Laub🍃

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2012.12.03
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その計画に誘われたのは偶然だった。
 子供を亡くした妻を慰められない俺に、そいつはこう言った。

「代わりの子供を用意しましょうか」

 当然反発した。けれどそいつは家に、息子とそっくりな子供を連れてきた。それはそいつの誇る、ホムンクルスとやらだった。
 妻は当然喜んだが、じきに息子ではないと気付いてパニック障害を起こした。
 もう関わらないでくれと妻の肩を抱き叫ぶ俺に、そいつは言った。

「中に魂をあげましょうか」



 作り物の魂に妻は喜んだ。当然だ、そのために思い浮かぶ限り息子の情報を集めたのだから。毎日泣き暮らし、夜もろくに眠れなかった妻はもう居ない。
 ……だから、喜ぶべきなのだろう。



 どうやら俺が最初の配下だったらしい。

 それから、権力者に復讐をしたいが無駄死にさせられる味方を持たない者、治験や解剖の実験台を求めている者、……俺の妻と同様誰かを亡くした悲しみに耐えられない者の為、ホムンクルスを作り続けた。時に他の動物と掛け合わせ、時に能力や耐久力の限界を測り、時にホムンクルス同士の融合実験もしながら、生み出し続けた。

 妻は今日もホムンクルスのお蔭で笑っている。
 俺のやっている事は正しい筈だ。

 けれど、一応、描き残しておこう。

**


 気が付いたら、頭だけになっていた。

 俺の頭と体を切り離したそいつは言う。

「あ た れ は く う」

「お まえ た る」



「……!」

 妻の名を呼ぼうとした。
 声が出なかった。

「あ な はだ れ」

 妻の声に似ている。いや、息子の声にも。しかしそれは俺の体を食べる度に俺の声に近付いていく。



「××様!」

 その時、誰かが駆け寄ってきた。ようやくここがラボであると思い返す。暗くなっていく視界の中、そいつが何か言った。ああ、これが最後の記憶か。

「ーーー!何故だ、町中で、さんざん暴走しないか確認したのに!」

 ーーーなんだ。息子は、妻は、ただ”食べられた”だけなのだ。それなら、まあいいかーーーーーーーーーーーー俺のように、誰かを食い物にすることなくーーーーーーーーーーー






ああ、書き残すのを、忘れた。

最期の、最期に、ちゃんと、描かないと。
書くものが、ない。
いや、これを、使えば、いいか。

赤黒い、インク。








勉強を・・・しないといけない・・・誰かを救うために・・・・・・もう誰も傷付けない・・・犠牲にしない・・・ため・・・な・・・あ・・・

だがしかし・・・・・・・・・これはまぎれもなく・・・人体実験の・・・・・・・・・・・



**



気が付いたら手の中には古びた本があった。

・・・
お伽噺の本だ。

・・・・・・
そうでないといけないとされている本だ。


今年も、来年も、ずっと、お伽噺と言う事にしていれば、問題にはならない。燃やされない。

国語の授業でだって作り話でなら使われる。

そうやって成績だけを気にしていれば、当たり障りなく生きていけばいいのだろう。

(だからけさなければならない)

はやくこんな違和感なんて、忘れないといけない。

見当違いの正義漢の行動なんて、よさなければならない。

そう、でも。



す・・・


「!」


気が付けば、隣にもう一人、誰かが立っていた。

「あなたも、この本が気になるの」
「・・・・・・ ・・・ か」
「・・・!ええ」


僕らは、通じた。通じ合ってしまった。

だから一人では踏み出さないような地獄の一丁目へ、自ら入っていってしまったのだった。



to be continued... ? 最終更新日 2017.02.16 23:09:22





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最終更新日  2017.03.20 16:11:56
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