Laub🍃

Laub🍃

2012.10.02
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カテゴリ: .1次小
あの子に手を伸ばした時は、いつも暗闇の中だった気がする。
 日中は暖かさと日の光が浄化してくれる、けれど日が沈むと自分の澱みに耐えきれなくなるのだ。
 普通の人はきっと遊ぶことやただ眠る事でこれを晴らしているのだろう。
 あるいはなんでも打ち明けられる友達と互いに話し合うのだ。

 あたしにはあの子しか居なかった。
 父さんは家に居なくて、母さんはすぐ殴って来る。
 あたしにはあの子以外に誰にも頼れなかった。
 だって他の友達はみんな裏切りそうだったから。

 弱くて、あるいは愚かで、あるいは性格が悪くて、あるいはあたしを憎んでいるのを外面で隠していて。


 けれどそんな暗い世界の中、たった一人あの子だけが立ち止まってこちらを見てくれていたのだ。
 そして、手を伸ばしたら必ず掴んでくれたのだ。

 強くなくて良かった。正しくなくて良かった。
 その子に絶対的に赦されていた。

 あたしの幸せの場所は彼女というお月さまの近くだった。

 時間はそれを隠すビルだった。返事が遅いと不安になった。そういう時は泣きながら世界への呪詛を吐きながら眠りに着いた。
 言葉を貰えればそれを噛みしめた、星屑のようにまたたく金平糖のように甘いそれは世界への祝詞を臆面もなく吐き出させるに十分だった。

 けれど、それはもう駄目なのだ。あの子はもう泡となって消えてしまった。
 もう失わないように。もう絶対に得ない。握りしめない為に、手に入れない。

 暗い世界で墨汁をひっくり返した世界の中であたしは泳ぎ切ってやらないといけない。
 息継ぎが出来なくても、あの子というゴールを見失っても、それでも泳ぎ続けなくちゃいけないのだ。



 あの子と居た夜を守る為に。





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最終更新日  2017.04.04 02:48:07
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