Laub🍃

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2014.08.15
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カテゴリ: ●読
数年前に読んだ本ですが、少し紹介と感想を書きます。


紹介----------


第二次大戦と終結、そしてその後を生きたある女性を主人公とする物語です。

同じ作者さんの書いた「夕凪の街」とはまた違った切り口で
「居たかもしれない」人々について描かれています。

豆知識が多く、クスッときてしまう所が多く、
大事件を記したというよりは日常を描いたと表現したい本です。


彼女の元には原爆は落ちません。
彼女は死体から靴をとることがありません。




彼女の前にあるのは

日常としての空襲だったり、日常としての病気だったり、日常としての節約だったり、
日常としての国民らしさだったり、日常としての終戦だったり、日常としての敗戦だったり、
日常としての自分との戦いだったり、日常としての出会いだったり、日常としての恋だったり、
日常としての記憶だったり。

日常だからこそあらゆることが繋がっているように思います。

日常だからこそ彼女の目の前に広がるのは

哀しさだけでなく

寂しさだけでなく

嬉しさや楽しさや明るさや照れもあり、

悔しさと悩みと呆れと気遣いと怒りと諦めもあり、



私たちが「この世界」への遠さを感じるような、どうしようもないような所もあるように思います。



日常が崩されてしまいそうな時に、人はどうやって日常に戻っていこうとするのでしょうか。

それが静かに、けれど力強く表されていると思います。







感想----------




場所は「呉」という町。




そんな中、少女から大人になっていく一人の「日本人」の彼女。


憲兵隊に連れて行かれるでもなく、工場できつい環境のもと働かされるわけでもない。
死体から靴をとるわけでもない。



けれど死というものが当たり前に存在している世界。

戦争の存在と、国の為に戦うことが当たり前の世界。

後悔が形となって迫り続ける世界。

日々のちょっとした楽しさと立場への意識と周りの人々の存在の中
その手で何かを生み出し続ける彼女。

日々変わり続ける環境の中常に何かに接し続けてきた手。



初めは当たり前に存在していたものがなくなることへの衝撃と困惑と諦めが繰り返されて、
やがては次の一歩へと繋がる。


「生きていれば何とかなる」

何かを乗り越えて、そう言い得た人の柔らかさと強さが魅力的だ。


生きることは日常を続けること。


沢山の日常は沢山の記憶と想いを生み出す。
それは幸せな記憶幸せな想いだけではない。

抱えきれない記憶と想いの断片が風に乗る。それには決まった行き場はない。
手放した側から見たら空気に溶けたように思うその切れ端。

けれど切れ端は消えることはない。
いつか墜落して誰かの足元に辿り着いてかさかさと音を立てる。


事件には手の回らないそれを、日常は拾い上げる。

拾い上げられ、なお掌の中でくるくると動く切れ端は、いかにも生きているようだ。





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最終更新日  2014.08.18 03:15:39
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