Laub🍃

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2015.05.30
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カテゴリ: .1次題
昔々ある所に、誰しもが幸せでお互いを愛し合っている村があったそうな。

そこでピエトラは笑い声を産む一つ、ピエロの仕事をして十分に場を盛り上げていた。
しかし、そんなピエトラには唯一出来ない事があった。

村の中でただ一人誰にも見えていない透明な子供を、本心から笑わせることがまだ出来ていなかった。

その子はめったに笑わないし怒らないがいつもものほしそうに、寂しそうに皆の様子を見ているのだ。

透明な子供は村長の隠し子だった。
しかし、村長にとって透明な子供は顔も見たくない相手だったし、周囲もそれに倣ってその子供を見てみない振りをしていたから、ピエトラのように敢えて空気を読まない者以外にとって透明な子供は居なくても同じ存在だった。

いくら頑張っても、いくら村の仕事を手伝っても、子供は無視された。

子供にとって、しっかり目を合わせて笑わせてくれるピエトラは救いだった。




さて、ここからが本題だ。
子供は大人になり、ある時村長の罪を被ることとなった。

その時になってようやく役に立てて、ようやく周囲から見てもらえるようになったと子供は喜び出した。
今更誰かに投げる言葉の出し方が分からなかったけれど、ピエトラの前ではぽつぽつと話す事が出来ていた。

今日でその子の自由は最後となる。
刻一刻と迫る時間を、その子は、いつものようにピエトラの前で膝を抱えて消費していた。
ピエトラには何も関係のないことだ、ピエトラ以外の全ての村人たちがその子と無関係なように。
けれどピエトラの心には焦燥感と、どうにかしてやりたいというあてのない情が湧いていた。

ピエトラはその日、早めに仕事を切り上げることにした。
そうして、こっそり隠れて、その子の後を追った。
ぼうっとベンチの上で寝ているのか起きているのか分からない状態のその子に、ピエトラは声を掛けた。



「…なあ。お前、いつも俺の芸、見てくれてるよな。…これから新しい技の練習をするんだけど見てくれねえか」
「…!!!まっ、まかせて」

その後、ただバランスがどうだとか、好みの技のツボだとか、そういう小さな話をたくさんした。

市民権があるとはいえピエトラはしがないピエロだ、村の決定については何も言えるわけがない。
それは間違っていると思っても、口に出せばピエトラの立場が危うくなる。



「……今日で、最後なんだって?…見に来てくれるの」

「うん」

「……残念だな」

「……ありがとう、惜しんでくれて。…ねえ。…わたしが、生まれた時さ、誰か喜んでくれたのかな」

「…俺は、少なくとも今、お前が目の前に居て良かったと思ってるけど」



そう言うと、子供はとても嬉しそうに笑った。

セレスト。
空の色の名前に相応しい、空虚で高らかな笑い声だった。


「……本当に、ありがとう」

ピエトラは、その大きな背を屈めて恭しくお辞儀をした。

ただ一人の観客の為に。





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最終更新日  2018.01.22 09:45:30
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