Laub🍃

Laub🍃

2017.12.03
XML
カテゴリ: 🌾7種2次表
 →1 

→2  『わけがわからない』
→3  『話せない』
→4  『置いておけない』
→5  『収拾がつかない』
→6  『違えない』
→7  『手段を選ばない』
→8  『知らない』
→9  『受け止めきれない』
→10 『溶けない』

→11
→12 『救われない』
→13 『そつがない』
→14 『聞き捨てならない』
→15 『要らない』
→16 『蒔かない種は生えない』




あらすじ:
・外伝後安居・涼・まつりが海で暴風雨に巻き込まれたと思ったらタイムスリップしてた
・混合村で暮らす未来安居・未来まつり、それを監視する過去涼
・夏B村で過去要と遭遇する未来涼・過去安居
・父の仕事判明後大きなトラブルなく村を一時離脱する花


*****************

カイコ            17

*****************




 夜中よりは大分ましだけど、この木にも生き物が居る。

 お陰であたしの存在感はうずもれる。







「ナツは元気そうか」
「まあな。お前のお節介に申し訳なさそうにしてる」
「そうか」


 話題はナツさんのことだった。

 だけど、追いかけた安居が話してる相手は、ナツさんでも嵐でもなく涼だった。
 何だ、と思いながらも彼らを観察し続ける。

 ……涼は、さっきと服が違う。いつの間に着替えたんだろう。

「貴士先生の事が、こっちで発覚した」

「特に問題はなかった。今更怒りがぶり返す事はない。むしろ本筋通りに行ってすっきりしたくらいだ」

 涼が居ないって、……別行動の時の事を言ってるんだろうか。
 …本筋?何の事だろう。

「花は離脱。新巻辺りが多分後を追うだろうから危険なこともない。こっちは準備が整ってるわけだ」
「ああ。花が暫く戻って来なければ問題はない。そっちはどうだ」


 誰のことだろう。
 …まさか、柳さんが…生きてた、とか……?

 いや、柳さんはあり得ない。
 あの人は確かに亡くなった筈だし、最期は、立派な人だった。

「一応花の行く先は誘導しておいた」
「本当かよ」
「草や石で進む先や危険な場所を示しておいた」
「お前と仲の悪い花の事だから、疑ってかかりそうなもんだけどな」

 ……気付かなかった。
 …そうか、さっきのあれは、そういうことだったのか。
 進みたい方向でもそもそ何かしてた安居。待ってたけど何度か気付かれそうになって、怖くてそっちを避けて通ったら凄く歩きづらい危険な道を通る事になっちゃって、大変だったけど、結局、あたしの考えすぎだった。
 あたしは、何でこんなにおびえてるんだろう。
 あいつのまだ隠し持ってる銃なのか。
 それとも、あいつがあたしをまだ責めてこないことにだろうか。

「……一応、『俺』の方を、暫く遠くから見守っておく。接触しそうなら他の場所に連れていく。花よりは誘導しやすい」
「……接触しちまった後だったらどうすんだよ、ばれんぞ」
「背に腹は代えられない。それより、お前がそうならないようにあっちにうまく言ってくれ」
「もうお前が言えばいいんじゃねーのか…?」
「……」
「冗談だ。二人とも不安定になられちゃたまんねえからな」
「悪いが、頼む涼」
「はいよ」

 重い声色で頼む安居に対する涼の返事は軽い。
 ひらひらと手を振る涼に、安居がためらいがちに口を開く。

「……ところで、要さんは今どこに居る?」
「『お前』が言うには、今日はあっちの岩山だそうだ。確認はしてないが」
「そうか。花が移動していくのも見えるかな」
「だといいんだがな。……なあ、安居」
「何だ」
「お前は要さんと会わなくていいのか」

「!」

 要さん。めーちゃん。あたしの育ての親、サバイバルを初めに教えてくれた人。
 そうだ、めーちゃんは安居達と知り合いなんだ。
 どんな知り合いなのかは詳しくは知らないけれど。

「……要さんの事だから、俺達の違いを見抜きそうで怖いな。俺はやめとく」
「…会ってみたらどうだ。もしかしたら、今ならお互い落ち着いて話せるかもしれない」
「会って何を話すんだ。議題はなんだ。昔の俺達を大きな事件が起きる前に変える事か?それとも、俺達がどうやったら未来に帰れるか、か?」
「そうだ。詳しい事を話す必要はない。笑われたら冗談で片付けてもいい。
 とにかくなにがしかの打開策は見付かるだろう」
「……打開策って、何だ。また、殺し合いになるんじゃないのか」

 ……殺し合い?

