第一章


いつもいつも、幼馴染の八代彼方と成績を競ってきた。両親同士が学生時代からのライバル関係であり、会社でも競い合っている事も関係しているのだろう。けれど、天才と努力家はどんなに努力しても、その差は歴然なのだ。
幼い頃、良く病気をして、病院を入ったり、退院したりしていた。
神山拓人は、陸上部のスターから、ただの中学生に落ちた。
その日は、冷えるような寒さで足先から凍りつきそうな、青空だった。祖母の家には古い松ノ木があった。
西の中庭には祖母の趣味の盆栽や薔薇、桜など様々な種類の花焼きが植えられていた。北の古い土壁の土蔵は、元酒屋という事で大きく作られ、今でも米のような匂いこびりついている。本宅では、こげ茶の古い瓦をかぶった本宅と小さめに作られた離れがある。今は使われていない離れが。
―やっぱり、女優だった滋賀の女の血を引いているのかしら。
小さい頃から付き合いもない祖母が、父にこぼした言葉だ。何故、記憶に残ったのか、今でも不思議だ。そのときも今もショックではないし、自分では祖母に嫌われるような悪戯をした覚えもない。
茶色のキャラメルのような瞳がお嬢様育ちで神経質な祖母の神経に触ったらしい。
―ねえ、その目で私の息子を惑わしたの、しっぱはどこなの、小悪魔さん?
骨ぼった硬い手が自分の頬を掴んだ。あの時は本当に怖かった。
―初めまして、拓人君。
新しい母は、夜のにおいがした。自分と会った時は20代後半だった。性格は大雑把で明るく、義理堅い。自分はすぐに新しいこの母を受け入れたがその一方で、父に対して疑問を抱いた。


貴方は、梨乃の存在をどうするのだと。

母のつれ子は涼華といった。



                      2
「浅はかだな、僕は・・・・」
ふう、とため息をついて、神山涼華は取り巻きに囲まれながら、フェイス越しに隣接する中学校に視線を傾けた。長い軽やかな鹿を思わせるしなやかな手足に腰まで伸びた艶やかなプラチナブロンドには少々ウェーブ状のクセ毛があり、神秘的な眼差しの涼華の悩みの種で、リボンや紐など、様々な対策にいつも頭を悩ませている。長身のモデル体型の優雅で気品のある少女は、先日、兄の拓人が大きい胸がすきと聞いて、心を痛めていた。



拓人は、大きく目を見開いた。巨体のバケモノからはじけとんだ血しぶきの中で、これまで見たことのない金髪のロングへあの美女に押し倒されるような体勢になっていたからだ。
緩やかなウェーブ状の盛り上がった前髪に赤い紐で縛られた腰まで伸びた黄金の髪、長いまつげ、深い底がありそうな湖を思わせる高貴な紫紺の切れ長の瞳、小さなピンク色の唇は上品さを漂わせていた。
白い肌は雪のように真っ白で、モモのようにピンク色に上気している。美しい女神のような大人びた美少女は穏やかさと清楚、知性を感じさせた。
なぜか、真珠のような涙をこぼしている。
「我が君・・・・よかった」
真っ白な手が自分の頬に触れる。
柔らかい感触が拓人にのしかかってくる。まるで宝物だ。
プリーズ、ちょっと待って。金髪巨乳で可愛いお嬢さん。そのわが君というのは、まさか、俺のことか?
口に出す前にその美少女は背中を向けて、立ち上がった。
「不逞のやからを、わたくしの剣や盾を持って、砕き、撃ちましょう」
その横顔は凛々しいですが、今、物騒なことを言いませんでした。ワン・モア・プリーズ?
「逝かせます」





漆黒の闇の中で、ひしめき合う影があった。
アルコールの匂いが天宮葵の鼻腔をくすぐる。親友の桜坂凛と共に息を潜め、朱厭・・・人外の妖怪が通り過ぎるのを今か今かとクリーニングに出したばかりの赤と黒をコンセプトにしたセーラー服に汗をそのばせながら待っていた。
「・・・・・っ」
その表情は恐怖で染まっていた。



3
天宮葵は足を滑らせて、岩肌の崖の下へ落ちてしまった。
「うわああああああ」
「待ちやがれ、このクソアマ」
「せっかく、売り飛ばそうと思ったのによ」
華美な装飾が施された着物を着せられた葵は、ひらひらスカートを翻しながら、落下した。そんな時、馬の声が鳴り響いた。目に飛び込んできたのは犯罪者をへき地へと連れて行くための馬車であり、横転していた。軍人が切り殺され、罪人と殺し合いをしていた。
「!?」
疾風が湧き上がり、一方的な何かが葵の小さな体を押さえ込んだ。帽子が勢い欲吹き飛ばされる。
「っ!」
風の激しさに葵は目をつぶった。
ザァァァ。
「大丈夫か、お姫様」
!?
「尚隆、お前、何、この状況でナンパしている!?」
少年の声も飛び込んできた。
目を開けると、漆黒の長い髪が見えた。精悍な表情も。
「・・・・お兄さん、ポニーテール?20代で?」
ポイントがずれていた。
「何に怯えているんですか?というか、日本語・・・」
やはり見るポイントがずれていた。



葵の目から通して、神山タクトは守るものがあるとき、感情が激しく現れる傾向があるように思えた。学校の不良生徒、優等生の八城彼方の実の弟、八城祐岐に今、姉の姫乃が絡まれたときも。
「よく調べろ、これがお前の彼女のものに見えるか!」
「な・・・っ」
「こんな宝石一つで、姉貴が泥棒扱いされてたまるものですか!!」
この時ばかりは葵も普段の頼りなく優しいタクトの評価が変わる。がらり、とまるで別人になったようだ。大事なもののために戦う、タクトの長所であり、短所である。本人は気付いてないが、物事が大きくなる傾向が他出している。



                        4
巧王であるタクトの前に戻ってきた時、やけだたれた宮殿をバックに海客として、この世界のものとして美貌をもった彼方は表情を暗くしていた。スソがドロや炭で汚れており、血や様々なもので汚れ、戦闘の後らしく、鎧のしたの服は破れたり、よろめいていた。
煙はまだ残っていた。
「・・・何か、あったのか」
「あったというか、成り行きというか、いきなり卒業させられたというか・・・、わけがわからん」
「カナタ」
振り返ると、静焔が艶やかな黒髪を漂わせて、結っていた髪をかすかに乱していた線の細い美麗な少年で、背も高い。年は16だという。
冷たい氷のような、感情の少ない酷く大人びた碧灰の瞳はカナタという一点をみていた。
武人の体格のいい静焔の部下が傷ついた静焔を支えていた。
「大丈夫ですか」
「ありがとう、だが、もういい、主上、申し上げることを忘れていました」
「何だよ?」
「私は、ある偽りをしてきました」
静焔が髪の毛を引っ張ると、中から違う色の髪が現れた。パウダー・パープルの髪が現れる。
「え・・・あ?」
「自分は恵藍樹、とある武官のただ一人の子供であり、性別上女性です」
「え・・・」
「ええええええええええええええっ」
「着任して早々悪いのですが、外に出る許可を俺に頂きたい。カナタと共に」
「何故?」
「・・・・その、タクト、なぜか昨日付き合うことになりまして、その、棚ぼた式に」


「早くしろよ」

「・・・・・・その、何、ひと夏の経験てきな?いきなり過ぎないか、女性・・・女の子だって知ってたということか?」
「いや、昨日、戦闘の後、迎えに行って・・馬小屋で・・」
「何か暗くないか?・・・一応。美形・・・いや、美人といきなり飛び級で経験したんだろ」
「お前は思えるか?いきなり、旅をしてた知り合いが急に女だと知らされて、異性なんて。何で、こうなったんだ」
カナタは頭を抱え込んでいた。
「・・・・・・・・・・・・・・ええと、お前が迫ったの?それとも静焔が?」
「俺が出来るわけないだろう。何なんだ、この大河ドラマ的な展開は。普通女だったからって、友達と急にそうなるか、ありえないだろ。俺は女と手をつないだこともないのに」
「・・・・お前、体育の成績悪かったな、そういえば」

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