Laub🍃

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2018.11.02
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カテゴリ: .1次題
この村は閉じられている。
この村には頭のおかしい奴等ばかりが住んでいる。
大人も子供もみんなそうだから、俺はもう諦めることにした。
それに頭のおかしい奴を見ていると自分がまともだと実感できてうれしい。
それなのに外の世界に行きたいと幼馴染は言う。

幼馴染は外の世界での普通を見たいのだと言う。
外の世界になんて行ったら自分たちが異常になってしまうのに。
外の世界に行ったら俺達が頭のおかしい奴として見下されてしまうのに。
それでも俺は幼馴染が大事だったので送り出した。

戻って来たらせめてフォローしてやろう。
元々低い身分のあいつが、生意気だと嘲られても暴力を受けても庇ってやろう。

「外は安全だよ。信頼できる人も居る」

はたしてそいつは一年で帰って来た。
嘲るような、安心するような、微妙な笑みを浮かべる俺にそいつは言った。

「古い考えを残している村なんだね、と言われたんだ」

いつもの隠れ家の近く、いつも俺が巡回する場所で呼ばれたと思えばこんなことを言う為に呼んだのか。よく分からないながらも耳を傾ける。
本題は何だろう。

「そんなところに居る子供達が可哀想とも」

そうだな。お前は可哀想だ。

「そんな事を言う為にわざわざ戻って来たのか?この村が嫌なら、外で生きやすいように生きればいいじゃないか」


首を傾げる俺の手を取って、幼馴染はこちらを見つめる。

「この村はおかしい…だから僕は君を連れて逃げたい」

「は?」

「僕はもともとこの村で身分が低い。だから居なくなってもどこかで野垂れ死んだと思われるだけだ。だけど君は可哀想だ。君は下手に祀り上げられてるせいで逃げられないし余計な荷まで負わされてる」

ここは古いし頭がおかしいけど俺達は別に可哀想じゃないし可哀想なのはあの大人達と虐げられてるお前だし俺はせめて皆を良い方向に導く為に必死で生きてるのにお前はどうしてそれら全部をぶち壊すようなことを言うんだ?


「嫌だ」
「君は洗脳されてるんだ。ここでしか生きられないように。そんなわけないよ」
「俺はおかしくない」
「逃げられるんだよ、君と僕は。逃げようよ」
「やめろ!俺を、変な所へ連れて行くな!」

俺の悲鳴のような声を聞きつけて、大人たちが走ってくる。
木陰の、大きくなり始めた体なんてすぐに見付けられる。

袋叩きにされる幼馴染を見て、同情と怒りを感じる。

こいつは許されるつもりなんだ。一度逃げた癖に。
こいつは馬鹿なんだ。可哀想に。

「待、っ…て…」

背を向ける俺に、幼馴染が声をかける。

「俺はこの村を守る」

可愛そうな幼馴染に諦めさせてやる為に。
可哀そうな大人達に安心させてやる為に。

俺はいつも通り、そう宣言した。





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最終更新日  2018.12.30 19:09:56
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