皮剥ける。大都市側事業者の努力が足りなければ、「集客とブランドのためと思って○○電鉄バスと組んでるけど乗車率は伸びないし、契約を切って他の大手私鉄系と組むか」と地方側事業者が言い、逆に組むメリットが大きい大都市側事業者があれば、地方側事業者はそのパートナーの座を争う…。路線バス事業者のメンタリティを考えるとそこまでは無理と言われるかも知れないが、高速バスを成長させるチャンスがそこに隠れていることを考えると、「業界の常識だから変えられない」などと言うのはなんとも悔しく、私としてはあきらめるつもりは一切ない。





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Last updated  2010.01.13 18:48:48
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共同運行とは談合では?  
ぴよれ さん
 はじめまして。今日はじめて拝読しましたが、大変興味深い記事でした。私は某大型車メーカーで開発の仕事をしております。バス車両にも少々関わりがあります。

>では、その共同運行の「意味」「意義」とはなんだったのか

 このことですが、私は「官製の意図せぬ談合」(あるいはカルテル)だったのではないかと考えています。
 官が指導した共同運行システムによって区間の需給と価格を完全にコントロールできました。官の主導による制度故に公取からの排除も無しです。それ故に、(他のあらゆる談合体質の業界と同様に)高速バス業界は徐々に競争力を失っていったのだと思うのです。談合はゆっくり回る猛毒です。コスト、提供商品の革新性、ニーズの変化への対応が、ある時期以降、止まっていたのではないでしょうか。
そしてツアーと言う黒船が来た時、自分たちが談合体質でやってきたと言う罪の意識が無かったから、妙な被害者意識が先立って、有効な競争に持ち込めなかった。webマーケティングでツアーに先行されても、同じ土俵に登ろうともしなかったのは、被害者意識故だと思います。
 ツアーと言う黒船が来て、大慌てして、ようやくこの数年、路線が変化できるようになってたと感じます。特に、「化石」だったJR系が地力を見せながらなんとか変化しようともがいていると思います。路線事業者も、高速を新規に事業開拓していた時代の気持ちに戻って、何処にニーズがあるのか、色々やってみて欲しいです。 (2010.01.28 22:09:00)

Re:共同運行とは談合では?(01/13)  
ぴよれさん、はじめまして。コメントありがとうございます。またご返信が遅れ申し訳ありません。

さてさて「談合」の件ですが、純粋に法的に見ると、公取委は共同運行(厳密にはその結果としての運賃プール精算)を「不当なカルテル」だと何度か指摘していますね。余り厳格には運用していないようですが。そんなことされたら高速路線バスの多くが違法ということになってしまいますしね。もっとも、例えば貸切バスで言えばいちおう公示運賃というのがある一方、旅行会社どうしが貸切バスのチャーター代を示し合わせると(それも決して高い金額ではないのに)カルテルとして旅行会社が摘発されていますから、法律の解釈というのは単純に白か黒かではなく難しいものだなあと思います。
一方、ではその「ある種の談合としての共同運行」が、世の中のため業界のためその他の面でいいのか悪いのかという「本質的な意義」で言えば、高速バスを「公益的事業」と捉えれば是で「収益事業」と捉えれば悪、ということだと思います。どの病院でも同じ治療なら同じ金額というのが「カルテルだ!」と非難されないのは「医療」の性格がその理由でしょうし、一方で公共事業の入札や一般的な商業でそれをやれば納税者や消費者に不利益を与えると摘発されるでしょうし。そして私は、高速バスについて「公益的事業」用のルールをそのまま当てはめたのは、ある時期には意味があったけれど現在においては改めるべきだ、という考えなのですが。
そして、既存事業者に挑戦者の心を思い出してもらいたいという点、全く同感です。
メーカーさんという、バスへの思い入れは強くしかし客観視できるお立場からのご意見は興味深いので、ぜひご愛読とコメントをお待ちしています。

それにしても「談合はゆっくり回る猛毒」とは名言ですね。厳密に言うと「無競争状態はゆっくり回る猛毒」ということかも知れませんね。 (2010.01.30 19:35:12)

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