Laub🍃

Laub🍃

2018.06.26
XML
カテゴリ: .1次題
彼の顔は親に似ていなかった。
それが彼の最初の分岐点だった。

彼の親は時期に来る戦争や暗殺の危機を憂いていた。
そうして端女の、中でも彼の親に似ている赤子を「彼」として育て、彼自身は端女の子、従者として育てることにした。

彼はよく働き、自分がその立場に居る筈だったとは知らず「彼」に仕え、そうして愛した。
その愛はとどまる所を知らず、「彼」に相応しくない友人や恋人は裏で遠ざける始末するなど過保護の域を超えてなお増殖し続けていた。

そんな彼は、ある時敵国の斥候として勧誘された。

一も二もなく断ろうとした彼であったが、敵国の情勢は探りたかった。
その為彼は裏切ったふりをして二重斥候になった。


自国ではただの惚気と認識される為その対応に彼は違和感を覚えた。

彼は自国に余り不利になりすぎないよう情報を漏らした。
自分が情報を漏らしたとばれないよう自国に敵国の情報を齎した。

だが彼の努力も空しく、彼の演技は見破られ、安全だと確信していた時に敵国の軍隊がやってきた。


彼は同僚を犠牲にしながら「彼」を守って逃げた。
道すがら「彼」に一人で生きる為の工夫、戦い方等を教えた。
「彼」は我儘で放蕩の気はあったものの、本当に挑まなければならないものにはきちんと取り組む人だった。
「彼」の身体は傷と打撲痕が所狭しと埋め尽くし、着ている服も相俟ってまるで奴隷のような風体になりはじめた。

しかし顔を隠し村や都市を転々と移り歩く事にも限界が生じてきた。


彼は「彼」に顔を潰し焼き印を入れる事を提案した。
「彼」は勿論怯えたが、それでも疲弊しきった彼の顔を見て、頷かざるを得なかった。







顔の表面を焼き潰し、目立つ所に焼き印を入れられ、今までの訓練の癒えかけた傷に加え奴隷らしい傷も受け、いよいよもって「彼」は奴隷らしくなってきた。

彼は酒をしこたま呑んだ。恐怖で手が震えないように。

気絶した「彼」のぼろぼろの手を撫で頭に顔を埋め、彼はこの後の事を想った。


彼が痛みで目を覚ますころにはきっと、「彼」は保護されているだろう。
もともとの敵国の攻め込む大義名分は市民と奴隷の開放だった。

そうしてかの敵国は大きくなってきた。


宿屋の下が騒がしくなってきた。


彼は「彼」の痛ましい身体をきつく抱き締め、酒の匂いのする口付けをした。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2018.08.15 14:00:01
コメント(0) | コメントを書く
[.1次題] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: