第12章ある完結へ向かうグランディオーソ


(by スタンダール)


                   1
「好きです!」
花びらが舞う中、アリスに告白するアルベルトの姿をエレクとエリク
と共に見た。
場所はウィーンの森の中だ。アリスの頬に赤みが差す。
「え・・・」
ヴォルフリートたちがいるのは林の中だ。こういう偶然が近頃見る。狙っているわけでもないのに。
隣を見ると、エレクは表情を変えなかったが、ショックを浮かべていた。もう一度、目の前のアリスとアルベルトの姿を見る。


こうして、コインを数える時が、アレクシスの楽しい時だ。一枚、二枚と数えながら、明日はこの金をドノくらい増やせるか、相手の懐をどう踏み入り、自分のものにするか。だが、近頃はハンガリーで自由主義だの、お隣の刻で共産主義だの、金よりも恐ろしい誇りと正義の戦いが多く、健全な大金持ちや貴族様ばかり増えて、金を稼ぐ事が趣味のアレクシスは、金と時間をもてあます貴婦人方から金を騙し取る以外のことをしていない。そんな愚痴をローゼンバルツァー家のアーディアディトやエレオノールの前で言おうものなら、煩い展開になる。
「私はロシアに味方すべきだと思う」
部下らしき男と政治の話をしているらしく、鍛え抜かれた男の声が、アレクシスの部屋に聞こえてくる。扉を開けると、この家の当主ブルクハルトが郡服姿で、黒いブーツをならしていた。
「バカな、スラブ系をあおるだけですよ」
「エーデルハイト卿、皇帝陛下にはロシア皇帝からの会見を待つようにと。ヨハネスの手の内になる前に」
「あの岩窟侯爵か・・・」
ブルクハルトは大きくため息をついた。
「彼は、親ドイツ派だったな」
「浅はかですよ、ドイツがいくら近代化が進んでいるからって、我がオーストリアが奴らに頭を下げるなど屈辱者です。スラヴ人はスラヴ人の国家ですって、馬鹿らしい」
「ロシアの南下政策だな・・・」
「ルドルフ殿下はまだボイコットですし、大丈夫なのですか、エーデルハイト卿は皇太子殿下とプライベートでも信仰があるのですから、説得を」
「そう、あせるな」
・・・・貴族の世界はさすがに魑魅魍魎としてるな。うへえ。アレクシスはうんざりとなった。
「アレクシス」
「ン、ああ、気付かれていたのですか、・・・お父様」
アレクシスは部屋から出てきた。
「それで何の御用でしょう」
「カルカウに行きなさい」
「は」
「ヨハン・サルヴァドール公があるブレスト公の命令で向かう地だ、あそこはルーマニアもブルガリアも近い」
「何故、私が?」
「アルブレスト公のご使命だ、お前ならば、自分の特のためならば動き、逆らうことなく、サルヴァドール公をお守りする事ができると」
「しかし、私は軍属ではありませんが、あくまで、学生のみで」
「安心しなさい、身の安全なら私の周りのものに守らせるから。無事に私の元に帰ってくるのだぞ、息子よ」
軽く肩を叩かれた。
「・・・息子役はもう延長しなくていいんじゃないですかね、金ならだいぶ貰ったし。あんたの息子なら、アルベルトがいるだろうよ」
「アレは駄目だ、理想にこだわりすぎている、私のあとを継ぐのは、血ではない。アレはあくまでこの家を守るためのツールだ。真に受けつくべきはお前のように生きる力なのだ」
「その話はカルカウから帰ってからにしますよ、エーデルハイト卿」
「よろしい」


空には、白いはとは飛んでいた。
「刃傷沙汰?」
「しっ、静かにしなさい、アーディア」
「でも、エルネストが、ルドルフ様の遊びの相手に・・・」
「女性が自らする話題ではありませんよ、アーディア」
小さな日傘を持ちながら、エレオノーるは道を歩く男達の視線を感じながら、メッ、とアリスを怒った。
「すみません、お母様」
「・・・とにかく、その事でお父様・・つまり、貴方のおじい様は大変怒られて、しばらく、エルネストを自宅で反省させるそうです。貴方もそのつもりでいてね。エルネストには考える時間が必要ですから」
「・・・表向きはエルネストがその女性をルドルフ様と取ったと」
「家族を守るためですよ、アーディア」
優しい、温かく、どこか寂しげにエレオノールはいった。

                2
バルツァー家嫡男アロイスは、外交官の仕事も努める現当主ジギスムントの色好みと浪費癖に悩んでいた。そんな時に、皇太子がポーランド人の恋人を連れて、旅にでたと部下から報告が届いた。草がおお茂った古めしき、ぼろついた洋館に僅かな農地と領地。
「ヴィルマー卿が自殺?」
「はい、アロイスさま」
小指を顎に立てて、椅子にも垂れ込む。
ヴィルマー卿といえば、年は18歳で血気盛んで情熱的でストイックで生まじめ。間違いも起こさず、軍人の道を歩んでいる。
「彼の家族は何と?」
足を引きずりながら、杖を持って、アロイスは立ち上がった。
「・・・・それが詳しくは言わなかったのですが、あのローゼンバルツァー家が関係してると」
胸がざわついた。
「・・・・帝国の飼い犬か、とうとう、暗殺にまで手を染めたと?」


ウィーンのアン・デア・ウィーンというナの歌劇場では、オペレッタの黄金時代ということで、ナンバーワンに絶大な歌唱力を持つミセス・アマリアとヴァイス座出身のリリー・アスマンが、「王女と侍女と魔法のつぼ」というオリジナルの喜劇で主役を張る事になり、VIP席には、彼女たちのパトロンや上流階級や芸術家の姿もあった。頬に黒いつけほくろや飾りをつけ、黄金の巻き毛の桂をつけて、胸元が大きく開いたレースや刺繍が施された絹やビロードのドレスに身を包み、太目のアマリアはひばりのような声で軽やかに台詞を歌う。
「おい、出てきたぞ」
今回の舞台で注目されているのは、二人の次に重要な役であるつぼ売りの村娘役の新人、ビルギットやマルガリーテを追い越した芸名ルーシーだった。艶やかで上品な金髪は輝くばかりであり、何と言っても男達の心を捉えたのは、その青い宝石のような瞳だった。
「何よ、お遊び団員のくせに・・・」
「引き立て役なのに、あんなに注目されて」
「衣装はあんなに汚いのに」
―仕方がない、なぜなら、ルーシーは才能ばかりではなく、後ろについている人間が凄い。
アーディアディトの仮面の一つだ。
劇場や貴族令嬢としての舞踏会など華やかな場所では、様々な情報が集めやすい。アリスの後ろには皇太子ルドルフの姿があった。
・・・・私自身の夢と家族を守るためよ、帝国の皆が笑い会える明日のために私はがんばるしかない。


本当に何故、姉の恋愛のそういう場面ばかり遭遇するのだろう。今度は宮廷内の図書館で、アルベルトとルドルフ、アリスが三角関係で泥沼化していた。
・・・魔性の女か。
「そういえば、聞きまして」
小さい声で聞こえてきた。
「ルドルフ様が新しい女を」
「凄い年上なんて」
・・・・盛っているな。まあ、色事に夢中なら、助けられる異能者もいるか。



心で双思っていても、アリスは1867年は11歳だったが1876年の現在20歳を迎えようとしており、社交界デビューを19歳で迎えた遅咲きの状態である。つまり一応は一人前と扱われる事となり、現時点でお見合いの申し込みが殺到している。



・・・・娘は人を殺しすぎた。
処分する、と叔父はそういった。ブレーズ卿が今、交渉しているうちは・・・。姉はレオンハルトが何とかするだろう。自分たちの父親だし。だが、あのヨハネスや伯母達が異能者をこのまま買っていくとは到底思えない。
異能者狩りの筆頭の殿下に全て告白するか。だが、結果を考えればリスクはある。
・・・・だけど、それはアンネローゼの意志ではない。
お前達が強制したことじゃないか。
「!」
曇りがちな天気の中、行進の練習をしていたヴォルフリートは急に思考から現実に戻された。宮殿の中から、窓から誰かがこちらを見ていた。
「・・・」
暗い瞳のルドルフだった。瞬間、目が合い、見つめあう。背筋が冷たくなる。
・・・・・いや、焦るな。
まだ、アンネローゼを助かる可能性は他にある。
拳をぎゅっと握ると、体を動かし、ルドルフからそらす。
・・・自分は有効なはずだ。


アリスは18、9歳となったヴォルフリートとヴォルフラムの家の中での対立を気にしていた。今だ少女といったほうがいいアリスは、レオンハルトからこういわれた。
「―うちの家督を受け継ぐのは、ヴォルフリートということになるだろう」
聞き間違いだと思った。
「でも、お父様、ヴォルフリートは・・・私は」
「わかっている、お前達が生まれる前に起こした事件だろう、昨日、エレオノーるに聞いたばかりか」
「はい・・・・」
「お前達が何故庶民として孤児として育てられたかはなそう、まず、アーディアディト、お前はエレオノールの娘だが、私の子ではない」
「え?」
虚をつかれたような気分だった。
「言っただろう、お前は私と妻、お前の母とできた子ではない。エレオノールが本気で恋をしたドイツ人の画家志望の貴族の三男坊がお前の実の父だ。私と彼女は政略結婚で、結婚した時は仲が悪かった。だから、プラハでエレオノーるは運命の恋にかけて、身分も捨てて、その男と生きようとした」
「・・・・っ」
レオンハルトは言葉を続ける。
「ヴォルフリートは私の子だ、ローゼンバルツァー家の本家、現当主の下で生まれた、つまり、我が家を告ぐのは残念だがお前ではなく、血筋と生まれた順番でヴォルフリートだけとなる、だが、ヴォルフリートは神の恩恵を受ける事ができない子、異能者だった。だから、ヨハネスの義父上は不義の子のお前と共に私たちの手からお前が一つかそれくらいのときにどこかへ隠し、・・・・泥棒がお前達を盗み出したのだ」
「そんな・・・、・・・・そんな!!」
アリスは激しいショックを受けた。



闇の中、ヨハンが馬車に乗るルドルフの姿を見つける。
・・・・あいつ、また・・・!
「サルヴァドール公、それでは自分たちは失礼します」
ぞろぞろと部屋から会議を終えた軍人達が出てきて、その中に明日の予定をチェックするヴォルフリートの姿もあった。
「おい」
「はい、何でしょう、殿下」
「お前の部下を借りるぞ」
「は?」
上官は首を傾けた。
                    3
どこかの路地裏。
「下手なねたを掴ませやがって」
「ハッ、お前が確認しなかったのがいけないんだろ」
美しい顔が皮肉地味ながら、ゆがむ。
「貴様・・・ッ」
男の顔に血が上る。ふっ、と残酷な笑みを浮かべると、男の表情は恐怖に染まる。
「その手に持っているのは何だ」
「さぁ?何だと思う?」
きらりと鋭い刃先が煌いた。
「冗談だろ・・・・お前、友達を殺す気か・・・」
声が震え始める。

「試してみるか?」

角からアロイスが現れる。
「いい加減にしたらどうだ、ビーネアイト」
「相変わらず甘えた面だな、処刑のアロイス」
「・・・過去のことだ」
くっ、とアロイスは苦々しそうな表情になった。



友達。
それは対等な関係であり、喧嘩する仲であり、腹を割って話し合うことが出来るという関係だ。ルドルフ様は他の友達に比べるとかなり特殊なケース名出会いをしたせいか、王子様という身分や彼の能力や容姿に圧倒されていて、他の友達となるべく同じ対応を取っていた。
特別な友達、親友とは違う気がするのだ。周りが言うような忠誠心やエルネストが抱くような憧憬でもない。かといって、ルドルフ様の趣味のような同性愛のような感情も生まれない。
綺麗で、怖くて、近づきたくない、頭のいい友達で、上司で、皇族で、異能者狩りの筆頭。だからこそ、姉がルドルフ様の後を追いかけた理由がわからない。
いや、わかっているのだろうか。
女性をはべらせたルドルフが、姉を罵倒し、その上、キスした現場を見た今でも。
「・・・・何しに着た」
氷のような眼差しだった。安心させる用意、それでいていさめるような表情を向けた。
「守ると約束したでしょう、・・・プライベートだから邪魔するつもりはありませんでしたが、公務をこうもおろそかにするならば」
「お・・おまえ・・・」
ルドルフの声が冷静なものから、なぜかもろいものと鳴ったとき、ヴォルフリートは自分を見る未知の感情を浮かべている視線を避けた。
何故だろう、見たくない、別種の何かに気付きたくない。このとき、ヴォルフリートは双思った。
「・・と」

その声に肩を震えさせた。
「・・・・ヴォルフリート」
その表情は姉のアリスのものではない。そう、女の表情だった。
誰?
頭がガンガンする。だって、姉はルドルフ様が苦手で。アロイスという男が好きで、何故、距離があるルドルフ様を追いかけた?
何故?
「・・・ヴォルフリート、誰の命令できた、ヨハンか?」
肩を捕まれ、ルドルフがヴォルフリートに詰め寄った。
「ルドルフ様、何を・・・」
「アーディアディト、お前は下がってくれ」
「・・・!」
ショックを受けたような表情でアリスが下がっていくと、ヴォルフリートも追いかけようとする。他の女たちは何かの空気を呼んで、扉から出て行った。
「待って、姉さん!!」
ガシッと手をつかまれた。力強い力でルドルフと思えない力だ。
「!?」


「昼間、お前の部屋にアロイスがきたんだって、あの変態爺の息子が」
どこからか持ってきたのか、ワインを取り出し、エリクはグラスを取り出した。
「俺が注ぐ」
「用心深いな、相変わらず」
「お前が入れたら、毒を入れる可能性がある」
「へえ、恨まれてる自覚はあるんだ」
エリクはくすくすと笑う。
「・・・まあ、俺もお前もあの爺には色々痛い目に合ったからな」
「愚痴を言いに着たのか?お前の組もヤキが廻ったか」
「いや、確認だ」
足元では猫が寝そべっていた。時刻は午後五時辺りだ。
「何だ」
「水曜日だったな、週3日、一ヶ月に一回」
「?」
「あいつがお前に情報を買う日だ」
「!!」
「表情が少し乱れたな、いつもの冷たいお前らしくもない。それとも当てられたか?ヴィルマーを殺した元幼馴染、俺の友達だったアイツに。ヴィルマーは友達だった」
「お前の感傷に付き合うギリはない」
「へぇ?他の上客よりローゼンバルツァー家の子息との時間を優先的に積極的に取り入れているお前が?」
チーズをキルナイフを握る。
「・・・っ、・・・金回りが一番いいんだ。それにアイツは家の情報を流し、反帝国には有利なカードだ。手名付けるにはいい駒だろう」
「ディートリヒやフィネという駒もいるだろう、実際誘われて、バックもいるのに、お前は答えを保留している。つまり、お前はアイツとの縁を切りたくないのさ。何と言っても命の恩人だからな。エレク、情報はもういい。ヴォルフリートと縁を切れ、情報を買いに来ても無視しろ」
「・・・・」
「どうした?ただの客だろう?それも俺達から金ばかりか、命も奪う呪われたローゼンバルツァーの人間じゃないか」
「・・・まだ、駄目だ」
「何故?」
「まだ、帝国を殺すには、・・・・・情報が足りない。金もねぎられたままだ」
「あいつはお前がかばうほどの優しい温厚なお坊ちゃまじゃないぞ。アレは悪魔だ」



                         4
部屋は冷え切っていて、僅かな蝋燭の光が二人を包んでいた。
相変わらず、手はつかまれ、部屋は沈黙している。
「・・・ルドルフ様、あの、何を」
手が痛い。早く、姉を姉さんを追いかけなければいけないのに。
「行くな・・・、私の元にいろ、私を守るのだろう、お前は私の騎士だろう」
「・・・・」
確かに、あの時、子供の頃約束した。自分はあの頃と変わっていない。
「・・・ですが、自分は、僕は姉を追いかけないといけません、母も心配しています。きっと、今はまだ混乱して、迷子になっているかもしれません。僕は貴方を守らなければいけませんが、姉も守らないといけないんです」
「・・・・何故だ、お前は私が・・僕が大切ではないのか」
「大切ですよ、貴方は友達です、貴方には幸せになって、笑顔でいて欲しいと」


「友達・・・・・・?」

「そうです」
「僕はお前にとって、・・・・ただの友達なのか」
ルドルフの表情が崩れた時,E?となった。
ルドルフは明らかに衝撃を受けていた。
「はい」
手を離してくださいというと、ルドルフは手を離し、体を硬くして、頭を下げて黙り込んでしまった。

「・・・・友達・・・・」


「ルドルフ様?」
零れ落ちそうな表情、震える細い肩。
「あの、どうした・・・」

「!!」
ドッ!
今度はいきなり、腕をつかまれ、壁に両手ごと押さえつけられた。
「いたっ、何を・・・・」
ギリギリ・・・。
痛みがヴォルフリートを襲う。
「―-」
ぎりり、と目を鋭くして、敵意を一瞬だけ、ルドルフにヴォルフリートは浮かべ睨むと、唇を奪われた。
「・・・・!?」
接触・・・唇にルドルフ様の唇がぶつかっている!?
唇が包み込むようにして、重なる。ルドルフの深い高貴な瞳が今までのルドルフからは知らない色合いを浮かべてまっすぐ自分を見ていた。
汗が頬を通り過ぎた。
「ん・・っ、んん・・・ちょっと」
これは、友情じゃない、愛情のキスだ。何故???
何故、あのルドルフ様が自分に?
ヴォルフリートは何とか、ルドルフを退かせようと、体を離そうとするが、ルドルフはしがみついてくる。
「んん・・・っ」
息が詰まる。わけがわからない、何故、自分は今失敗したのか?何故?
だって、自分はルドルフ様の特別な友達でもない、ただの友達、初めての友達で、いつだって、ルドルフ様は他人にすがる人間ではない。現に恋人達もルドルフは強い、弱みを見せないといっている。
何故、こんな暴力を?
その間にもルドルフは舌を奪い、何かの機械を狙うように、しつこく奪うようにからみ始め、きつく体を占めた。
「~~っ」
―ヴォルフリート・・。
背筋が凍りつく。体の置くから、あのときの感情や光景が浮かび上がってくる。身体中の血が逆流しているようだ。
わからない。
「離せ・・・っ」
これは恐怖だ。ヴォルフリートははっきり感じ取った。
「ヴォルフリート・・・!!」
頭の中にアウグスティーンの姿が思い浮かぶ。その次にアリスの姿が。
―お前はね、・・・・・なのだよ。
「・・・!」
「・・・ヴォルフリート」

                          5
熱っぽい目だ。以前、誰かに、とても大切な人にそんな目で見られた事がある。エレクにもそういった。あの時は、ごまかす為の言葉で特に思い浮かべていなかった。
「・・・ルドルフ様」
目の前にいるのは皇太子ではない、10代の少年で僕と同じ、ただの少年でとても頼りなく弱い。
弱い?目の前にいるルドルフ様が?弱い?
だって、彼は同い年でもなく年下でもなく、自分にとっていつだって厳しく、喧嘩できる友達で、自分と同じもののはずがないのに。


・・・・誰?誰だ、これは?


未知の恐怖?
男に、同性の友達に思いがけない事をされたから今僕は混乱している?
ルドルフ様は?



「・・・確認しておきたいのですが、僕は貴方にとって何なのです?ルドルフ様、貴方は姉がアーディアディトがすきではないのですか?」
「違う!!」
ヴォルフリートが大声に肩を震えさせる。
「え?でも・・・」
「・・・・私が彼女に構うのは、大切にするのはお前の姉だからだ。崇拝しているといっただろう」
直感でわかった。ルドルフが男で同性で、自分も男だからこんなにも怖いのではない。自分が怖いのは、彼が今自分を特別だといっている、少なくともそれに近いものを自分に向けているからだ。
恋愛経験が少ない僕がこの問題にどう対応する?間違わず、静粛に。

―僕は、誰かの特別にならない。



そう、命じられたから。友達ではない、それ以上のものにならない方法はただ一つ。
男でも女でも、僕が一番に選ぶべき命は。
「・・・ルドルフ様」
真っ直ぐに、ヴォルフリートはルドルフを見る。
ヴォルフリートは自分の服に手を書け、脱ぎ始めた。ルドルフはぎょっ、となる。
「お、おい!?」
「黙ってて」
「嘘、あの、お前・・・・」
ばさばさと落し、ズボン一枚になると、アウグスティーンの刻印が、切り刻まれた肌が犯罪の証拠が現れる。ルドルフの表情が青くなる、後さズル。


午後六時ごろ、ヴォルフリートは前の金を払いに着た。イスに座り、エレクはヴォルフリートを見ようとしない。そっけないな、情報やは。
「それじゃ、全額ここにおいていくから、失礼。じゃあね、ジュルエット、ジェイソン」
猫二匹はニャ後嬉しそうに頭を撫でられながらないた。
「さて、仕事、仕事」
その時、エリクが戻ってきた。
「あ」
「お」
ヴォルフリートの表情が緩む。
「久し振りー、貿易商~」
「久し振りだな、軍人~」
エリクとヴォルフリートの手をたたきあう。
「相変わらず、おやっさんに怒られてるんだって?」
「仕入れに煩くてね、お前こそ、よくオーストリアの軍人なんかしているな」
含みがある言い方だ。エレクはかすかに肩を揺らした。
「いやぁ・・はは・・・。あれ?エリク、何故、ここに?情報屋の所ということはまさか、やばいことする気じゃないだろうね」
「まさか」
明るい笑顔だ。
「そうだったら、僕は君を捕まえないといけなくなるな」
「困る困る」
「まあ、いいけど。時間も迫ってるし、ここで失礼するよ」
「おお」
エリクは笑顔で見送りながら、ヴォルフリートの腕を引っ張り、エレクの方に突き飛ばし、エレクは慌ててイスから腰を上げて、転んでくるヴォルフリートの体をうまく受け止められず、床にこけた。
「すまん、手が滑った」
エレクにヴォルフリートの身体がのしかかった。
「ってて、・・・ったく、大丈夫か?ヴォ―・・」
ぎしり・・。
エレクはぎくりとなった。
「ん・・」
ダークブラウンの髪がエレクにかかってくる。オッドアイの涼やかな目が近くでエレクを見ていた。ヴォルフリートの匂いがすぐ近くに通りかかる。中身はともかく、エレクやルドルフとは違う飛び切りの美形ではないが、ヴォルフリートは整っている方でパーツもいい。幼さと精悍さ、大人と子供が中和されたような。派手さはないものの、惹きつける何かが無自覚であるのだ。
「大丈夫?」
服で意識しないが、さすがは軍人。細身だが鍛えられている。エレクは熱が浮かびそうになる感覚に一瞬襲われかけた。
「・・・当たり前だ、どけ、・・・重い」
はたいた。
「ちょ、叩くなよ、擦り傷できたんだから。エリク、何なんだ」
「いや、情報やがお前に反応するかなって」
「アホか、情報やは男だろ、それに僕は情報や見たいな美形じゃないだろ。こういうのは可愛い女の子だろ、普通。ほら、情報屋の今の表情、見ろよ、固まってるじゃないか」
エレクからはなれると、ヴォルフリートはエリクの前に立つ。
「可哀想だろ、表情は熱っぽいし、視線なんか定まって、青くなっているだろ。エリク、謝りなよ」
「へえ、大事なんだ?お前って、ゲイ?ホモ?」
「は?何、殺されたいわけ。そんなわけないだろ」
「そういうと妖しいな、そうやって、情報屋を守ろうとしているんじゃないか?それにこいつの裏の仕事を知ってたら、そう思われても仕方ないと思うぞ。こいつ、男娼だぞ」
「貴様!」
「慌てるなよ、事実だろ。それでヴォルフリート、どうなんだよ」
「ふざけるなよ、貴様、人をからかうのも」
「余裕がなくなってるぞ、ビーネアイト。ヴォルフリート、どうなんだよ」
「ああ、そういえば、そうだったな。忘れてた、正直」
「!?」
エレクは慌てて振り返る。
「だって、特に必要な情報ではないだろ。情報屋と僕は客と売り手なんだし。エリク、僕はスレンダー系やセクシー系はすきだけど、ホモじゃないからな」
「自分の評価がそうだと思われてもか?お前がそうでも周りはそう思わないぞ」
「あ、大丈夫、片っ端からそういうのは説得に廻ってるから」
爽やかにそういった。

                    6
「お、お前・・・・ヴォルフリート、・・・嘘」
手で顔を隠し、表情が青くなる。体が硬直していく。
「見るのは底ではありません、わき腹に焼けたあるでしょう、底を見てください」
「いやっ、止めろ、離せ・・・離せといっている・・・」
「ルドルフ様、お願いです」
「・・・・・」

「―自分は、貴方の望み様なものにはなれません。貴方の望むべきものは既に彼女に与えています、僕は彼女の所有物ですから」

ぐらりとなった。
「彼女・・・・?」
心が震える、まさか・・・。
「恋愛対象の、彼女です。僕は彼女の所有物の一つです、ですから、彼女以外に例外は作りません、体も心も彼女のものです、貴方が触っているこの傷も」
「・・・・・・お前の恋人は、お前を傷つけて何の疑問も抱かないのか?」
ルドルフの手を解放した。
「彼女はとても心が弱く、悲しい人です・・・僕は彼女の特別でもこまでも構いません」




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