Laub🍃

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2018.11.15
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カテゴリ: 🔗少プリ
・随分前にネタだけ考えて放置してた現パロ幽霊話
・直→11歳 恵→6歳 サムライ→???
・鍵屋崎家の場所を改変しています
・直ちゃん誕生日おめでとう


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 僕達の住む町は丘の上にある。

 昔ここでは大きな戦があったらしい。

 その戦には多くの武士だけでなく民達も犠牲になった。
 今もその怨念のせいで、そこに建った建物では決まって事故や事件が起き、廃墟になるらしい…。




 お兄ちゃんにあげるよと前日言ってくれた恵の笑顔を思い返す。

 僕は恵の作品を確実に持ち帰り、あの笑顔を取り戻す。
 勿論暗い顔の恵を放っておける筈がない。一緒に絵を描いて、一緒にピアノの練習をして、恵の気分を晴らす事にまず僕は注力した。
 両親がまた研究の為に外国へ行っていたのも幸いだった。一生帰って来なくてもいいくらいだ。

 しかし。

 ぐっすりと、しかし目に少し涙を滲ませて眠りにつく恵を見ていると、恵へのやり切れない想いと恵に愚行を働いた低能どもへの怒りがふつふつと煮えたぎってくる。

 お兄ちゃん取りに行かなくていいよ、と恵は言った。
 恵は優しい。自分の欲求よりも僕の安全を重んじたその発言にまた僕は感動したが、それでも恵に我慢を強いるのは本意ではない。

 恵が寝静まった事を確認し、僕は上着を羽織った。
 懐中電灯と鍵とマスク、ついでに護身の為、父のナイフを持って家を出た。







 夜の廃墟は冷える。
 腐っても秋の初めだ、生ぬるい風と冷たい空気が交互に押し寄せてくる。

 明日も研究の協力者と会わねばならない、風邪をひくわけにはいかない。
 懐炉でも持ってくるべきだったかと思いながら僕は歩みを進める。

 もとはショッピングモールだった為見通しは良く、またどこかの低能により数か所割られてそのままになっている為風通しもいい。

 慎重に踏み出す。一応怪我をしないよう季節にしては厚着でやってきたつもりだったが、鋭利なガラスの断面を見ると、足りなかったかもしれないとも思う。
 6歳の子供だと楽に通れる大きさの穴でも、11歳の僕には少々辛い。

 全身が屋内に入った時、ぱき、とガラスを踏んで音を立ててしまい、肩が跳ねる。

 誤解のないよう言っておくが僕は無神論者であり、幽霊、霊魂の存在などけして信じてはいない。
 だが廃墟には不審者、不良が存在する可能性が高い。鼠や狸などによって感染症を齎される可能性もある。窓が割れ排水管も老朽化している為水漏れが激しい。扉も錆付き、少し動かすと嫌な軋みの音が鳴る。


 しかしそれは好都合でもある。
 他に不審者や警備員が居た場合それを把握することができるからだ。
 また、恵のクラスの男子が置いた場所もある程度限定できる。


 恵は『何でそんな事訊くの』と言いながらも、クラスの男子が度胸試しにと置いたらしき場所を教えてくれた。

 まず、雨のかからない屋内であること。
 周囲を巡回する警備員には見付かりにくい、大通りから離れた場所であること。
 剥き出しのままであり、見ればすぐわかる所。
 6歳程度の男児……恵より10cm程高い身長の子供の手が届く高さ。あるいは、高い所に置く為の台がある場所。
 男児が置いて戻ってきた時間から察するに、この入口からそう離れた場所ではないこと。



 以上の条件をもとに、僕は捜索を開始した。









 ……見付からない。

 やはり予定を変更してもらい、昼間に改めて探しに来るか。

 暗闇と汚い店内の状態にも慣れたが、体力がもたなかった。
 厚着をしてくるんじゃなかった。暑い。

 不審者などより自分の体力の無さの方が警戒すべき問題だった。
 喉が渇いた。水が飲みたい。

 いや、そんなことよりも恵の作品の安否が大事だ。
 取り戻したら恵は微笑むだろう。ありがとうといつもの柔らかい声で言うだろう。
 僕はその為なら何でも出来る。

『……おい』
「なんだ、今忙しいんだ、後にしてくれ」

 応答した瞬間、ぞくりと悪寒が走る。
 背後に、なにか、居る。

『探し物か』
「……」
『昼間男児が』
「それだ!!昼間低能どもが僕の妹から奪いこの廃墟に持ってきたものはどこにある!?君は警備員か!?不審者か!?どちらでもいい、可及的速やかにそれが置いてある場所に案内しろ!!」
『……あい分かった』


 振り返ると、黒い大きな人影が立っていた。

 ……薄暗い場所だ。僕の視力は悪い。
 ……だが、懐中電灯で照らしているのに、ここまで人は黒く見えるものだろうか。
 シルエットはぼんやり分かるのに、色合いは一律の黒だ。
 全身タイツでも着用しているのだろうか。不審者ならあり得ることだ。

 シルエットで分かるのは、頭や体に何か細長いものがついていることだ。
 やはり不審者か。ロックやパンクなどに影響された若者か。
 低く、少し渋い声からして、どちらかというと剣道や盆栽を嗜みそうな男のようだが…

