南人のページ

南人のページ

2013.02.16
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類
「少年とピアノ」


ーーー震災を機に音楽の力に目覚めた少年の物語です。ーーー
ーーーどなたか絵を描いて、絵本を完成させてくれたら幸いです。ーーー



キー坊は、元気な男の子です。




学校の友達と遊ぶのが大好きです。
公園で遊んだり、サッカーや野球をしたり、友達の家に遊びに行ったり・・・
毎日楽しく過ごしています。




けど、週に一度はピアノの日。
クラスのみんなは、どこかに遊びに行く相談をしていても、キー坊は学校からまっすぐ、ピアノの先生の教室へ向かわなくてはなりません。





ママは、大人になってから急にピアノが弾きたくなっても、子供の頃から習っていないとなかなか思うように弾けないのよ、といつも言います。けど、キー坊は、日曜日にちょっと練習するだけなので、なかなかうまくなりません。




年に一度のピアノの発表会。キー坊がゆううつになる日です。
同じ曲を何度も何度も練習します。けど、不思議なことに、いくら練習しても、いつも同じところでまちがえてしまうのです。




そして、発表会の日。自分の順番が来るまでが、とてもとても長く感じられます。
そして、いよいよ自分の番が来て、曲を弾き始めると、あっという間に終わってしまうのです。
キー坊は、発表会のたびにそう感じました。




そんなある日の午後、突然、大きな地震がおそってきました。
先生が、「みんな、机の下にかくれて!」とさけんだので、みんなはいっせいに、教室の自分の机の下にかくれました。大きな揺れがおさまるまで、とても長い時間に感じられました。




時々、どこかで物が落ちるような大きな音がしました。
隣りの席の、からだの大きなジャン坊は、一生懸命からだを小さくして机の下にもぐりこんでいるのですが、少しおしりがはみ出ています。




その後も、何度も余震があって、そのたびにみんなは机の下にかくれました。

キー坊のママが、途中まで迎えにきてくれました。




家に帰ってみると、家中で棚から物が落ちたり、食器が割れて床に飛び散ったりしていました。
キー坊が、自分の部屋に入ってみると、大きな本棚が、ピアノの上に斜めに倒れかかっていたので、びっくりしてしまいました。
そして、キー坊が大切にしていた本やおもちゃが、ピアノの上や下に散らばっていました。




しばらく、キー坊とママは、スリッパをはき、手袋をして、無言のまま部屋を片付けました。まだ、時々余震も来るので、本棚は中の物を全部出して、横にしておくことにしました。





それから毎日、キー坊は自分の部屋に入るたびに、まずそのピアノの傷が目に入るのでした。
おじいちゃんとおばあちゃんが、キー坊にプレゼントしてくれた、ピッカピカだったグランドピアノ。傷を受けながらも、本棚をささえてくれたおかげで、キー坊の大切な物があまりこわれなくて済んだのでした。
決して弾く気にはなりませんでしたが、そんなピアノが、とてもいとおしく思えるのでした。




学校はしばらくお休みです。
海の近くでは、津波で家を流されてしまったり、家に住めなくなったたくさんの人たちが、学校の体育館などを避難所として生活していました。キー坊の学校の体育館も、避難所に開放されて、多くの人たちが暮らすようになっていました。




そんなある晩、キー坊は夢を見ました。




キー坊は、体育館のステージの上でピアノを弾いています。
何曲も、何曲も弾いています。
ステージの下には、避難所で暮らす人たちが集まってきて、キー坊のピアノに聞き入っています。
学校の友達や、子供たちも大勢詰め掛けてきました。




次第に、曲が終わるたびに、大きな拍手が起こるようになってきました。
こんなことは生まれて初めてです。キー坊は、ますます一生懸命、感情を込めてピアノを弾きました。
すべての曲を弾き終わり、キー坊が立ち上がって、みんなにおじぎをすると、割れんばかりの拍手喝采です。後ろの方からも大きな歓声があがりました。




「アンコール!」「うまいぞ!」「最高!」「ブラボー!」
ばらばらだった歓声が、段々とひとつになってきます。
「アンコール!」「アンコール!!」
そして、ついには大合唱のようになってきました。
「アンコール!!」「アンコール!!」




キー坊は、ちょっと考えてから、両手を挙げてみんなを静めると、大きな声でさけびました。
「みなさん、どうもありがとう!それでは、最後にもう1曲弾きます!これはぼくの大好きな合唱の曲です!ぼくが弾くのはピアノの伴奏ですので、歌える人は大きな声で一緒に歌ってください!!」




キー坊は、大きな歓声と拍手の中、ピアノに戻ると、椅子に座り、一瞬みんなの方に顔を向けて合図をしてから、すぐに弾き始めました。
あたりは一度シーンと静まりかえりましたが、すぐに、前奏をきいて曲がわかった人たちから大きな拍手がわき起こりました。
歌が始まるところで、キー坊が大きく右手を上げて合図をすると、みんなはいっせいに歌い始めました。




ステージの下ぎりぎりまで、たくさんの人たちが集まって、大きな声を張り上げて歌っています。肩を組んでいる人たちもいます。涙を流しながら歌っている人もいます。
キー坊も、時々みんなの方を見ながら、一緒に歌い始めました。思わず目頭が熱くなってきました。




曲の最後のところで、キー坊は前奏に戻り、「最初から!!」とみんなに声を掛けました。
これなら、歌詞を半分忘れた人は思い出して歌えますし、初めて歌う人も少しずつ覚えて歌えるようになってきます。みんなますます歌に熱中してきました。
キー坊は、何度も何度も最初に戻って引き続け、そしてみんなと一緒に歌い続けました。




そして、とうとう曲のエンディングを弾き終わり、すべての演奏を終えると、キー坊は立ち上がって、ステージのへりまで走っていきました。一度ゆっくりとおじぎをすると、両手を大きく挙げてみんなに手を振りました。
会場は大歓声です。拍手と歓声がいつまでも続いています。
キー坊も、いつまでもいつまでも手を振り続けました・・・




パッと目が覚めました。・・・夢だったのか・・・
隣りでパパが、グーグーいびきをかいて寝ています。反対側でも、ママの寝息が、いつものようにスースーと聞こえてきます。
きょうはふつうの日曜日の朝のようです。
夢を思い出すと、いつの間にか涙がつーっとほほを伝って流れ落ちていました。




朝ごはんを食べた後、キー坊は自分の部屋に行ってみました。ピアノは、相変わらずそこにじっと立っています。本棚が倒れかかった傷も、そのままになっています。
けれども、キー坊はいつになく、ピアノに親しみのようなものを感じていました。




ふたを開けて、鍵盤をそっと押してみました。いつも通りの音がします。
けど、いつもと少し音色が違います。キー坊によって、みんなに感動を与える音を出すことができるのです。
それにはもっともっと練習が必要だけど・・・




あの曲の伴奏、弾けるかな?
キー坊は楽譜をさがし始めました。
楽譜が見つかると、キー坊はさっそく弾き始めました。




まず、右手の1本指で、メロディーだけ弾いてみます。これだけでも急にわくわくしてきます。
何回か弾いた後、左手を簡単なところだけ、ちょっと入れてみます。もう、これですっかり立派な伴奏に聞こえます。
弾いているうちに、少しずつ難しそうなところも両手で弾けるようになってきました。




「あれ?朝からがんばってるねえ。どういう風の吹き回しかな?」
いつの間にか、部屋のドアが少し開いて、パパとママがのぞいていました。パパがにこにこしています。キー坊は時間も忘れて、ずっと弾いていたのでした。
ピアノを弾く手を止めたキー坊を見て、ママが言いました。
「いいのよ。そのまま続けて。」




暖かくなって、学校も始まりました。家の中もすっかり片付いて、段々もとの生活に戻ってきました。
新しいクラスになって、新しい友達もできました。
でも、ひとつだけ変わったことがあります。
キー坊が、毎日ピアノに向かっているのです。
本当に、ステージでみんなに感動を与えられる日をめざして。

                                           (終)










お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2014.01.10 10:26:40
コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

Keyword Search

▼キーワード検索

Profile

南人

南人

Favorite Blog

まだ登録されていません

Comments

南人 @ Re[1]:第6回「南人も楽しい作文道場」を開催しました(11/01) ききみみやさん >おつかれさまでしたー…
ききみみや @ Re:第6回「南人も楽しい作文道場」を開催しました(11/01) おつかれさまでしたー。楽しそうな雰囲気…
蛙2号@ 来年たのしみです。 はじめまして。マスターズ陸上してる40…
ゆうけんのまま @ Re:40000HIT達成(10/28) 先日はアクセスしてくれてありがとう。私…
ナツアカネ @ 40000ヒットおめでとうございます♪ こんばんは~~(^o^)丿 これからも楽し…

Freepage List


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: