Laub🍃

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2017.10.01
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カテゴリ: .1次題
蛮族の住む島に辿り着いた私達は、同じように流された筈の仲間たちを探していた。

そこそこ大きな客船だ。

小学生から中年まで様々な年齢層の人が乗っていた。

しかし当時小学生だったあの子だけがまだ見付かっていない。
何の手掛かりもなかった。死体さえも。


私は、両親と離れてやってきたというその子の面倒をよく見ていたから、諦められず、こうして5年彷徨っている。






島には様々な場所があった。蛮族が普段生活する村のような場所、砂浜、拓けた崖の下、鬱蒼とした獣の出る森、そしてあまり凶暴な生き物の居ない、けれど茂みから時折蛇などが出てくる林……

その林に寝宮は居た。



「……!」


再会した寝宮はすっかり青年になり、日焼けして、そうして……


「しっ、声上げないで!隠れてて!!」
「えっ、な……」
「いいから」

「どうしたリカン、小動物の家族でも居たか?」
「…き…気のせいだよ、リア」
「またお前はそうやって誤魔化す…優しいのはいいことだが……
 まあいい、そこまで今食事に困っているわけでもないからな、見逃してやろう」

「…!?」


……おなかの大きな女性と一緒に居た。


……日本語だ。
だけど、妙に違和感がある。まるで遠く離れた場所に取り残された軍人が子孫を持ち、独自の繁栄を遂げて、言葉を繋げてきたような……。


「リアも、こんな拠点の遠くまで来なくていいのに。危ないよ、その体じゃ」
「馬鹿にするな、むしろ動かない方がなまってしまう」
「全くもう……」




後を追おうとした私のもとに、ふわりと木の葉が飛んできた。

そこには煤なのか黒い字で、

『よるにまたくる』


……と描いてあった。




寒い季節ではなかった。

持ってきた灯りと、手作りの虫よけのおかげで怪我も虫刺されもなかった。
しかし、寝宮が本当に戻ってくるのかが心配だった。

「……心配、させたよね」
「ああ、ほんとにね」
「ごめん……こっちもこっちで、抜けられなかったんだ」

昏くなってから数時間、ようやっとやってきた寝宮にその苛立ちをぶつけることで少しだけすっとした。


「……随分仲良さそうじゃない、さっきの人と」
「いやあ…はは」
「……そんな笑い方、あんた、しなかったじゃない。この5年あの娘に面倒見られてたの?」
「……うん」
「……まあいいけどね…

 この島は、蛮族が住み着いてるっていう話を聞いてたけど…
 その正体はあの娘たちってことでいいのかしら」
「そう…なるのかな。僕も、あの娘と仲間以外会ったこともないや」
「じゃあ…話にあるじゃない、昔外国で戦争してた日本人が引き上げの時取り残されて、そのまま密林の奥地で暮らしてたとかいう。その子孫か何か?」
「……いや…」
「…………?」
「……あの娘達は、軍の実験に使われる予定だったんだ」
「…!」
「二束三文で売られていた、身分の低い子達を軍が買い取って、人体実験や捨て駒のように作戦で使い捨てる。そんな予定だったんだって」

「……あの娘は、そんな環境で育って、隣に居る少年を好きになったんだ」
「少年は実験で殺された。あの娘達は実験に使われる前に生き残って、実験施設から逃げ出してここに住み着いた。見晴らしのいい崖あるよね、あそこ、元は実験施設があったんだ。……今、施設は爆破され、海の底だよ。」
「……僕を初めて見た時、あの娘は僕を、その少年と勘違いして、そうしてぬくもりを求めた」
「僕はそんなあの娘を最初利用しようとした。……子供の僕が、サバイバルできるわけもなかった。みんなが生きているとも思えなかった。何よりあの娘以外の全員が僕を冷たい目で見てた」
「……少しでも僕が、少年じゃない言動を取れば、あの娘でさえ化け物を見るような目で僕を見た。……生き残る為に、僕は少年になりきるしかなかった」
「僕を少年と思い込んでる時のあの娘はとても優しいし……それに、可愛いからね。ほだされたってのもある」

「……だけど、最近は思うんだ。戻っても僕に何があるんだろうって」
「僕の家族はもう離散してる。だから、大勢で来るはずだったこのツアーにも、結局僕だけで来た」
「鴇子さんはぶつぶつ言いながら面倒見てくれたけど、僕には帰ったら冷たい目しか待ってないんだ」


「……子供が、あの娘に生まれたら。そうしたら今度こそ、僕には、僕を温かい目で見てくれる家族が出来るんだ」


何も、言えなかった。

私は彼の家族になれるわけじゃない、一時期姉のように振舞ってもいたけれどそれは相手が幼かったからというだけで、彼自身だったからというわけじゃない。


私は何も言えず、ただ俯いて林を出た。

「やっと諦めた、一緒に帰ろう」

と言うと、友人は笑った。心底ほっとしたように。



帰る潮風の中考えた。

帰る場所があるのはひどく安心することだ。

けれどそれは誰かが作ってくれたものだ。

その誰かが居ないなら、どうすればいいのか。

多少いびつだとしても、作る側になるしかないんじゃないのか。



最後に見た彼の疲れたような笑顔が、船内に残るあの子の強がった顔と重なって、涙が出た。

「何も責任取れないのにね」





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最終更新日  2018.10.14 21:00:08
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