「……そんなに心配なら、夏Bが居る所で話すか?正気で周囲に人影があれば要さんだって下手に手を出してこないだろう」
「違う。俺が、要さんの言葉に手を出してしまうかもしれない」
「その時は俺が止める」
「……」
「夏Bによるとな。俺達みたいな『卒業生』は、先生にまた会いに来ることがあるんだとよ」
「……」
「安居」
「……分かったよ。……その代わりお前も、まつりの所に顔を出せ。元気に振舞ってはいるが、気落ちしてる。俺ではどうにもできない」
「分かったよ」

 顔を出す?毎日顔を合わせてるのに。
 首を捻っている時も、目の前の会話は進んでいく。

「じゃあ、ひとまずお互いの今の相方に色々話しておくって方向でいいな?
 状況と認識を確認する為にも、三日後のこの時間、ここに集まろう。花や要さんとの遭遇にだけ気を付けて」
「分かった。……そういえば、今のあいつはどうしてる?」
「俺が村を出た時には、ナツに縫物と掃除洗濯の方法と毒草の調理と簡単な護身術について教えてたな」
「テーブルの布引きは」
「ちまきがまだやってないし、蝉丸もやらせてないから機会がなかった。代わりに隠し芸で使う衣装を異様に拘って作っていたな」
「ナツは大丈夫そうか?」
「以前お前が教えた時よりも、両手が使えて自信がある分スパルタだ。ナツはへばってたな。
 このままいくと貴士先生直伝の護身術まで教えだしそうだが、ついていけるのかどうか」
「やばそうだったら止めてくれ」
「……あんまりやばそうならな。つーか、お前が止めに来いよ」
「……ああ、三日したらな」

 あたしが見ている中で、安居は村の方向に戻っていく。

 涼は、安居とは逆の方向に歩いて行く。
 迷わず追う。
 音がしないように追うけれど、速い動きにはどうしても音を立てないとついていけない。

 涼の脚は次第に小走りになり、小道を抜け、小さな洞穴を抜け、やがて太陽が真上に位置する頃、海岸に到着した。
 その頃には、すっかり追ってるあたしの息は上がっていた。

 涼はあっという間に汗も呼吸も鎮めてしまった。

 やっぱりこの人達は、すごい。



「……居るんだろう、花」
「……!?」
「隠れても無駄だ。出てこい。
 ……殺しはしないから、安心しろ」

 岩陰に潜むあたしに、涼は安全をアピールするかのように両手をパーにしてひらひら振っている。

「大方、俺の進む方向に嵐が居ると思っての追跡か。それとも要さんか?」
「……!」

 ポケットの中でナイフを握り締める。
 これは逃げるべきか。

 いや、確実に追いつかれる。

 前に引き離そうと走っても崖を登っても、追いつかれたことを思い出す。

 それなら。

「……本当に、攻撃はしてこない、んですか」
「……ああ。俺はな」

 妙に引っ掛かる言い方をしてくる。

「言っておくが、この地域に夏のBは居ない。安居の阿呆は気付いていなかったようだが、俺はあいつと話してる時からお前の視線に気付いていた」
「…何で、安居さんに、それを言わなかったんですか」
「取引を一つしたかったからな」
「……取引…?」
「ああ。明日の夜、お前と嵐を会わせてやる。その後は二人で夏Bに身を寄せるなり、春のチームの生き残りを探すなり、好きにしろ。だが、俺達の顔を見たら避けろ。無駄に喧嘩を売るな。……十六夜の殺害を恨んでいるにしても、武器を出すな。あとは、後ろに川がある時に後ずさるな」
「……喧嘩を売ってるつもりはないです」

 ただ守りたいだけだ。弱い人を。正しい事を。

「主張するってことは、それに近い事をしてるって事だ。理屈があるにしてもな」
「……」
「うちの安居と秋のチームの衝突だって、方針を主張しあってぶつかってるからああなってる。違うか」
「……分かりました」

