Laub🍃

Laub🍃

2020.04.01
XML
カテゴリ: .1次小
父親のようには絶対にならないと決めていた。
 品行方正に見せかけてその裏で好き勝手していた男優の父に反発して俺は不良になったし、その中で仁義も通した。
 あらゆるものを手に入れた。父と方向性は違っても、確かに俺はカリスマ性だけはあったようで、いつも少し我慢し努力するだけで慕ってくれたり支えてくれるヤツらが居た。

「イサオ、またお邪魔してるぞ」

 それでも、一番欲しいものはまだ手に入ってない。

「邪魔なんてこたねえよ。アンタが居なけりゃ俺はここに戻る気すらしねえ」
「そうか、それは光栄だな」

 ははと笑うその顔は年齢に見合わず若い。
 この人ー結賀さんは俺の父のマネージャーだ。


 父は俺に無関心だ。いい子にしようが荒れようがどうでもいいらしい。苗字だって違うものを名乗っているし、住所だって変えてるんだから問題なんてないんだろう。

「丁度できたぞ。この間これ食べたいって言ってただろ」

 そう言ってひまわり柄の皿に盛りつけ出されたのはハンバーグ。

「おっしゃ!頂きます!!」
「そう喜んでもらえると作った甲斐があったな」

 結賀さんは、一度も俺を育てることについて不平不満を言ったことがない。たまにやってくる父に試すようなことを言われても、逆に父を窘めてくれるくらいだ。
 こんなにできた人がどうして父なんかのマネージャーをやってるのか分からない。
 何か弱味でも握られているのか。

 ダダンダンダダン…と和やかな空気に相応しくないコール音が響く。ちっ。心の中で舌打ちをする。

「…結賀サン、もう行くのか」
「悪いな、アイツからの呼び出しだから」


 お父さんお父さん魔王が僕を連れて行くよなんて曲を小学生の時習ったが、その時俺は魔王を父、僕を結賀サンに当てはめて想像した。
 大きくなったら結賀サンを魔王もとい父から助けたいと思ったが、それはまだかなってない。

 -というより、かなえようがないのか。

 結賀サンは父の言うことを聞いている時、疲れた顔をしてはいるが、活き活きともしてる。

 まるでそれが生き甲斐だとでもいうように。


 父を超えるのは悪の方面じゃ無理だ。正しい道に俺は進む。そして結賀サンをいつかそっちに一緒に連れて行く。

 俺の目の前で結賀サンはちゃちゃっとハンバーグを食べて出掛ける支度をする。
 こんなにうまいのに、あんなんじゃ味なんてわかんねえだろう。

「洗い物はやっとくから」

 とはいっても手際の良い結賀サンの出した洗い物なんて大したもんじゃないが。

「そうか?ありがとうな!」

 ばたばたと出掛ける結賀サン。俺は独り残されたリビングで、結賀サンの味を噛み締めていた。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2021.04.04 10:43:42
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: