Laub🍃

Laub🍃

2014.08.30
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カテゴリ: 🔗少プリ








「さて貴様ら、準備はいいか」
目の前に揃ったのは机とプリント、そして沈痛な面持ちの数名の学生達。いつもは騒がしい彼らだったが、今はあがいても仕方がないと観念したのかうんざりと形容詞がつきそうな顔でこちらを見たり窓の外の何かを目で追っているだけだ。

「再三忠告したにも関わらず大量に残っているらしい夏休みの宿題、そして休み明けのテストに備えた勉強。これらを清算する」
夏休み期間中、補修を蹴ってまで劇の練習時間をとるというこの学校にしては甘すぎるほどの待遇。

「この学校の職務怠慢気味な教師の手ではなくこの僕に教えられるという事実に感謝したまえ」
このあまりにも生徒側にとって都合の良い待遇はある条件に依って成立した。
教師の代わりに僕が教え、赤点や未提出の課題を減らすこと。これが交換条件。
「何が感謝だよ、そんなのないに越したことないよ!」

「静粛にしろ」
僕の提案によって劇の練習時間が取れて課題実行の効率も上がった筈。それなのに感謝どころか野次、たまに個人攻撃に近い罵声を飛ばしてくる彼らの低劣さに先が思いやられる。
「言い争っている暇も罵声を飛ばしている暇もないということはいかに君達に理解能力が欠けていたとしても分かっているだろう。丁度空調が効き、邪魔も入らない上の階の教室を借りることが出来たんだ。十分に長居は可能、また存分に集中できる筈だ。始めようじゃないか」



教育を。












「……下らない質問をするんじゃない全くこれだから低能は!僕が貴様らに教えることに役不足の感が拭えない、レベルの見合った場所からもう一度やり直してこい!」
あちこちに飛ぶ鍵屋崎の声、初めのような余裕はとっくに失われている。
「はーい、質問。役不足って何?」
俺と机の下でやりあっていたレイジは鍵屋崎に声をかける、声音からして王様の暇潰しだと判断したのか鍵屋崎がそれくらい辞書で調べろと一蹴する。
「ロンと遊んでいる暇があるなら集中しろ、それが勉強に何の関係があるんだ」
「課題図書に出てきたんだよ。キーストアに聞いたほうが早いし。」

「役不足とは端的に言って力量に比べ、役目が分相応に軽いこと、そのさまを表す。例えばもし低能が僕にライバル宣言をしてきた場合、僕にとって「低能の敵」は役不足。低能にとって「僕の敵」は力不足ということだ」
「何で敢えてその喩え出したのか分かんねーけど…まあ大体分かったぜ、サンキューキーストア。つまり愚民共と俺が喧嘩すんのは愚民共からすれば「力不足」で俺からすれば「役不足」ってとこか」
「概ね間違っていない」
二人とも喩えもうちょっとどうにかならねえのか。そう思って鍵屋崎を見ているとこっちへやって来る。うわ、サボってたとか言われるか?
「次、ロン君は確かさっきも同じ問題を解いていなかったか?」

「解けねえんだよ、あ、答え言うなよ!もうちょっとで解けそうだから」
生来の意地が、もうちょっときばればどうにかなりそうだと訴えかけてくる。実際、あと一本どっかにうまい線を引けば解けそうなのに、それが分からなくていらいらする。でもその焦燥さえここまできばったんだからあともうひと押しぐらい自力で頑張りたいという意地に変わる。悪循環になっている気もするが止まれない。
「……もう15分位唸っているじゃないか。試験において粘ることは悪くない。ただどうあがいても他の視点に切り替えられない場合は天才にもある。特に今は試験ではなく自己学習の一環なのだから無理をする必要はない、途中で終わっても答えが間違っていても責められることはないのだから。他の問題に一度行くか解説を受けるかそろそろ選べ」
鍵屋崎が呆れつつ世話焼きモードに入る。そう諭されなくても分かってる、俺だって別に誰かに勝ちたいとか見返したいだとかそういう気持ちでやってるわけじゃない、ただ……
「あとちょっとだけ待ってくれ、5分くらいでいい」
「……全く君は意地っ張りだな、では、ヒントだけ言わせてもらって構わないか」
鍵屋崎の目が輝いている。こいつは人に教えるのが何だかんだ言ってうまい気がする、最初にこの学校にやってきた時から随分柔らかくなったから余計にそう思うのかもしれない。
「う……頼む」
唸り声をあげると待ってましたとばかり鍵屋崎が口を開く。
「眼鏡君眼鏡君僕にもヒントちょーだーい」
だがそれはリョウの煽るような呼び声に阻まれた。
「…分かったから騒ぐなリョウ、後でそちらに行く」
さっきからぐだぐだしていたリョウが限界に達したようだ。道路に落ちたアイスみたくだらけたリョウの姿に青筋を立てつつもこっちをぐりんと向いた時にはもう鍵屋崎の面は教師みたいになっていた。
「……本当はもう少し詳しく言いたかったが……悪いが一先ず手短に終わらせる。君は見たところ着目点に問題を抱えているようだ。この問題の場合、こちらの解法でも解けないことはないが相当時間と手間が掛かる。必然ミスも増える。検算用でもない限り、先程の……そう、この問題だ。この問題は確か自力で解けていたな、この式のこの部分と、この問題のこの部分を組み合わせて」
延々と続く説明。全然手短じゃねえと思うがリョウの声がなかったらさっきの問題の解き直しとか似た問題の演習やってもっと長くなってたのかもしれないと思うとその熱心さに何とはなしに冷や汗が流れる。やっと何とか終わって一息つく、面倒臭え、もうやめたい、少しは解けそうな気がするものの疲れが心を蝕む。だが、リョウに急き立てられ苛立ちつつもそっちに歩いていく鍵屋崎を見ると、俺も頑張らなくてはと失われかけていたやる気がちょっと回復する。
「……こうか…?」
靴紐の結び目みたく、ちゃんとその定型が出来上がってる時はその形を認識できるのにほどけている時は何をどうすればああいう形に持っていけるのか分からない。何とか無理やりこじつける、何とか答えみたいなものが出た。間違っているかもしれないがその時はその時だ、そう思いつつ鍵屋崎の方を見ると何か大変なことになっていた。
「さっきから散々ヒントを与えているだろう、これ以上言ったら答えになってしまうから却下だ。
 少しは自力で努力してみろ」
言い争いに次ぐ言い争い、鍵屋崎もリョウもいつぞやよりはセーブしているもののお互いにイライラが溜まっていてそれはいつ決壊するかも知れない。
「ぶー、けちー!いいもんビバリーに教えてもらうもん」
「すみませんリョウさん、今回は心を鬼にするっス」
「そんなあ、もう付き合い悪いんだからー!」
「でも今回も赤点だったら本当やばいっスよ、曽根崎の力じゃどうにもならないっス」
頼りのビバリーはリョウの為を思って言っているようだが、肝心のリョウに頑張る気がないならどうしようもねえ。前にも後ろにも進めないような状況、どうするんだと思っていたら鍵屋崎が「これはもう少し後に温存しようと思っていたのだが」と前置き、諦めたような顔で言い放つ。
「………因みに、一つ課題提出・赤点回避すれば没収されていた物品を返還してもらう旨を教師陣と交渉してきた」
切り札。

瞬間、砂漠に突然オアシスが現れたかのようにほぼ全員が湧き返る。
「おいそれマジかよ」
「それってお堅い先生や悪名高い先生に没収されてたのも入りますか」
ビバリーまでも食いつく。そういえばこいつ情報部の取材で危ない橋渡ってカメラ没収されてたっけと先週の騒動を思い出す。
「そうだな、流石に紛失・使用・破壊されていた場合は同じものを戻せないが、その場合でもある程度は弁償するそうだ。……リョウ、君の答えは?」
「……真面目に頑張るよ…やればいいんでしょ」
「最初からそう言え」
「そっちこそそれを最初に言ってよ!」
「やる気がなくなりかけた時の発奮材料にするつもりだった」
言い争っていた時よりも大きな声で言うリョウだったが、その目はかつてないほど野心と活力に満ち溢れている。
全員現金だなと思いつつも俺もその内の一人、あれだけ長く思えた残り時間が今度は短く思えてくる。

やるしかねえ。















・先生一人対問題児数人
・夏休みなのでサムライは部活、たまに休みの時は応援に来る
 口下手だが、相手の話を訊いたり要点をまとめるのは割とうまい印象
・レイジは国語以外では教師側になったりならなかったり

・ロンは漫画本とかを没収されてそう。
 ヨンイルの場合口八丁手八丁で何とか自衛 or 肩書が肩書なので教師にスルーされる

レ「俺が取り返して来るか」
ロ「結構だ、自分のケツは自分で拭く」









【蛇足・拍手ネタ】

「副所長じゃレイジの相手を務めるには役不足」が意味深すぎてどう反応すればいいのか分からない








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最終更新日  2014.08.30 02:07:28
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