Laub🍃

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2017.10.07
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ある所に祠がありました。
小さな小さな祠でした。

中には仏師が手慰みに作った仏像が置いてありましたが、その仏師家族以外誰も参ることのない祠でしたので、仏師の子供が大きくなり、よその村に移り住んだ後には忘れ去られていました。

祠の主は千日夜様と呼ばれていました。

夕方や、朝まだ暗い時、夜の恐ろしさを拭ってくれるような柔らかさを、仏師が生み出したからです。

千日夜様はその柔らかさを愛されていると自覚していましたので、無防備で人に愛されるような姿であろうとしてきました。


けれど仏師家族が居なくなった時、その柔らかさはただの弱さとなりました。


一人の夜を何度も千日夜様は越えました。千日を越え、三千日を越え、延々と虫に食われ続けて、なんのために自分が生まれたのかも忘れかけて来たころ、その青年が訪れました。

永左衛門というその青年は、近くに狩りの為に来ていました。

その為永左衛門は大量に狩りをしてはその地を枯らさないよう離れてを繰り返してきました。
あまり人が入らずほとんど野生のままになっているようなこの山に辿り着き、歓喜しました。

山中で見付けたあの仏像のおかげもあると思いました。
あの仏像を見た後に狩りをしたり、狩りをした後あの仏像を見ると、どこか力が湧いてくるのです。
永左衛門はそれから毎日仏像に水をかけてやったり、時間のある時は欠けた所を粘土で補ってやったりしました。

そんなある日、永左衛門の夢の中に仏像様が出てきて話しかけてきました。
千日夜様は日頃の永左衛門への感謝を述べ、これからもなおいっそうの加護を祈ると言いました。
その日から、狩りはよりうまくいくようになりました。
そうして永左衛門は家族の為に高い薬を買うことができ、永左衛門の家族達も働けるようになっていったのです。





幸せそうに暮らす永左衛門は、周囲の恵まれない子供たちをも目にかけるようになっていきました。


そんな永左衛門に救われた一人がお鹿でした。

お鹿は永左衛門に惚れ、よく後をついて回るようになりました。


千日夜様はそれが気に入りませんでした。

祈られ、捧げものを貰い、力を付けた千日夜様は鳥や草木の中に入り永左衛門を見守れるようになっていましたが、その中でここまで永左衛門の足を引っ張り助けられている者も、ここまで熱い目を永左衛門に向けている者も、ここまでかつての自身を思い出すようなみすぼらしい風体と態度の者も居なかったからです。

神仏の身である以上、千日夜様は自身が永左衛門と結ばれる事は望んでいませんでした。




なので、ある日お鹿が永左衛門のあとについてお参りに来た時、千日夜様はそれを好機ととらえました。



千日夜様は有り余った力を全て注ぎ込み、お鹿の中に入ることにしたのです。









はじき出されたお鹿の魂は千日夜様の仏像の中に入りました。
これまで何匹もの生き物が束の間入れられていた像ですから居心地は悪くありませんでしたが、寂しい夜の中、虫に齧られながら暮らす事は辛く悲しいものでした。
そんな日々を暮らす苦しさへの同情と、たまに訪れる永左衛門に抱く希望、そうして自分と同じように後ろからついてきている娘への嫉妬への共感。

お鹿は優しい娘でしたから、そうした実感を持って千日夜様の凶行を赦そうと思いました。

けれど千日夜様がお鹿の体を借りて好きに暮らしていることは許せませんでした。
それに、今まで曲がりなりにも神として暮らしてきた千日夜様が、神通力を失ってうまくやっていけるとも思いません。
千日夜様が邪険にしているらしいお鹿の弟妹達の事も心配でした。

お鹿は、悩みながら千日の夜を過ごすうち、千日夜様の神通力を少しだけ使いこなせるようになっていました。


なのでそれをもって、一番上の弟、和助に夢の中で語りかけたのです。


体を取り戻したいから、協力してほしい、と。









【続】





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最終更新日  2018.10.20 17:19:06
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