Laub🍃

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2012.09.15
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カテゴリ: .1次メモ
 メーオ様、メーオ様、早くまた会いたい。

 私は今日も起きて一番に髪を梳かす。背中まであるまっすぐな黒髪、メーオ様とお揃いの。
「私たち、お揃いの頭ね」

 その言葉を思い出すだけで浸れる至福、美しい思い出。
 何代も何代も繰り返されてきた奇跡。

「…ん……」

 我に返る。傍らで、毛布の中眠りこけている黒い頭には、あの美しい黒の角がない。
 おまけに同じ黒でも質は悪い、中途半端に跳ねている。

「……はあ」


 『彼女』とそっくりなメーオ様に仕えられるまでは。






「起きてください、メイス様」
「……ん?……あと、すこ……いや、起きる。起きますすみません」

 はじめからそうしていればいいものを。我が現在の主メイオスはもたもたと支度を始める。そろそろ見張り当番を交代しなければならない。
 西の人々がこういう時は羨ましくなる。大陸内に限り、ほぼ全土に一瞬で飛べる能力。他国に行く時も帰る時も、海辺から自宅までひとっ飛び。泥臭い野宿なんかしなくてもいいし、変な輩に絡まれることもない。
 東でも魔方陣の開発は進んでいるけれど、どうにも水が合わないようで。

「……ご苦労様。と、言っても意味ないか」
「……」

 王子の独り言がうるさい。

 まあ、業務に徹しているだけ、能力の割に減らず口を叩く本体よりは大分ましだが。

「異常はなかったか?」
「ノー。いつもとおなじです」

 気力と言う概念のない彼女はいつも見張り兼他の見張りの結界役を務めている。
 生気のない目はこちらまで眠くさせる。

 と、思いを馳せていると王子が動く。

「そうか。……大丈夫か?サラ」
「あっ、ごめん、ちょっと寝てた……」
「いや、大丈夫。僕が起きるのが遅かったからいけないんだ」
「ええ、全くです」

 いくら30程度の若輩とはいえ、これくらいは王の血を継ぐ者としてきちんとしてほしい。敵兵の来襲時にろくに頭も働かないようではすぐに殺される。王子に対しては別に生き延びてほしいとは思わない、むしろ早く居なくなってほしい、顔を見ないで済む生活にしたいものだがそれも王子に子供を残させてからの話。

「あれ?コルク。起きていたのか?」

 斜め後ろに気配。王子と違って寝起きのいい勇者は、自分の当番でなくともたまに起きて、人の様子を見ている。

「……ああ。」
 だが今日はそれとは違う……明確な目的を持って起きていたように見えた。

「今誰かと話していなかったか?」

 王子はこういったことには目鼻がきく。王宮では私たちの機嫌を取る事くらいにしか使われていなかった観察眼。

「誤魔化せないな。この間の、魔族の女の子だよ。仲間に勧誘できないかと思って」
「…………それは、難しくないか?だってあの子、相当人の話訊かないような、説明書を読まないような、そんな感じじゃなかったか?」
「そうだね…私も人のこと言えないけれど、いつも切羽詰まって、追い詰められているようだった。そして、猪突猛進。そういう子が、仲間になってなんて言われたら余計に反発してしまうんじゃない?仲間になっても、お互い信用できないかもしれないし…」
 サラも答える。どことなく同情的な表情。
「まあまあ、僕が世話焼くし」

 ……私は、あの少女の正体と目的に、なんとなく見当がついている。

 大方チヅル辺りが、侵入者である「勇者」たちの力量を量るために打ち出した作戦の一つだろう。
 私たちに「早く帰って来い」と言わず、まとめて攻撃させている辺りきっと私達との連携も観察しようとしている。

 ―――それは、おそらく。

「仲間になったらきっと、楽しそうだし」

 「勇者」を私たちの「仲間」として支配下におくために。




***


適当な所で「君たちの仲間の一人は私たちの王子(魔王)です」って言って戦闘意欲を奪い、
魔族になればこんなにいいことあるよと魔族化勧誘を仕掛け、
人間のままでいるにしても協力してくれるなら援助するから一緒に西や南支配に乗り出そうぜって切り出すつもりの大寺院尼僧たち。

 知識に飢える彼女達は、世の中のあらゆる謎を解きあらゆる魔術を自分たちの体系に組み込みたい。
 優しい顔で近付き、相手をどろどろに甘やかし、相手が気が付いた時には全てを吸収された後。
 それが東の寺院の理想。


***


南→魔王は生き延びたい、騎士は魔王を守りたい
西→魔王は楽しみたい、他領主・国民は下剋上したい
東→魔王は殺されたい、尼僧達は知りたい
北→魔王は生き延びたい、そして国民を守りたい





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最終更新日  2016.06.26 00:37:38
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