 しかし『彼』は迷いなく、滑るように進んでいく。

「……よく、見ていたな。君は警備員か?それとも不審者か?」
『……ここを見守っている』
「そうか。外で、自転車に乗った警備員なら見たことがあったが……内部も巡回していたんだな。初耳だ」
『時々、下郎が罪を犯す為にここへやって来る。……追い出さねばならん』
「……廃墟にしては、安全に感じたが、そのお陰か」


 恐らく幽霊の噂はこの男のせいだろう。
 黒い服装も恐らく目立たず、不審者に襲われない為だろう。
 低能とはいえ、折角街の治安維持に貢献している人間を悪霊呼ばわりとは、失礼にも程がある。


『……ここだ。この像だろう』
「!!!そうだ、これだ」


 小学生男児にしては足が速かったのか、男児は案外奥まった所に恵の作品を置いていた。

『お前の妹のものか』
「ああ。妹が僕の為に作ってくれた」

 それは小さな紙人形の像だ。
 恵と、僕が前に二人並んでいて、後ろに母と父が並んでいる。
 台座には色とりどりの花が幾つも飾られている。

 その顔は一様に笑っていて、こんなみすぼらしい廃墟の中でも温かな存在感を保っていた。

『可憐だな』
「だろう。僕の妹はどんなものでもこうして可愛らしく表現する術に長けている」

 鼻を高くする僕に、何故だか人影は少し笑った気がした。

「おい、何を笑っている」
『……大事にしているのだな』
「当然だ」

 何に代えても守りたいほどに、大事にしている。






 紙人形を左手に抱きかかえ、右手に懐中電灯を持ち、再び出口まで向かう。
 後ろには例の男が居る。
 背中を見ず知らずの、体格のいい男に預ける事には少し抵抗があったが、この男なら大丈夫だろうという安心感もあった。


「……世話になったな。……ああ、あと、一つ聞き忘れていた。君の名前は何だ」
『………名前…』
「ああ。僕から名乗った方がいいか。僕は鍵屋崎直だ」
『…かぎやざき……なお………なおか…』
「そう珍しい名前でもあるまい。君の名前は何だ。情報漏洩になるから教えられないとでも言うのか」
『……いや…そうではない…………サムライ…』
「は?」
『サムライとでも…呼べ』
「さむらい?」

 侍。茶村井。サム=ライ。

「待て、それは苗字か?名前か?フルネームか?そもそも本名か」


 ガラスを越え、振り返った瞬間。

 ふっと、黒い影改め『サムライ』の存在感が……消えた。


「……さむらい?さむらい、どうした!」

 一体、どこに。


「おい、お前こそどうした。ここになんか用か」


 声が帰って来たのは期待していた方向とは逆の方向。


「……!なんだ、五十嵐か」
「五十嵐さんって呼べよ、まあいいけどよ」


 くたびれた中年の巡回警備員は笑う。

 屋外に出たからなのかもしれないが、ずっと黒い影と一緒だった為青い服や金具の反射光が新鮮だ。


「低能どもが恵の作品をこの中に置いてきた、だからそれを取り戻してきただけの話だ」
「だからってこんな夜中にガキ一人で……あぶねえぞ」
「昼間の要件を外すと両親に連絡が行く。両親の部下に協力者を募っても確実に裏切って連絡するだろう。消去法でこうしてやってきた次第だ。案ずるな、先程まで他の巡回警備員と一緒だった」
「……巡回警備員?」
「そうだ。聞いていないのか?この広い治安の悪い地域を、疲労を重ねた君一人では管理が難しいと判断されたんだろう。さむらい、という190程度の身長の男が見回っていたぞ」

 丘の上だけでなく、トンネルを通って向かう造成地も五十嵐の担当エリアだ。
 高級住宅地のある丘と、工場街のある造成地の間には崖があり、その端にあるこの廃墟はある。その為ここは丘・造成地双方の子供達の興味を悪い意味で引いてしまって問題となっていた。

「さむらい…?そんな新人の名前聞いてねえけどなあ……身長も、190って。そんなん居たらさすがに覚えてる気がすんだけどなあ……お前にとっちゃそりゃでっかく見えるだろうけどよ…」
「馬鹿にするな、大体の大きさくらい視認できる」
「そうかぁ?」


 五十嵐はぼりぼりと頭を掻き、「じゃ、家まで送ってくよ」と申し出た。

「それには及ばない。貴方はいつも通り町中の不良どもの相談にでも乗っていればいい」
「へえへえ」



 人通りの比較的多い場所を歩いていく。
 今は夜中の3時。不審者の主な活動時間は帰宅時間である午後7時から午後9時、また酔っ払いが多いのも午後10時から12時だ。今の時間帯は比較的安全、早く起き過ぎた老人が飼い犬と散歩しているくらいだ。


「さむらい…か。」

 裏口の鍵を開けながら考える。
 またどこかで会ったら、今回の礼をすることを考えてやらなくもない。

 家の中に戻り、恵の寝顔を確認し、部屋に戻る。
 明日目覚ましがなる時が楽しみだ。

 恵はどうやったの、と驚いて笑うだろう。
 警備員が発見していて、案内してくれたと言っても心配してくれるだろう。

 温かな予想を抱えて、僕は眠りに落ちた。





【続】





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最終更新日  2018.11.22 18:43:12
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