Laub🍃

Laub🍃

2017.04.12
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カテゴリ: 🌾7種2次裏
虹と言う名前に似合わない、黒く堅実な生き方。

それが、私の人生。

地中の白骨は、カルシウム。
私達は、蛋白質。

そんなのがわいわいやっているだけ。

だから静かに、水のように。
蚯蚓のように。
地に埋められた眠る種のように、私は生きる。





 万物の最後に還る姿で、生まれ出でる胎。

 この二つを、自分を未来へ繋ぐ要とした。
 生きる為の手段に過ぎないそれらだけど、私は2つの道が嫌いじゃなかった。

 本日の制作課題は、主に地学と建築。
 作ったものは、地震のメカニズムと、それが建物の基礎・土台、その上部に与える影響を見る簡易模型。

 完成した模型。テストの為それを動かす。
 プレートが交わるところで、沈み込む方が覆いかぶさる方を巻き込んでどんどん奥の熱い所へ沈んでいく。
 そうして新たに生まれ出でるプレートの糧になる。
 地球は、こんなに深い所でも循環している。
 そうした大きな大きな規模のメカニズムが、私は嫌いじゃなかった。

 数分の試しをやめて立ち上がる。


 最低限の持ち物を準備する傍ら、私らしくもなくやや抽象的なことを考える。

 複数の皮で構成される地球の外殻。
 沢山の矛盾で構成される人の心とどこか似ている気がする。
 私を地球に喩えるとしたらどんな姿だろうか。冷静の皮を随分と長い事被っていて、結果人情の皮とやらを日々奥に沈みこませ続けているのかもしれない。
 ただし私の無表情の皮は、覆いかぶさりながらもそれに引きずられないけど。



 だから私は傷付かない。
 誰も、傷付けない。
 地震ー表層の揺れは起きない。

 わざわざ傷付きに行く人の気が知れない。

 じゃあ、危険好きで存外人情に厚い彼と一緒に行動しているのは何故だ。

 …生きる確率を上げる為か。

 クールを気取る彼が熱血漢のあの人を放っておけないのと同じ理屈かもしれない。

 私の理屈だけで生き残れるわけじゃないと身をもって示している存在。
 一見危険に見えてなかなかに面白い存在には、目が行くのだ。

 惹かれる。
 地の奥の何かが、飛来する隕石をどこかで呼んでいるように。

 何かの変化を求めている。

 プレートを壊してくれるくらいに強い何かを。

 地震など気にしないくらいに新たにこれはお前だと知らせてくれる何かを。


 それが来るのはいつのことだか。

「っぷ…」

 ふと大きな風に煽られ、我知らず暗くなってきた空を見上げたーそこには。


「……」


 清々しいほどのピュアな空に、小瑠璃ちゃんが飛んでいた。

 鳥よりも何よりも自由な彼女。
 彼のお気に入りの一人。


 同じ一人でも、底へ沈みゆく私とは別の生物。


「……は」


 何を、言おうとしたのか。
 唇は少しだけ戦いて止まる。

 時折こうなる。口や表情が私の制御を越えて動こうとする。

 満たされていない気がするから、それを得ようともがくんだろう。
 結局理性に赤子の手をひねるように止められるから、大した内容じゃないんだろうけど。

 表層じゃなくて、芯の私は本当は何になりたかったんだろうな。

 生きる為に作り上げた表層だけど、なんで私達は生きる為に生きているんだろう。
 どうして先生達は滅びないようにと私達を育てている?
 地に根差してなどいない私達には使命感がなければ、ただの生きようとさえ思えないー…

「……馬鹿だ」

 そんなことを考えて、何の意味がある。
 何の為だろうと、死にたくはない。殺されたくはない。

 この前作った堆肥の中に見えた、動物の歯ー…にしては、少し小さなそれ。


 あちら側にはなりたくない。


 嫌だと本能が叫ぶ。
 所詮これが芯だ。

 馬鹿な人に巻き込まれて死ぬのだって、嫌だ。
 生きる為に生きる。それでいい。

 土や水のように、動くべくして動く。それでいいんだ。


 感傷も羨望も、私らしくない。

 地面を少し強めに踏みつける。

 物静かに、それでもたしかにその力を受け止める地面。

 私はこれでいい。
 他はどうでもいい。


 そうだ、どうでもいいんだ、そんなこと。早く採りに行かないと。


 涼風の中。
 黒い地表には、いくつもの透明な粒が光っていた。





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最終更新日  2017.04.26 05:37:35
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