Laub🍃

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2018.11.25
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カテゴリ: .1次小
陽炎にあてられた君の首がいやに記憶に残っている。



 君の長い髪の毛が一斉に風になびくさまはまるで映画のワンシーンのようだった。

「はるちゃん」

 そう呼びかけられた君はふっとこちらに笑いかけて、次の瞬間陽炎のように消えた。
 婉曲的な言い方だと散々に言われた。そんな美しい独特の形容詞で表現するなと言われた。
 誰がなんといおうと須原晴子-すばるはるこーは僕が目を離した隙に消えたのだと、そういうことに大人たちはしたいようだった。

 長い長い間ずっとそういわれ続けて、はるちゃんの捜索ポスターも黄ばんだ今、僕ははるちゃんの足跡を追ってこの世界にやってきた。
 この世界で出会った耳長の人々の中に相続され続けている物語を聞いて「はるちゃんだ」と思い至った。つまり僕の研究の成果である、逆召喚の術は成功したのである。
 ただしここからが本題だ。はるちゃんはとうの昔に亡くなっているとのことだった。

 僕が初めにやってきた地は「パンプ」といい、傭兵業を営む村だったため、そこで医師見習いを名乗り色々とやらせてもらった。
 この世界にやってきた当初、国の境目を超える時などは主人のテンションが高すぎて待って置いてかないでくれとよくなったものだが、最近はむしろ逆になってきてもいる。傭兵村の貢献のためというより自分のために頑張っているから、そんな自分を憧れの目や信頼の目で見てくれるみんなの目が痛くもある。
 スタンドバイミーと同様に、幼い頃の記憶をずっと僕は引きずっている。
 犯人に感情移入したかのようなことを言う近所のおっさんを殴り飛ばしたはるちゃんのお兄さんのことも、僕に繰り返し質問をしては諦めたように溜息を吐く刑事さんのこともずっと覚えている。「俺達は暇じゃないんだ」「お前の夢物語に付き合ってる暇はないんだ」何度言われたことだろう。
 だけど今僕が見ているこの世界が夢ではないのなら、その夢物語こそが今はるちゃんに繋がっているのだざまあみろと思えてならない。

 大地をころころと転がるケセランパサランは、遠い昔にはるちゃんに僕があげたものと同じだ。ただの植物の種に、はるちゃんは長い祈りを捧げていた。ずっと持ってくれていたのだ。
 そしてそれが世界を幸せにするお守りと信じてか、それとも僕のことを思い出してかはわからないけれど、国に行き渡らせて幸運の象徴として知らせたんだ。

 はるちゃんの絵物語は展開が速い。はじめこの世界に不慣れだった幼女のはるちゃんが、待って置いてかないでと頑張った結果この世界に馴染んで、魔王を倒して、子孫を残す話だ。
 古井戸の水を汲みながらよく耳長のお兄さんが教えてくれた。この世界の文字ーキンドと言うらしいーの読み方が分からない僕に色々と教えてくれたお兄さんは、はるちゃんのことをよく『アウター』と呼んでいた。外から来た女神という意味らしい。

 アウター。そう。正しく僕たちは外から来たのだ。だからこそ外からきて、外に帰りたい。はるちゃんを連れて、僕たちの日常に帰りたい。
 はるちゃん以外の誰しもを忘れても、はるちゃんと過ごしたあの日々を取り戻したい。






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最終更新日  2021.04.25 17:06:24
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