Laub🍃

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2018.06.28
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カテゴリ: 🌾7種2次裏
虹子の骨の行列についての一考察








宝石が好きだ。
これはよく聞く。

石が好きだ。
これもよく聞く。女には珍しいそうだが。

骨が好きだ。
これを名言する者は常識的な人間には引かれるらしい。
化石や蝶の羽、皮や毛皮、貝殻と同等の存在の筈なのにどうしてそんな目で発言者を見るのか、不思議でならない。


煩わしい反応を返さず、ただそのものの本分だけを果たそうとする健気さがたまらない。
私に余計な追及をせず、私の追い求めるままに探求心のままにその姿を見せるさまが好ましい。


とはいえ、流石に最終試験で自分も油断すればそうなると思い知らされながら量産される死体を見ているのは気分のいいものではなかった。






「骨が好きなの」
「骨も、好き。機能美が好き」

そう答えるとお蘭さんは「私も」と言って、目の前に腰掛ける。

今作っている最中の仕掛けを手伝ってくれるらしい。


「…大学の時、こんなもので仕掛けを作るなんて考えたことなかったわ」
「まあ、そうでしょうね」

目の前にあるのは大小さまざまな動物の骨。



猟師や、物資の限られた場所で生きる人ならともかく、彼女は日本の大学で学んできただけ。
そのまま普通に建築を学んでいて、普通に就職する筈だったのに、未来へ連れてこられた。

「性質もよくわかんないし、下手に焙ったり負荷をかけすぎると使い物にならなくなる」
「でも手間をかけた分だけ如実に答えてくれる」
「いくつも代えがあればそうでしょうよ」



どれもこれも、唯一などではないのだ。
普遍的な、観測可能な法則を有するそれらだからこそ私は安心して愛することができたのだ。

「……代えがないものって、怖くないか。いつ壊れるかも分からない」

安居くんや要さんのように。
……涼のように。

「壊れても見た目では分からないって、怖くないか。崩壊に自分まで巻き込まれる」
「何?欠陥建築の話?」
「建築も、人も」
「……」

そう言うと、お蘭さんはふっと笑った。

「壊れるのがいつも悪いとは限らないじゃない」

悪い笑みだ。
だけど、強くて、何物にも折られることのなさそうな笑み。

死んでいれば死ぬことはない。
だから私は危うい人間より死にかけの人間が、死にかけの人間よりも骨の方が安心する。

だが、この人はどうだろう。

「悪い笑みを浮かべてる貴方がそれを言うの」

昔の涼と同じ、悪くてしたたかでしなやかな、優しい笑み。

「じゃあ言い換えるわ。壊れることで生まれることもある、って、いい話風に」

その笑ってない笑みが想うのは、誰のことだろう。
壊れた世界で彷徨って、変わってきた彼女達のことか。
壊れる世界の為に造られた私達のことか。

「……そうね」

骨も崩壊する。だが土に還り新たな命に繋がる。
石も溶けだし、また固まり、新たな形となる。
それが私達よりも長いサイクルだからこそ、その大きな循環の胎に心をゆだねて安心した。

未来にやってきても、地層や化石のできる条件、鉱石や微生物の生き方はさほど変わっておらず安心したのだ。

けれど遥かに脆く、死にやすく、3か月で入れ替わってしまう私の肉も、こうしてちゃんと壊れながら生まれ変わりながらやってきたのだ。

「いい話だね」

再生と誕生と危うい存続を、少しだけ愛してみよう。
いつか私も骨になるまで。





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最終更新日  2018.12.25 05:00:24
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