Laub🍃

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2012.03.28
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カテゴリ: 🌾7種2次裏
*末黒野花の提言


そのチームは異様だった。


何かどうしようもなく破綻している雰囲気があるのに、抑えきれない憎悪があるのに、それらを発散できない要となるものに縫い付けられ縛られているような言動を取る。


その原因が、あたしのかつて父親のように慕っていた『めーちゃん』だなんて、誰が思うだろう。




*猪垣蘭の提言



夏Aの存在を、文明の滅んだこの世界では便利で半ば自立している人間兵器のようなものと例えるなら、百舌はさしずめ人間兵器群のコントローラーというところだろうか。

「安居、そこまで」
「要先輩…」
「それをする必要はない。分かるな?」


その傾向がもっとも顕著なのが、頻繁に銃を取り出す威圧的なリーダー、安居だということもまたこちらの頭を悩ませる。

「……なんつーか、温室育ちらしいよな、あいつら。温室の屋根と放水機があの百舌でよ」
「秋ヲさん、また喧嘩になりマスよ」
「大丈夫だべ」

上に支配されたくなくて、それでも生き残るしかなかったあたし達にとっては、その姿はとてつもなく不快で、けれど。

「……茂は…どう言うだろうな、涼」
「…寝ろ、安居。とにかく睡眠と食事をとって、日々の仕事をしていれば悩む必要はなくなる」
「……ああ……」

それに抗うように、そいつの人間臭い、感情を動かす部分が蠢くのは、荒れていた頃の自分達を思い出すようで。
今日もそいつから目を反らす。



* 新巻鷹弘の提言




茂さんに生かされ生き残った安居。吹雪と美鶴さんに生かされ生き残った僕。
未来を意識して17年生きてきた安居達。未来の世界で15年生き延びた僕達。

どこか似た部分はあるのに、こんなにも性格が違う。
こんなにも違うのに、虚しさとやり場のない怒り、そして自己憐憫にも似た何かが似ている。


だから僕が安居に抱く感情は同族嫌悪なのかもしれない。







この世界であたしや他の人達が、少し気楽に、けれど不安に生きてきたのは、あたし達を管理する色々なものがなくなったからかもしれない。

ふかふかの布団もウォシュレットも生理用品も書物も学校も将来なる夢も何もかも水の下に沈んでしまって、あたしのナッツも父も母も弟も先生も同級生も皆骨と塵になっている世界。


だけど、安居君たちには百舌さんが居た。
骨にならずに、その目で常に見続けられてきた。


それを安居君は、頼れる安堵と切り捨てられる不安半ばした目で受け入れている。


「逃げられる内は逃げちまえばいいんだよ、あんなの。せっかく今はだだっぴろい世界で、あいつも大きく育ってて、管理する奴はあの百舌とかいうオッサンしかいねえってのに、なんで未だに縛られてるんだか」
「……犬を使った実験で、幼い頃から拘束し続けて自由を奪い続けていた犬って、成長してもそれを振り払えないらしいです。体格的には立派に脱走出来る筈なのに。……野山に、自分が捕らえられそうな動物が居ても、雨露凌げる場所があっても、その世界を知ろうともしない……」
「……いつか、色々な本音を、吐いてもらえるといいよな。……ナツとも、蝉丸とも、はじめと比べて段々深い話とか、何気ない話までできるようになってきた気がするから、安居さんともそんな風になれたらいいんだけど」

手負いの獣のように、安居くん達は怪我を隠している。
安居くんにとっては、その怪我の実情を詳しく打ち明けられるのが唯一、百舌さんと涼くんなんだろう。
隠しても無駄だから観念していると言ってもいいかもしれない。

だけど、その百舌さんと涼くんに関係する傷は、未だ打ち明けられず膿むばかりなんじゃないか。
……なんて、これはあたしの勝手なみとりに過ぎないけれど。


あの少しずつ白が増えていく髪を、増えていく隈を、悪夢の一部分を、いつか訊けたらいいのに。
いつも助けてもらっている分を、返せたらいいのにな。



* 佐藤涼の証言



殺してやりたかった。

貴士先生や卯浪がそこに居たならましだった。
奴らなら遠慮呵責なく殺せた。


なのに要さんのことはそうできない。

まず安居が庇って、源五郎が止めて、鷭がおろおろしていて、虹子は皆を冷静な目で見ていて、……当の要さんはといえば、平然と、殺されないことを当然の事実として捉えている。

俺も、小瑠璃も、あゆも、銃口を降ろすしかなかった。


殺してやりたかった。

事故に見せかけて、あるいは対立の契機に、あるいは他のチームの人質にとらせて、あるいは行方不明を装って。

だけどそれをやったらただでさえ半壊している安居が更にどうしようもなくなってしまいそうだったから、俺は猶予を作ることにした。


果たして死神は誰なのか。

俺がその役目なのか。

もう俺達は騙されたくないのに、要さんの目は貴士先生と違って善意と冷静な判断で満ちているから、従ってしまう。
その要さんが癌なら、安居の為に殺すべきなのか。それは加点なのか。
安居がリーダーを続けるには、要さんは必要なのか、不要なのか。

殺してやりたかった。

どうしようもなく花との相性が合わないからと、最後のチームを捜して旅に出た安居。それを半ば強制的に命令によって実行させた要さん。……そんな二人が心配でついていった俺。

胎児のように丸まって眠る安居の前、ナイフを研ぐ要さん。

一点の隙も狂いもなく処理される動物に焚火に、それらを隠す後始末。

いつかこんな風に安居も処理されてしまうのではないかという馬鹿馬鹿しい妄想が過る。


最近眠れていないんじゃないかと同じく隈の酷い安居に言われた。

誰のせいだと思ってる。



* 百舌戸要の証言



心配だった。
あいつに任せられないと思った。
人的資源を無駄遣いしたくなかった。

それだけのことだ。


今日も空は空虚で、水の下の都市は静かで、私達は生きていて、目の前に馴染んだ顔がある。

それだけで十分だろうに、何故皆がそれ以上のことに拘るのか、私には分からない。





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最終更新日  2018.03.02 19:36:04
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