Laub🍃

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2012.08.03
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配達業に、良いイメージを抱く者は少ない。
トラックの運ちゃん。
ピザの宅配。
Amazonの人。
新聞配達少年。
テレビとかでたまにやってる、空港の運び屋。
雨の日も風の日も戦って、時には国家権力とさえ渡り合う仕事。

だけど、つまるところそれは手先として扱われる仕事ってことでもある。

僕の兄さんもその一人だった。


友人にはなんとなく話したくなかった。

「……大変そうだねぇ」

ほら、その顔をされるから。




だけど、異世界にやってきて初めに僕は「なりたい」と思った。

どこまでも高く、自在に空を駆ける配達人。
どこまでも速く、危険を掻い潜って情報や物や人を届ける運び屋。

そうだ、女王蜂よりも働き蜂の方が何万倍も美しいじゃないか。

僕の異能は、そんな僕の想いを反映するように、烏になる力を与えてくれた。

僕は孤島と名乗るお兄さんに師事した。
孤島さんは真面目な頑張り屋で、奥さんと最近できたという娘さんのことを誇らしげに話していた。



眼鏡の奥、孤島さんは嬉しそうに目を細める。
そうだ。僕も、誰かの為に頑張ることさえできれば。
喩え他のことが辛くても耐えられる。

「といっても、俺もまだまだ駆け出しだけどな。一緒に頑張ろうな、後輩」
「はいっ!!」


嘘だ。
きっと誰かに嵌められたんだ。
そう思って、毎日孤島さんの奥さんや娘さんの所に差し入れと様子見の為に出入りして励ました。

毎日沈んでいく奥さんの表情を、どうにか明るくしてあげたくて。
わけのわかってないような娘さんに、どうか綺麗な空だけを眺めてほしくて。

それなのに、どうして神様は無慈悲なんだろう。



ある日、同じように扉を開いたら。
そこには誰も居なかった。
差し押さえの紙だけがあちこちに貼られていた。

「……ルナ、ちゃん……?もう、大丈夫、だよ、出て、おいで……」

声をかけた。
もしかしたら、あの子だけは奥さんが隠しているかもと。
お伽噺で狼に襲われた最後の子ヤギみたいに、小さな体をどこかに押し込めて、助けが来るのを待っているのだ。

「るな……」

ぼさ、と音がした。

ルナちゃんかと思ったら、僕が落とした荷物だった。
気が緩むと同時に、ぶわりと目に熱が押し寄せた。


俺達と同じ運び屋が、俺達の大事な人をどこかへ連れて行ってしまった。


そう、分かってしまった。

「るなちゃ……」

誰か。

誰か、僕に力を。

どんなところにでも飛んでいける力を、大事な人の声を聞き取る耳を、全てのものを見通す目を。

「どこ……」


「……なあ」
「……?」


いつの間にか。

本当にいつの間にか、家の中には男が入っていた。
まるで窓の隙間から入り込んだかのような自然さで。

「大事な人の居場所、知りたいか?」
「……お前がっ」

お前が、攫ったのか。
そう叫ぼうとした瞬間、俺の口はそいつの手のひらで塞がれていた。

慌てて手足を動かすーが、動かない。目だけ動かすと、何故か部屋の中の男とそっくりな奴らが、俺の腕と脚を掴んでいた。
なんだ、こいつら。

「「「俺じゃないって」」」
「!?」

「あーあー、もっとまともな登場すればよかったかな」
「でも半端な登場だったら誤魔化されるだろ」
「そうそう。少なくとも力があるってことは分かってもらえるしー」

同じ声なのに微妙に口調の違うそいつらに怖気が走る。

「君が探してる人は、簡単に言うとお父さんの借金のかたに連れて行かれました」
「このままだと返済で一生を終えます」
「だけど、君が協力してくれるなら、その借金の額を減らしてあげる」

「……」

借金、と一生、という言葉だけが頭に入って来た。

「「「俺の手を取りますか?」」」

掌が外される。
一瞬それに噛み付いてやろうかとも思ったけど。

「……わかったよ」


いつ来るとも分からない未来。
どうなっているかも分からないあの人達の為に、俺は悪魔の手先の手を握った。




to be continued...?





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最終更新日  2017.04.30 23:37:09
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