Laub🍃

Laub🍃

2017.12.28
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カテゴリ: ◎2次裏漫
*注意*

・ナツと桃太郎がうっかり安居の心の部屋に入ってしまって怖い思いをしたり同情したり脱出を試みたりする話
・安居の精神回路について独自超解釈注意
・茂安気味
・安居が精神不安定

※Pet(人の精神に潜入し記憶改変したり心を救ったり壊したりする話)の設定を少し借りています





********


「……うう……」

あたしが目を覚ますと、そこは薄暗い洞窟だった。

思い出すのは最近皆の手を借りて作った藁モドキ布団で眠った記憶。
藁の方向を揃えて、これまた最近作った布で覆ったら案外快適で、疲れてたからすぐに眠ってしまってた筈。
里帰りついでに一緒に眠ったまつりちゃんは一足先に心地よさそうに眠りの世界に旅立ってた。

もしかして、いつの間にかまた災害に巻き込まれちゃったのかな。
感覚や自分の体に異常がないことを確認しながら、ゆっくりと体を起こし、立ち上がる。

「皆を捜さなきゃ」

皆が心配だ。
それに、あたし一人じゃ何にもできない。
螢ちゃんの励ましと、安居君の心配そうな目が交互に頭を過る。
不安でぐらぐらと頭が揺れて、思わず壁に手を着く。

「…?変なの…」


火山が近くにあるのかな。

そう思って暫く恐る恐る歩いて行くと、壁に戸のようなものがあるのを見付けた。

「……そおっと、そおっと開けないと…」

未知の場所。
この廊下を暫く歩いたほうが安全かもしれない、もしこの中にガスや怪物や細菌が閉じ込められてたら。

だけど、中に誰かが居るかもしれない。
同じように危機に陥ってる人が居るかもしれない。

そう思ったその時、中から何か聞こえた。

人の声、それも子供の声だ。

それがあたしの背中を押してくれた。
一瞬確認しよう。
勘違いだったら一瞬で扉を閉めよう。

古びた外見に反して、静かに開く扉。
そう思ったあたしが見たものは、

「きゃああああ!?」

……子供達がまっぱだかで走っていく様子だった。

驚いてドアを閉め、そうしてまたそうっと開ける。
こんなところであんなもの見るわけない。
きっとまた幻覚だよね。

そう思って開けたドアの向こうもやっぱり子供達がまっぱだかで走ってた。

「あ、あの、君達さ、どうしたの?何でこんな所にそんな恰好で居るの?」

そう訊くと、3歳くらいのその子たちはいっせいにあたしを見た。

「せんせい!」
「だってふろあがりあっちーんだもん」
「ほら、だからいったじゃん、やめなって」

落ち着いてよく見て見ると、わいわい言ってくる子はみんな男の子で、その子達に冷静に突っ込みを入れてるのは、服を着た女の子たちだった。




「せんせいも何か言って下さいよー」

ふわふわした髪の二つ結びのくるみさんみたいな髪形の女の子に手を引っ張られて、ドアの中に入る。
無邪気に笑う彼らの様子に、最初は誰だろう、と思ったものの。
冷静な女の子たちや、時折ある少年が見せるガキ大将気質に、夏Aの人達の姿が重なる。

「……安居、くん?」
「何ですか、先生。そんな丁寧に」

好奇心に輝くその目に、誰だろうこの子、と一瞬思ったけど、生意気そうな笑顔や周りの子達に声を掛けられる様子に、未来の安居くんが重なる。

「……服を着ようか」
「はーい」

取り敢えずそれだけ言って、彼らが部屋の中にある箪笥から服を引っ張り出すのを待たずに、ドアを閉じた。

もう一度開けると、また彼らが裸で走り回ってて、もう一度声を掛けると先程と全く同じ反応をされて、混乱した。

その後色々と部屋を見て回り、同じような試行を繰り返した結果、どこの部屋にも安居くんや、夏Aの皆の幼い頃とおぼわしき子供達、ときどき先生や動物たちが現れた。

なんとなく、その内容や廊下で感じる視線のようなものから、ここの世界は安居君の心の中なんだと認識できた。

ここの一階で安居くんと涼くんが見張りをしてた。

人を枕にして寝ると、その人の夢の中に入れると言う物語を読んだことがある。
そのお陰で、今の状況を推測することができそうだ。

真上で寝た。
そのせいできっと、安居くんの夢の中に入ってしまったんだ。
凄く突飛な話だ。
だけど何故かすんなり理解できた。

その瞬間、強い声が耳に飛び込んできた。

「ナツさん!」

意志のある声。
春のチームの、桃太郎くんだ。

「ナツさんも、安居もなかなか起きないから、どうしようって話してたんですけど、螢ちゃんが二人で同じ悪夢にとらわれてるって話してて…僕だったら入れるかもしれないって言ってて…だから怖いけど来たんです」


泣くのを我慢してるような表情で桃太郎くんは言った。



怯える桃太郎くんを宥め、あたしのせいでごめんと謝ると、桃太郎くんは「いえ、あいつのせいですから」と怒ったような口調で言って、逆にあたしを宥めようとしてくれた。

「……ごめんね、本当に」
「いえ。大丈夫です、あと、のび太か桃太って呼んでください」
「あ、う、うん、じゃあ、桃太くん」
「はい!」

状況の整理が出来て、仲間も出来たから、あたしとしてはありがたいけど、巻き込んでしまった罪悪感は拭えない。
そう思いながら探索を続けてると、桃太くんがぼそりと言った。

「……ここは嫌な所ですけど、こいつの心の中が少しわかれば、今後接し方とか、避け方とか、分かるかもしれないんですよね」
「…うん…!怒りたくなることとか、泣きたくなることとか、分かるかもしれないよね」

桃太くんに励まされて、あたし達は探索を続けることにした。

とにかく出口を捜さないことには始まらない。

「どこかのドアが、出口に繋がってるかもしれないですね」

あたしが読んだ物語はそうだった。
だけどそのドアは沢山ある。

「茂、起きろ」
「起きろ」
「朝だぞ」
「また遅刻する」
「課題の為に訓練しなきゃダメだろ」
「起きろ」

いつまでもいつまでも、茂さんは動かない。
死んだ人のように静かだ。

次に開けた扉は夜の草原で、小さな姿の夏Aの皆さんと幼馴染であろう茂さん達が楽し気に歩いていた。

桃太くんは少し怯えていた。

次の部屋は開けた瞬間重力感覚が狂って、まるで下にある井戸をあたし達が覗き込んでいるみたいな形になっていて、だけどそれよりなにより、

「ああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

ぐしゃぐしゃと雨のような音と濁った粘り気のある液体の音をつんざいて、安居くんの絶叫が聞こえた。

「こんな所に、出口なんてあるわけありません!早く閉めましょう!」

耳を抑えて、もう片方の手では扉を持って、桃太くんが言った。

そんなことを何度も繰り返して、この人は大変な人生を歩んできたということをなんとなく感じ取っていった。

不穏さ。

人を獣にしていくような過程。
あるいは、人の理性や情の箍を壊していくような教育。

吐き気がした。

けれど廊下に戻るたびに、そこはどこか懐かしい空気を感じられて落ち着くことができた。
船であたし達に色々教えてくれた安居くんのような空気。

……桃太くんはそれでもやっぱり怯えてて、だから長居はできないと思ったけど。

そうしてあたし達なりに慎重に進んで、時には中の人達と話して、順調に探索をできてると思ってた。

それでも。
途中であたし達は何を間違えたのか、安居くんの求める条件を欠かしてしまった。
行きはよいよい帰りは怖いーとでも言うのか。

異常なほどに優しさと親しみに溢れていた廊下が、その瞬間、突如牙を剥いて襲い掛かって来た。





ショッキングな映像を見るのは何度目だろう。

直前では、源五郎さんが育てた虎を殺すところを見守ってる部屋。
今回は、茂さんが亡くなる時の瞬間だった。

げえ、と桃太くんが吐く。
その時に壁に手をついてしまったのがまずかったんだと思う。

「違う。お前は茂じゃない」

その声が聞こえた瞬間、あれだけ柔らかかった壁が剣に代わり、細い切れ目がぎんと見開かれ、その中にはあの矢のように真っ直ぐで痛い目があって、それを見て桃太くんはまた吐いた。

「…自分で取り込んでおいて、理不尽ですね……っ」
「桃太くん、逃げよう!」

ひとまず退却するため近くの、茂さんと安居くんが喧嘩のようなものをしていたドアに手をかけるけど、ドアは何故かかたくなに開かない。
いくつもいくつもドアを捜して、迫る岩を逃げてあたし達は走った。

どこにもない。
本当にどこにもないのだ、出口が。
だけど諦めるわけにはいかない。
夏Bの皆が、やってきた二人が、かつて幻覚で見た時の姿でもってあたしを励ましてる間は、頑張らなくちゃいけない。
しまいにはドアを開けるやり方さえ適当になって、転げそうになりながら、青息吐息の桃太くんの手を引いて必死に走る。
その力さえも尽きそうになってた頃。

不意に目の前に壁が迫った。

いくつ目かも分からない部屋の向こう。
あれだけ目を凝らしても分からなかった部屋の行き止まりに、
そのドアはあった。

部屋はいくつもあった。
その内装や居るメンバーは、安居くんがその人達に抱く印象や、経験したやり取りによって構成されてるようだった。

大抵の人は会話が通じなかったけど、たまに一定の、安居くんがその人を見てきた結果であろう反応を返してくれる人も居た。

外見が同じ人が違う性格で別の部屋に別のメンバーといることもあった。
多いのは茂さん、小瑠璃さん、涼さん、百舌さんと、幼い頃から最近までよく関わってた人達。

幼い姿や青年姿のこの人達は、比較的識別しやすかった。

だけど、この部屋の主はそういった人達とは違うようだ。

「君が、安居が未来で出会った人達?」

「死ぬ時に、どうしてもこの人にって相手に取り付けるんだって」

「安居の心はスポンジみたいに隙間が多くて、僕もその中に住まわせてもらってる」

「いずれ安居の気持ちの整理がついたら、少しずつ泡も潰れて、中に居る僕達は溶けて吸収されていくんだろうけど」

「それまではこうして安居の心のドアを守ってるんだ」

茂さんは少し照れ臭そうにそう言った。

「だから、出口に通じる通路もここにある」

そう言って茂さんは、手に持つナイフで縄を切り始めた。

「ごめんね、ちょっと待ってね」
「何を…やってるんですか」
「すぐ分かるよ……ほら、できた」

茂さんはまず切って真っ直ぐにしたロープを、四角を作るように床に並べた。
そしてその囲まれた床は、茂さんの手で押され、四角くずぶずぶと沈んでいく。
「ここが出口」

早く外に出て、と言う茂さんに従って、桃太くんは近付く。

「……あの、茂さん……」

けれど、今まで沢山怖い思いをしてきたからか、すぐには信じられないみたいで、茂さんの顔を見る。

茂さんは安心させるように笑った。
その目は、これまでのただ反射を返すだけの茂さんとは違う何かを持っていた。

「大丈夫だよ」

その顔にやっと安心したみたいで、茂さんが少し涙目になって、ごしごしと腕で目を拭う。

「……あの、すみません。でも、念の為、ロープの端っこを持たせてくれませんか」

その端っこをあたしに持たせて、桃太くんは腹をくくって、そこに飛び込んだ。

「……ナツさん!僕は起きました!早くナツさんも来て下さい!」

その声がもし人のまねをする化け物の声だったらどうしよう。

そう思いながらも、いくつかした質問であたしも腹をくくり、というか最終的には蝉丸さんが酷く落ち込んでるという話に絆されてあたしは飛び込むことにした。

だけど、飛び込む前に、一つだけ聞いておきたいことがあった。

「…茂さん」
「何?」

「茂さんは、この部屋の外には出られないんですか?」
「…出られるよ。いくつも部屋を見て回ることもある。だけど、中の人達に僕が茂として認識されることはない。それに廊下を歩いていても安居が反応してくれることは殆どない」

だから荒れても何も出来ない、と茂さんは肩を落とす。

「……ごめんなさい、こんな風にしてしまって」

部屋の外、薄暗い窓から見える廊下はまだとげとげしながらうねってる。

「…ううん、今は異常事態に少し興奮してるだけだから、君達が出た後はきっと収まるよ。
 多分今は悪夢を見てるような状況なんだと思う。僕だと思ってた相手が急に別人になっちゃったみたいな」
「わ、分かりました、じゃあ早く出ますね」
「ごめん、急かすみたいに言っちゃって」


そういえば、あたし達の部屋はどんな風になってたんだろう。

見て見たいような、怖いような。
あたしが完全に手のかかる子供みたいになってたらどう反応していいか分からないから、見付からなくてよかったんだと思うけど。

……いや、それは、安居くんに直接話を聞いてみよう。

今は向かい合うことが出来て、話も通じて、何より安居くんのまっすぐな目はちゃんとあたしをあたしとして見てる筈だから。

早く起きて、安居くんを起こしに行こう。


暗闇に身を投じる。

「いいなあ」

その一瞬だけ目の合った茂さんは、寂しそうに微笑んでいた。














あの二人……僕と間違えられた二人は外に出て行った。
夢から覚めて、今頃はきっと安居を起こし始めている所なんだろうな。

玄関の真正面にあたる部屋の奥を触ると、扉が出現する。

そこを押し開けるとそこは酷く落ち着いていて、両側には新しい世界で生き始めた安居の記憶が息づいてる。

「いいなあ」

ぱたんと閉じる。

僕はそちらに行けない。

精神が安定したその世界には、僕はもう居なくても大丈夫、ってことなのかもしれない。

その世界で安居はどんな顔をしてるんだろう。
笑えてる?
怒ってる?
泣いてる?
誰かを心配してる?

見られたらいいのになあ。

いつか安居が永遠の眠りに着いたら、あの静かな落ち着いた廊下の奥に、僕と同じように意思を持った安居がやってくるのかな。


その時は、とびきりの笑みでこう言おう。

「おかえり」





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最終更新日  2018.12.31 01:02:45
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