Laub🍃

Laub🍃

2013.04.25
XML
カテゴリ: 🍷流血女神伝

















「お前、馬鹿じゃねーの!?」
馬鹿に馬鹿と言われたくない、と思いつつ、言い返すことも出来ず
ギアスは現状に身を委ねた。



・・・





ーーあまり来たことのない町で迷子になり、ギアスは途方に暮れていた。
似たような地形が、この街にはあまりにも多すぎた。また、人の少ない方を選んで走ってきてしまったので、
道を訊く相手も居ない。勿論、自分の走ってきた方向など分かるはずもない。

「・・・せめて、星や風が分かればな・・・」
海図は得意分野だ。また、毎日の作図でそういった方面での方向感覚は鍛えられている。
だがもうとうに日の光の恩恵を失い、段々と暗くなっていく空には、
雲が立ち込め星さえも見えない。
風もほとんど凪いでいる。

「・・・弱ったな・・・」

余裕がある時ならば、一歩一歩確実に道を覚え、来た方向を導き出すことが出来ただろう。
だが、さきほどの動揺と、誰も居ない所で景色が暗くなっていく不安が胸の内をよぎる。
そろり、と脚を踏み出すが、一気に歩くことはできない。余計におかしな方向に行くかもしれないという不安があった。

しかし。それよりも何よりも怖いのは・・・


「・・・・・・・出航って、今日だったような・・・」
嘆息する。

ギアスにあるまじき失態だ。
「3時ごろにはもう店出るし」と言っていたコーアの言葉を思い出す。
・・・今は何時だ。
腕時計を見る。6時。

出航の時間は9時だ。

「・・・・・・行こう・・・」

着く。
私の力量なら着けないということはあるまい。
そうだ。そうだ。そうだ。そうでないと・・・いけない。

おそらく、中傷や揶揄を受けるだろう。1ヶ月や2ヶ月の謹慎ではすまないだろう。
それよりも何よりも怖いのが、同じ海軍の世界に生きる兄たちの存在だった。
兄が、自分の失態によって、言われのないことを噂される。
それだけは、本当に阻止したい。

「行こう、行こう、行こう、行こう、行こう、行こう、行かなければ行かなければ行かなければ」

心臓のドッドッドッドッという音がうるさい。
自分らしくない、焦りが胸を幾度となく過ぎる。

「行かな、ければ・・・」

ふら、と身が意思と関係なく動き、寂れた、元は店だったのだろうと思わせる建物の看板に、肩がガンと当たる。

「あ」と言う間もなく、上部で看板を吊っていたひもが切れるのを見た。









「・・・・・・ぐ・・・・」
どうやら、自分は一瞬気絶していたらしい。
そう思い、体を持ち上げようとする。

「・・・・気が付いたか」
「・・え・・?」

自分の体の前の圧迫感は、地面ではなかった。
地面のように豊かな色の、たくましい肉体。
「コーア・・・」
「・・・・お前、何やってるんだよ」

目の前にあるコーアの頭から、ぽつりと低い声が出てきた。
「・・・きみ・・こそ・・・何だ・・・・・・」
今の状況が把握できず、コーアの後頭部にぼそりと問いかける。

「俺は・・お前が、店を飛び出した後、探してた」
ぎくり、と体を強張らせる。
それによって、自分の体の今置かれている状況の認識が始まった。
コーアが、走っている。
自分を背中におぶって。

「・・・っ」
 身動きしようとすると、ずき、と米噛と左足に痛みが走った。
「おい、あんま動くな」
 そう言って、コーアが話を続ける。
「・・・・・・・探しても、探しても見つからないし、周りの人に聞いたら
 どんどん、その聞く人も居ないような所に向かっていっているみたいだったし」
だん、とコーアが大地を踏み抜く。
「やっと見つけたら・・・・そんな怪我、してるし」
「・・・・」
そんな怪我、というのがどんなものなのかは分からないが、
こいつがここまで言うレベルと言ったら、おそらく相当のものなのだろう。

「お前、馬鹿じゃねーの」
馬鹿に馬鹿と言われるなんて、むかつく。
「俺にむかついたなら、店を出るよりも、俺にゲロでも吐きかけりゃいい」
それができたら苦労しない。と言いたかった。けれど、
「本当に悪かった。・・・・ごめん。」
その前に言ったコーアの言葉を聞きながら、ギアスは
遠のく意識を名残惜しげに手放した。



そして、昨日だ。
医務室で目を覚ました私を、黒い右だけの瞳が心配そうに見つめていた。
「・・・こーあ・・」
瞳を閉じる前よりかは、少しは声が回復してきたように思った。

「・・・・・・・・・・・っよかっ・・たー・・」

「・・・すまんな」
心配をかけて。
「・・ギアス死んじまうかと思ったー」
あからさまに嬉しそうな様子を見せられると、昨日こいつから走り回った自分が馬鹿らしくなってきた。
「すまんな。昨日は少々他の件でいらついていてな」

ここ最近、自分にもわからない感情をなんというのか分からない。
けれど、それの答えを出すよりは、目の前に居る温かい生き物をただ見るほうが大事なように思えた。

「ぎあすー・・」
「コーア」

「・・・おーい、ギアス目が覚めたって!?」
突然医務室の扉が開く。
目を白黒させる私を前に、コーアがこう言った。
「おうよ、今日はお祝いだぜえ!!」

意味が分からず突っ込めない私に、そうだ、これがコーアだ、と現実は楽しそうに笑った。

その後。私の怪我ー結局、出血は大袈裟だったが、そうたいしたものではないーーの存在を忘れられたかのように、私はコーアに乱痴気騒ぎにひきずっていかれた。

「…お前、既に酔っているだろう」
「あ~、お前連れて船に戻ったとき、船医が俺に飲めっつうてさ、飲めねえっつーたらはたかれて
 ・・・一杯飲んだら止まんなくなっちまって・・」
「・・・・・・冗談のつもりだったんだが」
「え、まじで!?」
は~め~ら~れ~た~と頭をぶんぶん振るコーア。
全くこいつは、図体がでかいのにやたらと子供っぽいと嘆息を吐く。

「・・・・でも、有難うな」

そう言うと、コーアが目を見開いてこちらを見てきた。
「何だ」
と問うと、
「いやぁ、素直だなぁと思って」
にかっと笑って返された。
その瞬間、また顔がカッとなった。

私は、怒っているのか?

「おーい」と、後ろからコーアの声が聞こえる。
振り返れない。

すたすたすた、と怪我人らしからぬ動きでコーアの前方を歩いていく。

バンッと扉を開いて、丁度乱痴気騒ぎ中らしい阿呆たちの目の前にある酒を掴んで、
ごっごっごっごっごと一気飲みした。

ぷはー、と言いながら顔を下ろすと、皆がきょとんとした目で見てくる。

なんだ。何か文句でもあるのか。阿呆たちの中で、偶には自分も阿呆らしく振舞いたいのだ。

そういう目で睨むと、一瞬して何故か彼らは「ギアスが飲むなら俺らはもっと飲もうぜー!!!」と盛り上がった。
相変わらず良く分からない繋がり方だ、とランゾットは憮然とした。


駆けつけ一杯以降は、なるべく薄いものを飲むようにしていた。
船&酒なんて、洒落にならない吐き気コンボだ。

けれど、この顔の火照りは、新たな火照りで隠さなくてはならないと思った。

グラスを口に当てながら、本当に少しずつ酒を飲みつつ、周りを観察する。
どうみても、騒ぎになった酒場以上にやかましいことになっている。

そろそろ伍長あたりが怒鳴り込みに来るのでは・・・と思ったが、
よく見てみるとその伍長はコーアに絡み酒を繰り出していた。

対してコーアはものすごい笑い酒だ。
伍長の言うことをことごとくポジティブに、笑いに変えていく。
やっぱりお前はすごいよ、と半目で思う。

あ、伍長がつぶれた。と思うと、すぐコーアがこちらに目を向けてきて、
一瞬ぎょっとする。

「ランジーぃいい」
コーアが酒瓶片手に駆け寄ってくる。
いい加減にその呼び名をやめろ、と何十回言っただろうか、とまたズキズキと疼く米神を押さえる。

「お前、相当酔っているな」
「そんなことないよぉおおお」
嘘吐け、と言ってまたちまちまと水割りを飲む。
この死屍累々の惨状を、いつか小説家になったときの為に書きとめておこう・・・
そう思っていると、急にコーアが抱きついてきた。

「ランジー、大好きだぞー」

「・・・」

こちらが反応しないと見ると、コーアがちゅーちゅーとキスを迫ってくる。
「おいこら、いい加減にし・・・」
そう言った口が塞がれる。

数秒間の沈黙の後、柔らかい感触が口を離れた。

「えへへー、奪っちゃったー」

そう言うコーアに本能的にヘッドロックをかけた。








 瞬間、コーアの体がくずおれる。私如きの技で沈むとは思ってもみなかったため慌てるが、よく見たら酒を呑みすぎて潰れただけだったようだ。
「全く、君は…」
 ぐごおと派手な寝息を立て、幸せそうな顔で寝入るコーア。


 その寝顔に顔を寄せ、酒の臭いに取り囲まれながらつぶやく。

「何が奪っちゃった、だ」

 私は酒気に充てられたのか。脳が警告を発するが、指は止まらず、ゆっくりと奴の唇に押し当てられる。

「……今の貴様こそ、隙だらけじゃないか」

 ふ、と笑う。


 私の道がこれからどのように拓いていくか分からないが、きっとこいつは長々と、ずうずうしく、そこに居座るのではないか。

 そう、思えた。










もしかしたらで続いて
勘違いで終わる

そんななにか。



20140724104523P
201509190157A







お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2015.10.27 01:27:51
コメントを書く
[🍷流血女神伝] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: