Laub🍃

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2015.05.15
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カテゴリ: .1次題
この町では呼んではいけない名前がある。

呼んでしまったら、どこからともなく現れたひとさらいに連れていかれてしまうのだという。


夢の中で出会った友達は、呼んではいけない名前をしていた。


教室の外で彼はずっと僕を待っている。
無駄に大きな背を丸めてのったりのったりと居残り課題をやっている僕を、あの涼やかな伏せた目で、小さな背中で待っている。


黄金色に染まった教室の中、彼を呼ぼうとするが、呼んではいけない名前だから声を出せない。


刻一刻と時が過ぎていく。

もう既にほとんどの課題は終わっていて、最後の問題だけが目の前にあった。

『君を待っていてくれる子の名前は?』




そうか、彼はずっと呼ばれるのを待っていたんだ。

「――――…」




叫んだ衝撃で目が覚めた。
声は出ていなかった。
また駄目だった、声を掛けられなかった。

顔を両手で覆いながら夢の中で出会った彼の名前を呟く。

ちゃんと覚えてる。なのに外では声を出せない。
家の中では何百と口に出せる。

だけど外では…夢の中でさえ、口に出すことが出来ない。


僕はいつも、あの子を呼び止められない。









あの子のお父さんとお母さんは、この国の偉い人にとって不都合な存在だったらしい。
何でも、何十年も前の戦で偉い人の部下をしていて、秘密も沢山知っていたからなんだとか。

だからあの子は選ばされた。

両親が消されてもおとなしくしているか、それとも一緒に消えるかを。
……あの子は愛する家族を置いて逃げられなかった。



今でも時々考える。

大きな身で隠して、小さな声で隠れ家まで誘導して、秘密の差し入れをあの子にあげる『もしも』の過去。

だけど僕は夢の中でさえ無力で、ずっと彼の名前を呼べない。ずっと彼を、救えない。


今の僕も過去の僕も、平穏な世界から踏み出せないし、ずっと救われない。





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最終更新日  2018.01.12 10:34:40
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