 一応、頷いておく。だけど涼はまだ言い募る。

「俺達の意見に今は納得できなくてもいい。今はこれが最善策だ。死人と怪我人を出さない為のな」
「分かりましたって」

 涼の表情は無く、ただ伝えるべきことを事務的に伝えているだけのようだ。
 長いふわふわした髪だけが別の生き物のように踊っている。

「大事な事だから、もう一度だけ言う。
 安居も、俺も、お前の父親が憎い。だが、それを表に出しても集団の結束力が落ちるだけだ。
 だからお前と極力関わらない事にする。俺達と関わらない、どこへでも行け」
「……確かに、あたしは、嵐と会えるなら、どこへでも行けますし、どこでも生きていけます」
「そうか」
「だけど、あなたの言う命令に従うとして、譲れない条件がもう一つあります」
「言ってみろ」

 相変わらず偉そう。
 でも、交渉の席には着いてるだけマシなんだろう。

「残る皆が安全だって事を、何度でも確認できないと嫌です」
「……」

 これは、譲れない。
 たとえ嵐と天秤にかけられても。

 涼は斜め横を向いてはあ、と溜息を吐くと、再びこちらを見てきた。

「……お前が俺達の居る集団に近付いてくる時、のろしをあげろ。そうだな、モールス信号で『いのしし』とでも送って来い。俺が安居を他の所に連れ出しておく。その隙に集団に接触しろ。
 暫くしたら俺だけ戻ってくるから、その時にもし我慢できないことがあったら訴えろ。
 出来る限りは改善する」
「いのししって」
「猪突猛進」
「喧嘩売ってます?」
「いや、別に。お前に似た猪突猛進な幼馴染が居たもんでな、お前と猪を見ると思い出すってだけだ」
「……その幼馴染って、今……」

 涼の氷のような目が一瞬だけ溶ける。
 どきりとする。

「もう、会えない。猪突猛進に走る事も出来なくなった」
「……すみません」
「構わん。話を振ったのは俺だ」

 まつりさんが言っていた。
 『涼くんはほんとは優しいんだよ』と。
 こういうことなのかもしれない。

「話は終わりだ。どうだ、条件を呑むか」
「それしか選択肢はないでしょう」
「決まりだな。……ここから一日半歩いた所に、嵐が居る。この赤い紐を結んだ目印を数メートルごとに置いていくから、半日したらついてこい」
「分かりました。…それって、染料ですよね?雨や摩擦で色は落ちないんですか」
「カイガラムシもどきと樹液が混ざったものを使っている。粘りがあって落ちにくい。後で夏Bにでももらえ」
「あっ、ちょっ……」

 言うなり、涼は別方向に早足で歩きだした。
 初めは頑張って追いついていたけれど、崖や入り組んだ森を通るたびに追いつけなくなっていく。

 段々と日も暮れてきて、おまけに夜行性の動物の声まで聞こえてきた。
 仕方がないので近くの小さな祠に、安全確認してから入る。

 火の種を持ってきていてよかった。
 新巻さんにもらった火打石で洞窟の中の落ち葉と、道中拾った薪に火を点ける。

 クサソテツモドキとイヌドウナモドキと干し肉、イナゴモドキを煮て食べる。温かい。

 温かさと心細さに、夏Aの人達が造っていた温泉を思い出す。
 今頃皆どうしてるんだろう。
 あたしの事、心配してくれてるかな。
 嵐は、今どうしてるんだろう。
 涼から話を聞いてるのかな。心配してるかな。
 大体涼は一日半かかると言っていたけど、あたしじゃ二日三日かかるんじゃないのか。

 何でか涙が出てきて、携帯毛布に何滴か落ちる。

 あたしが何をしたんだろう。

 あの人達が何かしない為に、何であたしだけ一人でこうしていなきゃいけないんだろう。

 嵐に会える。くるみさん、新巻さん、ハル、お蘭さん……みんなに迷惑をかけない。
 藤子ちゃんやちさちゃん達を探せる。
 ……両親の事を考えなくていい。

 喜ばしいことの筈なのに、何でか涙は抑えられなくて、泣いている内に段々と眠くなってきてしまった。


「……新巻さん…」


 安居だったか、涼だったか。
 新巻さんが、あたしについていくかも、と言ってた。


 考えないようにしてた。期待しないようにしてた。
 特に、この後、嵐に会えるかもしれないのに。


 それでも心細くて、呼んでしまった。



 眠りに落ちるさなか。


『花さん!居た…!』


 夢かうつつか、安心できる声が聞こえた気がした。




【続】





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2018.12.02 02:23:35
コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: