Laub🍃

Laub🍃

2014.10.17
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カテゴリ: 🔗少プリ
















 動画を見始めてから数分。
たったの数分だけど、既に堪忍袋の緒が擦り切れ始めてる。動画から会話や笑い声が聞こえてくるのはいい、全然ホラーっぽくないのは別に構わない、けどそれ以上にどこの低予算青春ドラマだよってくらいひっかかるノイズだのどことなく空々しい笑い声だのがうざったくて仕方がない。しかもどんどん酷くなってくる画面のノイズのせいでレイジとロンが立ち止まっているのか歩いているのかすら分からないし歩いてるんだとしたらもうとっくに外に着いてもいい頃だっていうのに、動画の中の二人は未だに真っ暗な中でいちゃいちゃしてるし……
 ああもう、このスマホ地面に叩き付けたい。


「……いつまで笑ってんのさレイジ」
「まあ仕方ねっスよ、レイジさんですから」

レイジの笑い声が雨の後の蛙かよってくらいトンネルの壁に反響しまくってて気に障る。
まったくロンに会えたからってはしゃぎすぎだっつーの。

眉を下げたビバリーが困り顔で首を傾げるのが視界の端に映る。













切る
切らない




























→切る


まったくビバリーったらいい子なんだから。

「はいはーい」

口をとがらせ仕方なく一時的にスイッチを切る。
「……あれ?」

けど一歩遅かったのか、切ろうとしたその瞬間画面が停止、電源を切ってますみたいな白いメッセージが出てくる。切ろうとした瞬間勝手に切れるって、なんかどっかの眼鏡君を脅そうとしたら逆に手玉に取られちゃった時のことを思い出すね。むかつく。
「もともと電池切れ寸前だったみたいっスね」
 その言葉にはじめて電池の所を見る。電池マークの部分には確かに電池切れの赤いビックリマーク。まあ、ずっと実況してたら充電しない限りこうなっちゃうだろうけど、それにしてもつまんない。醒めた目で変わらない画面を見てたら、じきに真っ暗になる。たった二つの光源になった懐中電灯だけが何の変哲もないトンネルと隅に落ちた煙草の吸殻を照らしている。

「思ったより普通に切れましたね」
「何を期待してたのさビバリーは」
「いや、こういうホラーものでは常套手段じゃねっスか、終わりと思ったら始まってしまってあとは最後まで坂道を転がるようにまっさかさまに急降下、あああのとき切らなければ良かったのにと後悔しても最後の祭りで哀れ被害者はオーマイガすら言えずに犠牲者の一人となるんスよ」
「それもネットで拾った情報?」

あーあ、つまんないつまんないつまんない。



恐る恐る電源をもう一度入れてはみたものの、全くうんともすんとも言わない真っ暗な画面。
どきどきしていた気持ちが急に萎えていくのが分かる。外でも動画は見られるけど、後で安全な場所で見るのと今怪しげな場所で見るのとでは天と地ほどの差がある。

「ほんとに普通のトンネルなんだね」
二人でまたざかざか歩き出す。
「そっちのほうがいっスよ」





「普通だから、いいんですよ」



何故か一瞬それが違う意味に聞こえたけれど、隣を見てみるといつもの真ん丸な目でビバリーが「何スかリョウさん」と笑っていた。


「……そうだね」

そう。そうだ、変なことなんて、無かった。


ここをくぐりぬければ、日常に戻れる。





何も起きなくて、よかったんだ。









「全く、君達はどうして勝手な行動をするんだ」

あー、うるさいうるさい。耳にタコができちゃうじゃん。
鍵屋崎のお説教に知らんぷりするけど、お小言メガネはそれを許してくれない。

「リョウ、ちゃんと聞け。何故先に行った全員がトンネルの向こうで歓談しているんだ、一旦辿り着いたら引き返す予定だっただろう。すれ違わないと向こうで何かあっても分からないじゃないか」
「別にいーじゃん、何にもなかったんだからさー」
「そっちのほうが肝試しっぽいじゃん」
僕とレイジが反論するも、お小言モードは更に加速する。厳しい目つきはレンズを通り抜けても弱まるどころか更に鋭く突き刺さってくる。
「レイジ、君は面白半分の行動が多すぎる。リョウ、君が主張しているそれは結果論だ。本来目標を立てそれを実行しようとする段階で問題が発生したならば臨機応変的な対応も認められるが、最初からやりたいようにやっているのでは…」
「はいはい直ちゃん、ストップストップ」
「何だ。まだ話は終わっていないぞ」
ヨンイルの軽快な制止の声に、やっとお小言お説教が終了。

「取り敢えず話は旅館着いてからでもええやろ?さっきからやたら風強いさかい吹っ飛んでまうわ」
「……みたところ君は体重60kgから70kgだ。定義では風速20mを超えた辺りから足元がおぼつかなくなる。現在の風は到底それには及ばない、よって風に吹き飛ばされるなどという事象はありえない」

ぐだぐだ言いつつも鍵屋崎が歩き出す。

「それにしても何も無かったなー、ロン」
「下手に野良犬とか変態とか出るよかよっぽどいいっての。つーかそうだ、何でお前あんな人をびっくりさせるような真似してんだよ」

「あっ」

すっかり忘れてた。
「…あー、そうだリョウさん、アレ出さないと。まさか落としてないっスよね!?」
「当たり前でしょ?ほら、こっちのポケットに」

そうだ、トンネル出たら返さなきゃいけないんじゃん。
まあレイジのことだから、あのままロンと野外で無茶してなきゃ動画見せてくれるかもしれないけど。

「……あれ?」
「どうした」

立ち止まっている僕達に、サムライが立ち止まる。

「いや、ちょっと……」
「え、リョウさんマジで落としちゃったんスか!?また取りに戻るのなんてご免っスよ!!」
「分かってるって、僕だって嫌だよそんなの……」

「何か落としたのか」
「あ、レイジさんの携帯拾った筈なんスけど、途中で落としちゃったみたいなんです」
え、本当に嘘。何で見付かんないの、持ってった機材には更に細かいのもあったけど落としてないし、そもそも落としたら音で気付く筈なのに……
「俺携帯落としてないぜ?」
「え?」

どういうこと?
ポケットを漁る手を止めて、レイジの方を振り返ると……トンネルで見たのと同じような、でも隅っこに何かシールの着いている携帯。

「別のやつのじゃねーの?」
「……そんな、だって」

動画には、二人が映ってたじゃないか。













結局、後で話したそれは「他人の空似」で片付けられた。ついでに身長が低いからロンだと思ったと言ったらぶすくれられたけど知ったこっちゃない。


一体何だったんだろう。

どうにも納得しきれないもやもやを抱えながら、僕達は帰路についた。









 いつもの奴らでバカやってから数日。

テスト明けでまだ答案が返される前の、貴重な自由期間。

やることもなく放課後の教室でレイジとだらだらしていると、緩み切った脳の中にふと疑問符が浮かんでくる。
何か、忘れているような。

「あのさ」

「ん?」

ちょっかいをかけてくるレイジの手が一瞬止まる。
緩やかな夕方の光の中で、虚を突かれた様な目が硝子玉みたいに光る。

「先週の休み、なにしたっけ?」

「……あ?何でそんなこと今訊くんだよ」

「いいから。俺覚えてねえんだよ」

何で二人きりの時にそんな、とぶつぶつぼやきながらも、思い出そうとしたレイジの顔が徐々に強張っていく。
その様子に何故だか不安が募る。

「……あんま、覚えてねえな。確かいつもと同じようなメンバーでぐだぐだしてたんじゃねーの?」

「……そうか?」

記憶力がやたら良い鍵屋崎なら覚えているだろうか。

「何も起きなかったってことは、覚えてるんだけどな」
「……ああ」

俺も、そうだ。

空白がある。
……忘れた、では説明のつかない圧倒的な欠如。


けれど何が足りないのか分からず、埋まらない空洞にイライラしはじめ思い出すのを放棄して再びちょっかいをかけはじめてきたレイジにもイライラしはじめていた、その直後。






「なあなあ、面白そうなもんがあるんやけどちょおええか――」














「なあ、鍵屋崎。先週、俺達どっか行かなかったか」

唐突な、それも妙に意気込んで言われた問いに、目の前の鍵屋崎はメガネの奥の目を白黒させる。
昼休みにお互い向かい合って食べながらする話にしては、固すぎる言い方だったかもしれない。
だが数日前から得体のしれないしこりのようなその疑問は、気軽に訊くにしては大きく育ち過ぎていた。

「……?確か、いつも通り勉強会を行ってその後結局ヨンイルの持ち込んだ漫画で台無しにされたような気がするが」

数瞬後、いつものように冷静に事もなげに回答した鍵屋崎に、概ね予想通りな筈なのに軽い違和感を覚える。
鍵屋崎は記憶力がやたらめったら良い。俺がうっかりその場のノリで言っちまったことを覚えられてて墓穴を掘ったのも一度や二度じゃすまねえ。けど、その時とは何だか違う気がする。

「……そっか?そっか……」

勘には自信があった筈なのに、今だって頭の奥で何かが喚いてる気がするのに、それが何なのか分からない。
苦りきったような、何かを失ったようなそんな微妙な顔をしている俺に、何を思ったのか、鍵屋崎が眼鏡の弦を触って宣言する。

「…とは言え、ここ数週間、休日を勉強会で埋めていたからな、テストも終わったことだし、君に虚偽記憶が生まれるほどにどこかに行きたいというのであれば、その要望を聞いてやらなくもない。場所と状況にも拠るが」

「……」

テストが終わったから、どこかに行こう、と誰かが言っていた気がする。
気のせいか?

「何だ。不満なら……」

「あれ、どっか旅行行く予定でも立ててんの?」











「それならヨンイルがいいとこ教えてくれたぜ。山奥の旅館だってさ」























END1【ループ】





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最終更新日  2014.10.18 09:28:57
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