Laub🍃

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2015.05.20
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カテゴリ: 🌾7種2次裏


前者は生き残った。後者は死んだ。

そこにあるのは単なる事実だった。

*******



壁にぶつかって、乗り越えられないことはなかった。

だけど、立ち止まれば。

この壁を乗り越えなければ、俺は、俺の親友を殺さないでいられる。





「死にたい」



そんな言葉、語彙になかったのに、酷くすらすらと出てきた。




「茂、涼。ごめんな」

「……え?」


もしもこの世界が続いたのなら、未来であいつらは喜ぶだろうか。

『逃げればいい』

確かに俺はこれでやっと逃げられた。要さんと貴士先生はもう怖くない。

俺の下に、鵜飼が居る。
繭が居て、
くりくり同盟が居て、
ちゃっかり4銃士が居て、
医療クラスが居て、
アヴェ・マリアを謳ったあの子たちが居て、

銃の暴発で目をやられたあいつが居て、
あゆを虐めていたいじめっ子たちが居て、
のばらが居て、
その下にはもっと幼い、名前も覚えてないような子供達が、覚えている部分だけを持って俺に会いに来ていた。

そうか、未来で茂は一人じゃなかったのかな、なんて思いながら俺は伸びて来る腕を受け容れた。








安居は泳ぎ続けないと死ぬ魚のように、目的を追って泳ぎ続けて息をしてきた。
今現在のやり直しでもそうだった。

もしもこのやり直しの世界が終わった時、元の時間軸に戻って後悔をしないために。
……やり直しの世界が終わった時、元の時間軸に戻れなくても後悔をしないために。



やり直しの世界で安居は考える。

自分はどれだけ相手に踏み込んでいるのか。どれだけの無理を言っているのか。
相手はどれだけ自分に踏み込んでいるのか。どれだけの無理を言われているのか。

かつての基準となっていた、弟のような幼馴染がもう近くに居ないからこそ、考える……。
今までは、考えるという発想すらなかったことを、考える。


自分の選ばなかった無数の道、自分の切り捨てた無数の想いに付随する地獄を考える。



そんな安居を、一人の青年がじっと見ていた。




*******




一人の青年は常に一人ずつで、けれど何人もがその一人の青年となっていた。



あの緑の中で涼が

あの朝焼けの中で茂が


眼鏡越しに監視カメラ越しに双眼鏡越しに高みから要が

後ろから嵐が


けれど安居は彼らの目線に一度も振り向かなかった。





*******


安居の目は誰か一人を見る時と全体を見る時で色が違っていた。

安居が一人を見る時、ナツはぴりぴりとした電気を感じた。

安居が全体を見る時、蘭はどす黒い憎悪を感じていた。


けれどそれらは常に濁り固まっているのに純粋な流体物だった。

まるで、無数の産道から生まれ得なかった未完成達が、生きる道を目指して一つの目的の元より集まったかのように。



*******


空気には色がない。
けれど重さはある。

ナツにとって彼女の重さを減らしてくれるのがまつりで、半分重さを持ってくれるのが蝉丸だった。
そして彼女から重さを取り上げるのが嵐、そして安居だった。



嵐と安居にとってナツは常に代わりだった。

嵐はどこかに居るであろう、守るべき対象の花の代わりとしてナツ、暴走を止める対象の花の代わりとして蝉丸と接してきた節があった。


だからこそ、自分自身を庇うような事を言っているようでいて、どこかずれており、また手慣れている安居の仕草にはナツはどこか諦めと安堵を感じても居た。


「分かってましたから」


求められない限り、ナツは接することが出来なかった。
様々なものを喪って、それを整理することで精一杯の安居の心の傷を癒せるほど、ナツには欲も自信もなかった。


*******



安居の心の傷を嵐は知らない。
安居の本当に求めるものをナツは知らない。
安居の憎悪がいつか終わる日が来ると花には思えない。
安居の周囲に押し付けられた期待もひどすぎる希望も蘭は知らない。


涼には近過ぎて見えない。
要には遠すぎて見えない。


唯一少し浮いている茂には見えていたが、

生憎その声はいくら枯らしても安居には届かなかった。





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最終更新日  2018.01.22 06:16:42 コメントを書く


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