Laub🍃

Laub🍃

2013.04.05
XML
カテゴリ: .1次小
男には何もなかった。

かつて男は栄えた一族の当主だった。

男はいつか自分もその一族を継ぐのだと思っていた。

なればこそ、子供の頃から努力をした。子供の頃からその道を選んだ。

能力はついた。精神は未発達なままだった。
問題も多数起こした。
ーそれなのに、男の父ー、前当主はそれをもみ消し過ぎて、結果心労で倒れた。

男が一族を潰したようなものだった。

男は焦った。


家と未来がなければ男に夢も目標もなかった。

唯一男を見捨てないと思っていた、許嫁さえ男を見捨てた。

「あなたは仲間を大事にできない」

「だから、あなたを囲むものがなくなったらあなたには誰もついてこないのよ」

そう言って、彼女は去っていった。

「…俺には高値の花だったもんなあ」

彼女もまた、男の父に斡旋された相手だった。
初めに会った時、こんな人間と付き合える筈がないと思っていたのに案外気さくで、もしも付き合うことが出来たらと、それでもやはり男は自分の性格の虚無を自覚していたので無理だろう、きっと破綻するだろうと思ってもいた。

「まさか、こんなに早いとはな」


男は割れた差し押さえだらけの部屋に帰って、押し入れの戸に背を預ける。

この家は自分だ。




何もない。


それが露わになるのが遅かっただけだ。


男は、押し入れの中に上り、天井板を外す。

そこに残った唯一の財産。

男の唯一の自由。






男は拳銃を自分自身に向けて力強く引いた。
















三日後、男はまだ生きていた。


撃ち所が悪かったせいで、死にきれなかったのだ。

頭に引くのはこの期に及んでまだ怖かった。
腹なら刺されたことがあるから平気だと思えた。

心臓を狙ったつもりだったのに。


何度も何度も死にぞこないの間後悔した。

ここでこうして腐っていっても誰も惜しんでくれない。

お前はこんな人生でいいのか。

これまでの人生で失ったものを取り返そうとできないのか。

しかし、これまでの人生で失ったものは男が沢山傷付けて壊してしまったものばかりだ。
せめてもの償いと言えばこうして苦しんで死ぬことぐらいではないか。


 ー俺の顔が分からなくなった父は俺の死くらいは認識してくれるだろうか。
 ー俺は来世なんてものがあるのなら今度はもっとまともに生き直せるだろうか。


 ー彼女も、そうしたら認めてくれるだろうか。

 -報われない世界で生き続けられるような人間なら。


 他者の人生を消費し続け、手持ちが尽きた。
 そう男は自分の人生を捉えて、意識を手放した。


















お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2017.09.06 13:43:58
コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: