Laub🍃

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2018.08.27
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カテゴリ: 🌾7種2次裏
茂視点IF


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「逃げよう」

 そう言うとある先生に、僕達はついていくことにした。

 選ばれた7人だけが生き残れる。
 あとの何十人もは殺される。

 それを先生は僕達に教えてくれた。

 僕は安居が泣いていた理由を知った。
 源五郎に頼った理由も分かってしまった。


 小瑠璃も繭も同様に安居の守りたい相手だったから、話せなかった。

 でも源五郎には話せたんだ。
 育てた動物を殺す、そのきつくて、辛くて、それでも誰かがやらなければいけないことをする源五郎には話せて、泣けたんだ。

向き合いたくない事と向き合える力があったから、安居は頭を預けられたんだ。

 羨ましかった。
 妬ましかった。

 でも、今回あの先生の手を取って安居達と一緒に外の世界に逃げれば、安居は泣くこともなくなる。僕も落ちることはない。一緒に居られるんだ。

「今度船の講習がある」
「その時に逃げよう」

 僕はその案にもろ手を挙げて喜んだ。

 この計画が成功したら。


 だけどきっと次の生き方を見付けられる筈だ。
 外の人達と同じように、普通に、楽しく、この世界が滅ぶまでの間、暮らして行ける筈だ。

 そして、その新たな生き方や夢は安居が示すんだ。

 僕はそれを支える。
 ここじゃ役に立たない僕でも、外の世界でなら力になれるかもしれない。









 果たして、逃亡は成功した。

 辿り着いた孤立した漁村で僕達は細々と暮らしはじめた。

 迷った、舵取りに失敗したと言って安居達をこの島まで誘導してから2年が経った、今頃なら僕達は最終試験を受けている筈だった。

 安居は何故か要さんの所に戻りたいとは言わなかった。

 ただ、覇気がなくて、涼に喧嘩を売られた時や僕がだらしなくしている時だけ生き生きとしていて、どこか年を取った獣のような仄明るい目をしていた。

 7人以外は殺されるから、だからみんなでここに逃げて来たんだと言ったら、安居は一言

「お前は7人に残りたいとは思わなかったのか」

と言った。

「僕が残れるとは思えないし……そりゃ、残れる力があるのはいいことだけど…
 他のみんなが死んで、7人に残っても、嫌だよ」

 例えば山の中に全員放り出されるとか、猛獣が突然襲ってくるとか、銃を誰かが乱射してるとか、そういう状況だったら、その場ではもちろん生き残ろうとするだろう。
 皆、早く自分と友達恋人以外の「8人目」が死ぬ事を祈ってしまうだろう。

 それでも、生き残った後にきっと死にたくなる。
 死んでいた方がまだ気が楽だったと思うだろう。
 輝かしい、支えないといけない未来なんかよりも、大事な人と過ごせた筈の時間の方がずっと大事なんだから。

 なんて、それは責任感がない僕の考えだけど。

「…そうか。……そうだな。そうだよな」

 安居はそう言って、何か考え込んでしまった。

「安居?」
「……悪い、一人にしてくれ」
「……うん。じゃあ、…あっちの罠、見てくるね」
「ああ」

 安居を気にしつつ魚の罠の方に歩いて行くと、安居が小さく何事か呟くのが聞こえた。

「……未来、か…」

 それはどんなものだったんだろう。
 その未来では安居はどれだけ沢山の人々を救ったんだろう。

 もしかしたら安居達が行かないことで他のどこかの子供が同じように犠牲になるのかもしれない。先生達は、今度は逃げようとしても絶対に逃げられないようにするのかもしれない。
 もしかしたら安居達が行かないことで、助けられた一般の人達が未来で苦しむのかもしれない。逃げる場所もない未来で野垂れ死ぬのかもしれない。

 それでもいい。

 未来では大事なものは殆どなくなってしまっているだろうから。
 大事なものの為じゃなくて、生きる為だけに生きるのはきっと、とてもつらいだろうから。


 もうすぐ終わる世界。

 ここで僕達は生きていく。 

 大事な人と共に。




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①連れ戻される
②このまま34歳になって隕石・天変地異等を甘んじて受け入れる





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最終更新日  2019.01.15 01:03:59
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