Laub🍃

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2018.07.23
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カテゴリ: .1次題
死体は何も語らない。
だから秘密を打ち明ける相手としては死体が最高なのだ。





会社にずっと魂を捧げるつもりだった。
けれど、かみさんが僕のいない間に事故に遭った時も、かみさんの葬式の時も、会社は休ませてくれなかった。
僕も休めなかった。

休んだらかつての先輩や同期のように、今の先輩や同期や後輩を殺しにかかってしまうと分かっていたからだ。

そんなことを11時、会社の帰り道で考えて、帰宅。

会社から電車で15分なのに、最近娘の寝顔しか見ていない。





二台ある冷蔵庫の片方を開けて、そうしてこうべを垂れる。
懺悔するように、祈るように。

愚痴を吐く。
謝り倒す。

酔ってはいない。明日の朝起きられない。

それでも彼女が目の前に居れば僕は酔うことができた。


彼女は僕のかみさんではない。

かみさんは遺体も見ない内に灰になってしまった。

彼女は最寄り駅で電車に飛び込んだどこかの誰かだ。
朝のラッシュ時、僕は彼女のかけらをおにぎりのフィルムやジュースの紙パックの上に詰め込んで、ビニール袋を庇うようにして、家に持ち帰って、そうして素知らぬ顔で自転車に乗って通勤した。


帰ると、娘がメモを残していた。




どうやら娘にどこかの誰かのかけらはきちんと人間として映ったようだった。





僕は人間として欠けているらしい。

だからそれを補う為に必死に仕事をしている。


僕が欠けているのなら、そのかけらはどこにあるのだろう。





僕は新たにそこにどこかの誰かのかけらを詰め込む。

家に帰ると娘と彼女が待っている。

そう思うだけで今日も、上司の暴言にも無茶な仕事にも我儘な顧客にも耐えられるのだ。





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最終更新日  2018.08.25 20:27:10
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