Laub🍃

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2010.03.23
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『すきDEATH』


**********



ある所に、モルテという少年が居た。

モルテが「すき」と言った相手は、全て死んでしまった。

モルテは死神のように忌避されるようになった。

モルテも「すき」などと言えなくなった。



心の中で何度もすきだと思うのだ。

けれどそれを相手に伝える術がない。




それでも、モルテの好意は地道に伝わることはあっても、言葉で形にされていないからと軽く扱われる。
いつでも破られる、実行もされていない口約束の方が重んじられる。

他人を妬みたくないのに、そうでもしないと自分の立っている場所が毎秒ごとに崩れそうになる。

モルテはある童話をよく思い出した。
口をきくと大事な兄の呪いが解けなくなってしまうからと、自分が死にそうになっても喋ろうとしない少女の話を。

モルテは少女に幾度も励まされた。

愛したいのだ。
話したいのだ。
形にしたいのだ。
愛されなくても。

いや、やはり、愛されたい。



たまにもらえる好意の言葉。
たまにもらえる好意の態度。

それさえ失ったら生きていけない。





これは何の呪いなのだろう。


悪いことが起きないだけなのに。
他の人達はそんな咎など負っていないのに。


たまに何もかもを壊したくなる。
愛してはいけない世界を憎みたくなる。

興味がないと全てを捨てて逃げ出したくなる。





モルテはある日思い立った。
生まれた意味を地の果てまで探し、見付からなければそのまま死んでしまうことにした。


見付からなかった。
生み出せなかった。

モルテは自分のことを好きとでも言えば死ねるだろうかと声を出そうとした。

死にたくないくらいには自分のことを好きだと思っているだろうと。



けれど、自分のことをいくら好きと言っても、モルテは死ねなかった。







モルテは、死にかけた人を愛するようにした。

そうしたらいくらでも、本気で好きと言ってもいいのだ。

モルテは依然死神と呼ばれたり偽善者と呼ばれたり、忙しかった。

それでも、モルテが与えた沢山のすきを抱えて死んでいくその相手は幸せそうに見えた。



モルテは幸せだった。

自分の人生を肯定できたと思った。


「こういう人生なら、好きに生きられるかもしれない」







モルテは死んだ。

幸福の中で。





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最終更新日  2017.11.22 15:32:18
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