Laub🍃

Laub🍃

2019.06.03
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カテゴリ: ◎2次表
・今週の童磨さん「寺院はかわいそうな人たちを保護してた」
・先日の童磨さん「俺は大人」
・先日の無惨様「情報が確定したら向かえ」
・上司の前の猗窩座殿:極力余計なことを喋らない

から妄想した参+弐+無の出会い&鬼化SS。
多分鬼化の理由全く違うんだろうけど妄想するなら今のうち

あらすじ:

・無:十二鬼月黎明期/身を守り薬を探させる筈の部下によってピンチに陥る/どんどん部下に切れる間隔が短くなる
・弐:童子のまま鬼になる/アダルトチェンジできるようになる/力が欲しい/多様な価値観を有しているけどそれを感情にして発散する方法がわからない/周囲の期待に合わせて演じることはできるのでわからなくても特に困らない

・壱:引き入れ済/斥候兼暗殺者として無惨のもとに下るが失敗/鬼としての本能VS鬼滅の衝動でよく暴走する/理性と秩序への執着で暴走を抑え込んだ後しばらくは無惨の言うことをきく/自分が不甲斐ない


***** ******


 今から百年以上前。
 その日俺はぱき、という軽い音で早く起きてしまった。
 はじめは俺を狙った侵入者かと思った。
 極楽教には虐められている人や騙された人など可哀想な人たちがよくやってくるけれど、一方で虐めていた人や騙した人が彼らをさらに餌食にしようとやってくることがあったから。
 その時とる手段は二つ。
 追い出すか、説得して仲間に入れるか。
 その見極めをすべく、俺は歩き出した。
 薄暗い、けれど雪の照り返しでほの明るい明朝、二つの影が屋敷の木陰から縁側に入るところだった。
「無惨様、大丈夫ですか」

 青年の声と、妙に低い声。
 暗くてよく見えなかったけど、片方の影は小さく、もう一つの影がそれを包んでいるのは分かった。
 親子?いや、主従か。
 どちらにしても、心配の言葉をかけているほうの声は本心から案じているものだった。
 信者の皆を日頃から案じる俺としては、人が人を案じる気持ちはまだ多少の共感ができる。

 だから声をかけた。
「…あの…追われてるんですか…?」
「…!」
 近付くと、その影の意識がこちらを向く。
「……」
「よければ匿いますよ」
「……」

 俺の言葉に、大きいほうの影は逡巡し、小さいほうの影は物凄く苦々し気な声色で言った。
「……食い物だ。回復したら、すぐにここを発つ」
「はい」
 抱えあげられた小さいほうの影は、はっきり喋っているにも関わらず、赤ん坊くらいの大きさしかなかった。四肢を断たれているのか。可哀そうに。跡目争いで敗れた元後継ぎとその家臣というところかな。
「おい、童子。暗い部屋を用意しろ」
 家臣のほうは元後継ぎの子に使う声色とは真逆の偉そうな声で指示してきた。
 俺は優しいから気にせず案内してやる。
 暗い中でも映える肉色の髪。爛々と光る月色の目。
 そんな威圧的な風貌にも関わらず、部屋について安心したかのように緩んだその影に、寺院に駆け込んできたたくさんの信者たちを思い出す。
 俺はまた二人の人を助けることができたんだ。
 *
 あれから数か月が経って、俺はあの朝方の客人を如何するか悩んでいた。
 寺院の中で体格のいい男を中心に人が消えているのだ。
 特にあの二人の部屋に近づいた者、世話をした者から消えていっているようだ。
 ここから人が居なくなるのは珍しいことではない。
 神様ではない俺のことを嘘つきと罵って去っていく元信者の人たちや、恵まれない信者の為の寄付をする家族に厭われて寺院から連れ出される人は多少居たけれど、それにしてもこんなには多くなかった筈だ。
 信者たちがあの客の鬼気迫る様子に逃げ出したのか。
 あの客人が信者を殺し、見張りにも見つからないよう隙をついて死体を捨てたのか。
 どちらもあり得る。しかし何人も悲鳴をあげさせず殺せるものか?それにここまで死体が見つからないなどあり得るのか?
 やはり信者の皆が逃げたと考える方が自然か。
 あの客人は怪しい、他の信者の為にも追い出してほしいという陳情もあるし、手負いの客人を容赦なく放り出すのが寺院の為を想う俺なら正しい行動なのかもしれない。
 でも、できればそれはやりたくない。居場所のない弱い者、他に頼る相手のない下の者は、上の者が助けてやらなければ。
 どちらにしろ俺自身の教祖としての力が足りていればこうはならなかったはずだ。
 彼らを受け容れる度量を、余裕を与えていればよかった。
 あるいは彼らと信者が衝突しないための工夫をしていれば。
 心が幼い者の為に、俺が大人になって、調停をしなければ。
 どうする?考えよう、考えよう。
 いつも褒められる白橡の髪の隙間、こめかみに指をあててぐりぐりする。
 ああ、そうか。女の人だ。
 女の人だけをあそこに近付ければいい。
 男性には不向きなのかもしれない。
 女性の世話役は彼らを恐れてはいても通ってくれているから…顔を見るたび苦々し気な口惜しそうな顔をされるらしいけど…客人には女性の世話役をあてがおう。
 今宵の世話役の目の前、俺は微笑んだ。
 *

 客人の様子を見に行った女性の世話役が帰ってこない。もう明朝だ。
 はじめての事態に、流石に様子を見に行かねばと言う。
 信者達には危ないからと止められたけど、ここまで信者が消えていれば教団としても危うい。
 いくら人が消えようともここは俺の住処で、俺に命や心を救われた人が居て、俺は守られている。俺は期待に応え続け、教団を脅かす者は排除してもらっている。何かに追われているらしき彼らに必要な食べ物も、住処も用意できる反面、彼らが俺や教団に害を及ぼすならば出て行ってもらう力も持っている。
 信者の中でいっとう逞しい数人に守られながら、歩き出す。
 部屋に近付くと声が聞こえた。
 低い苛立った声。
 数日きいていなかった声だけど、ここまで低かっただろうか。
「猗窩座。貴様が、青い彼岸花の偽の情報に踊らされるからこんなことになる」
「あの剣士もしぶとい、鬼にしてもここまで抗うなど」
「また補わなければ」
 叱責の声。お取込み中かな?信者の彼女はどうしているんだろう。
 いろいろな考えが巡るけれど信者の手前、堂々としたしぐさで戸を開く。
「……お邪魔しま…」
 そして目に飛び込んできたのは、女性信者の死体と、それを貪り食う小さな影。
「……」
 息を呑む。賭博に溺れる亭主から逃げてきた女性だった。
 荒れた豆だらけの手は、持ち主から離れてただ揺れてるだけ。涙が出た。
 大きな影のほうは近くで頭を垂れていたけれど、俺の視線に頭を上げる。
 直後、俺の背後に居た信者の方から何か水が飛んできた。
 生暖かい。
 水じゃない。血だ。
「っ…」
「今見たことは忘れろ」
 風より早く、大きな影が俺の隣に立っていた。
 その腕は信者の頭を貫いている。
 たくましい男性だったのに、奥さんに間男と逃げられて絶望して泣きついてきた彼。
 本当にあっけない最期だった。
 ああ、可哀想に。
 部屋の明かりに照らされた顔には罪人のような刺青が幾重にもあり、その目は人では有り得ないほど青く、罅割れのように血走っていた。
 鬼だ。
 今日の何人目かの信者も言っていた、鬼に父を食い殺されたと。
 恐怖から人が作り上げたおとぎ話じゃなかった。
 俺は死ぬのかもしれない。
 そう思ったけど体が動かせない。
「猗窩座、そいつも殺せ」
 目の前の薔薇の色と、隣の金にとらわれて動けない。
「……は」
「俺も仲間にして」
 咄嗟に声が出た。
 鬼の手がぴたりと止まる、その目は訝しげに細められた後、主の方を向く。
「命乞いか」
「命乞いではありません」
 これは、奇跡だ。
 鬼という存在は、俺の望まれる奇跡という形にきっと一番近い。
 きっとこの力があれば、俺はもっと、人を救い、人に信じてもらえる。
「青い彼岸花、っていうのを探しているんですよね」
 本当の神様に近くなれる。
「俺ならきっと、力になれますよ。
 人としてでも、鬼にされても」



 安心させようと微笑んだ。
 鬼にこの表情が通じるのか。泣いて土下座したほうがいいのか。狂喜したような顔を浮かべた方がいいのか。
 さて。
 表情で失敗した時の信者の顔、直後正しい表情に修正したあとの安心した顔が思い浮かぶ。

「……気に食わんな。笑顔を浮かべ、出来るかどうかも怪しいことを言うなどと」
「殺しますか」
「忌まわしい人間の頃にもそんな奴が居た。中途半端に期待を持たせ挙句このような欠陥をもたらした。
 猗窩座、貴様もだ。人間の生でも鬼の生でも失敗をし続けてまだ飽き足りないか」
「申し訳ありません。俺は人間の頃を覚えて」
「言い訳をするな」
 目の前でこんなやり取りがあっても俺は微笑み続けた。
 どうやらその反応は正解だったようで、数刻後、俺は鬼にしてもらえることになった。


 *
 本当に初めの頃は、猗窩座殿も優しかった。
 下の者を育てる上の者だった。
 弱い者を生き延び闘えるようにする強い者だった。
 妻を失ったのち子を一人育てていた、あの信者のようだった。猗窩座殿に殺されたけど。
 俺が猗窩座殿を追い抜いて、特に冷たい目を向けられたのが不思議だった。
 面白くないかもしれないが、下の者になったのだから素直に上の者の好意は受け取るべきだろうに。

 助言も、悪意なく馴れ合うことも、俺からすればいいことなのに。時折愚かではあるけれど、美しいことなのに。




「本当に鬼になりたいのか。
 人を喰いたくてたまらなくなるのだぞ。特に鬼になった直後は近くの人間を襲って喰う。
 ここを住処として保ちたいならば外に食事に行くべきだ」
「いいよ、ここで。なんとか隠すよ」
「記憶を失ってもそう言えるのか」
「覚えてるよ。俺にはそれだけだから」
 結局のところ、記憶は失わなかった。
 失わないまま、人を喰った。
 後悔はなかった。

「血の量をもっと多くはもらえないの?」
「…無惨様にそれを言うなよ。粛清される。
 ……俺は18で鬼となったらしい。あのお方も同じくらいだ。お前は幼すぎるし貧弱すぎるから、もし血を多くいただけるにしてももう少し鬼として耐性を付けてからということになる」
「じゃあ俺は、強くなるよ。たくさん喰って、鬼として闘えるようになる」
「……栄養価の高い人間なら、もっと強くなれるだろう。稀血の持ち主や、強い闘気を持つ人間達など」
 子供だからとはじめはあまり血を与えてもらえなかったけれど、人を喰い力をつけるごとに無惨様から血を新たに与えてもらい、そのたびに俺のできることは増えていった。
 心だけでなく体も大人になれた。
 その過程で、同じ人数喰ってより強くなれるのは女の人だと分かった。わかってから、強くなろうと日々鍛錬を続ける猗窩座殿に教えてあげたけど、何故か喜んでくれなかった。
 俺の造る極楽はますます冴えて美しく強くなり、より多くの人々を強い人々を屠れるようになった。
 背も強さの順位も猗窩座殿を含め、沢山の年上の鬼達を越した。
 けれど俺の血鬼術は無惨様の本当に望むものではなかった。
 青い彼岸花も、鬼狩りの居場所もわからず、ただ人づての情報を仕入れては確かめて落ち込む日々。
 向いてなかった。それが悟れないほど頭が悪くなかった俺は、早々に別の方法、鬼の増加と戦闘で期待に応えることにした。
 もちろんあの頃の二人と同様、弱った者が居れば匿ったり、信者として受け入れたり、鬼にしてあげたりという頑張りも同時進行。
 だけどこれがなかなか報われない。
 鬼にした人は大小の差はあっても性格が変わってしまうし、猗窩座殿の言ったように記憶を失って人として大事にしていたことも愚かなりに悩んで苦しんで美しい結論を出したことも忘れてしまう者ばかりだった。
 人のまま永遠に幸せにしてあげるには方法は限られる。だって本当は極楽も地獄も存在しないのだから。
 信者達を食べて幸せにしてあげても、それでも俺の説く幸せに共感して一緒になってくれる人は殆ど居なかった。
 年をとらないことは奇跡として受け入れるくせに、俺が代わりに人を喰べることは受け入れてくれない。
 永遠になりたいと望むくせに、俺が永遠にしてあげようとすると拒む。
 俺が皆を受け容れることは当然なのに、皆が俺の理想を受け容れることはない。
 愚かだから仕方ないのだけれど、まあ残念なことだ。
 嘘つきって。
 琴葉の言う声は、母の言う声と同じ色だった。
 もっとも母については大昔の記憶だから、15年前の琴葉に比べ大分古色を帯びているけれど、それでも、俺が渡されるべき言葉じゃないってことだけは分かる。
 それが心が綺麗ということなら俺はそうなれそうもない。
 心の綺麗な人、誰かを大事にしてる人にそう言われると、俺はそっちの仲間になれないみたいに言われてるようで泣いてしまう。
 綺麗な人をたくさん、誰かを大事にしてる人をたくさん食べても、そうでない人も好き嫌いせず食べてるからダメなのかもしれない。
 それでも俺は猗窩座殿のように偏食などしない。
 女の人の方が俺の力になってくれる気がするから多くは食べるけど。

 鬼になるよう勧誘して失敗し、闘い、長い間苦しめて殺した相手を喰らう猗窩座殿と違って、短い時間で殺して食べてあげる。たまに向いていそうな子を誘ったりはするけれど、概ね永遠を望む者はよほど追いつめられていないと鬼になる道を選ばないからー猗窩座殿の失敗がいい例だー、めったなことでは誘えない。
「人間の頃からお前は闘気が薄かったな」
「赤子のような無邪気な闘気で」
 猗窩座殿と手合わせした時言われたことが思い浮かぶ。
「よくそんなことをできるものだ」
 あの時は猗窩座殿の言ってる意味が分からないまま、俺は微笑んだ。

 どうしてだろう。鬼同士なら理解しあえるはずなのに、仲良くできるはずなのに、どうして皆そうつれないんだろう。
 無惨様の呪いのせいなのかなあ。でも共闘している者も見かけるし、俺にもできるはずだよなあ。

 鬼として鬼に理解された時、確かに俺は安心した。だから俺も同じように誰かを救ってあげたいのに。
 大人として。優しいひととして手を差し伸べているのに、誰もかれもつれない。
 幸せにしてあげているのに、理解してくれる人、共感してくれる人は殆ど居ない。頭が悪いからだ。
 幸せにしてあげたい。それが俺の幸せだ。
 わかってくれる人は未だに見付からないけど、鬼の皆も各々の欲望に正直過ぎて共感してくれないけど、この理想に準じることが正しくて美しくて無垢なことなんだよ。



 誰かを幸せにしてあげたい。そうすると俺も幸せになれる。

 当たり前のように染みついている認識。
 だからこそ赤子のように傍若無人に振舞う者に幸せにされる人の気持ちが理解できない。
 共感できない。
 弱いから?
 愚かだから?
 だから大事にしてる?
 ずるいなあ。
 俺は強く賢くいないといけなかったのに。
 それでも。
 俺は鬼だから、と、人とは別の枠であると考えれば、納得できるようになった。
 同時期に鬼となった弱い彼らのように、人喰いの衝動に絶望したりはしない。
 猗窩座殿だって弱者は嫌いなのに、弱者を強者に近づける為の努力は惜しまない。鬼への勧誘も、鬼の弱点克服の薬探しも猗窩座殿の日課だ。失敗続きみたいだけど。可哀想に。
 無惨様も拘りを持つ鬼の方をお気に入りにしてるのは分かる。
 与える血が多くても自我と体を保てるからだ。
 美しい者を喰らう堕姫。
 恵まれた者を妬み憎む妓夫太郎。
 守られ庇われたい半天狗。
 芸術を追求することに固執する玉壺。
 強い男と闘い、仲間にしたがる猗窩座殿。
 規律に厳しい黒死牟殿。
 俺の大事な仲間達。
 そして教団で人を救う おれ

 皆人間だった頃の名残が鬼として歪んで残ったからこそ強い。
 反面、人間としての名残を人間らしく残していると弱いんだ。

 人として強かった感情を尖らせるなら、俺が選ぶのは一つだ。

 人を安心させ、幸せにしたいという想い。



「入ってもらっておくれ」
 俺は鬼として、弱い人を受け容れ、救い続けよう。
 力を得よう、もっとたくさんの人を救える力を。 
 幸せを得よう、人を幸せにして感じる幸せを。





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最終更新日  2019.06.08 02:18:00
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