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銀の月の孤城
第16章人魚姫は溺れて死んだ
(by 亀井勝一郎)
1
爽やかな太陽と青空の中、ギルバートは母親のレイシーと共に駆け回っていた。母の側には優しい祖母、愛馬のアスランの姿があった。住んでいた国は流れ者が多く、また都会の喧騒とは関係のないスイス国境の町だった。老人や子供が多く、のんびりした空気の中でギルバートは愛情に包まれて、育った。
「あの子は運動神経がいいのはいいけど、どこでも上ろうとするから困るわ」
ナイチンゲールのような美しい声をもつレイシーは、いつもギルバートを心配していた。
「あはは、孫にはここが狭すぎるんだよ」
「待てよ、ギルバート」
「おいていくぞ、フランツ」
黄金の麦の畑の中をギルバートは駆け回る。
「次は教会のところまで競争だ」
「またかよ、競争好きだな」
そこへ、牧師で元々は兵士である金髪の体格のいい、ギルバートの父親アルフレートが友人達を連れて、反対方向からやってくる。
「おお、また背が伸びたな、うちのボーイは」
「父さん!」
ギルバートの顔は一気に明るくなる。平凡だけど幸せだった。自分は将来、父のように僕しか、教師になるんだと思った。
あの不吉の使者がくるまででは。
馬車に偶然ゴットフリートと一緒になった。ウィーンの町は荒れていた。
「最悪だな、お前のその醜い顔を早朝から見ることになるなんて。庶子生まれのお前がどうして、栄光ある警備隊の隊長についているんだ、しかも騎馬隊の指揮まで」
「・・・・出世したそうだな、おめでとう」
「ああ、ヨハネスおじいさまのおかげだよ、後はわが妻がルドルフ様のお気に入りなんでね、全てが順調だよ」
「・・・妻」
「そう、僕の妻、アーディアディトだよ、あの女清楚な振りして、若い執事を誘惑しやがった。とんだあばずれだよ」
「ゴットフリート・・・・」
空気が変わった。
「・・・そういえば、お前とヴィクトリアが見合いするんだってな、叔父上ならは約手を打つと思っていたが、正義の貴族の家の娘をお前がねぇ」
「家の人間が決めた事だ」
「その見合いの席の狩猟会に、オッドアイの死神が来るぜ」
「・・・・アーディアディトの弟か」
まさに、逢引の現場を未亡人となり、財産もちとなって侯爵の人間となったシャノンは目撃した。ダミアンとアンネローゼの密会シーンを。犬や猫、鳥はアンネローゼに近づくことなく、彼女の姿を見た途端、逃げ出した。ヴォルフリートはあからさまな嫌悪感を顔に丸出しにしていた。
「ダミアン、貴方が何故そんな暴力を振るうような女と」
キッ、とダミアンの腕の中のアンネローゼが睨む。
「ヴォルフリート・・・、・・・どうしたんだ、君らしくもない。そんな悪意をこめた言い方するなんて」
遠慮がちにダミアンはヴォルフリートを見る。
「・・どうしたのです、ヴォルフリート」
ヴォルフリートの表情は青い。抱き合う2人からめをそむけている。
「アンネローゼは従兄弟だよ、・・・君の誤解だ。それにカワイソウじゃないか、どんな事情でアレ、自分の父親や母親から疎まれて、妹のエルフリーデにも助けてもらえないなんて」
「・・・ダミアン」
シャノンは家の中でヴォルフリートとアンネローゼが激しく罵り合い、憎み会い、顔を合わせれば、凄い喧嘩する最悪の中だとアリスから聞いていた。
「僕は貴方を心配しているんです、・・・・そんな、人の腕を追って、大切なものを傷つけるような」
「ヴォルフリート・・・・」
「・・・・行きましょう、いつまでも、ここにいても気分を害するだけだわ。気分も悪いし、・・・私を家に連れ帰って」
か弱い少女にしかダミアンに見えない。
ルドルフが男爵令嬢と心中事件といわれる歴史的な事件を起こす前の二ヶ月前、ある異能者が事件を起こし、公爵であるリヒャルトと黒髪の美女との間に刺殺事件を古城で起こし、逮捕された。美女は異能者の恋人だったというのに、剣で刺したと言う。
破産し、母の葬式と妻の葬式、妹の葬式を同時に挙げなければならなくなり、金を作ることになったギルバートは裏切られた絶望と怒りで心が揺れていた。悲しみがギルバートの心を包んでいた。
「それではもって行きますね」
「・・・・ああ」
沈痛な声だ。次々と差し押さえられ、親しいものは大嫌いな血だけがつながった父と爵位だけが残ったギルバートから離れていく。
「・・・・・あいつのせいだ」
だが激情を、死を受ける罪人のばつをギルバートは与えられない。
刑務所に行けば、犯人の男と合えて、殺すことが出来るだろう。何故、何故だ、なぜ、こんなひどいことを。
数人の観客と男達に囲まれ、馬車に運ばれていく時、一度たりとも異能者はギルバートを見ようとしなかった。死ぬのだ、自分から幸福を奪った男が。うねりがほんの少し下がる。暗い喜びが湧き上がる。
「だんな様」
古参のメイドが扉を開けて入ってくる。
「何・・?今は放っておいてといったはずだ」
「お客様です」
また、新聞記者だろうか。父親が巻き込まれた理由について聞くのか。
「帰ってもらってくれ、僕は今人と会える精神状態じゃない」
はぁ、とため息をついた。
「・・・・ですが、・・・・その」
「何だ」
「・・・・お客様は・・・・、ヴォルフリート・フォン・ローゼンバルツァーの子息だと」
「!?」
2
アーディアディトが社交界の席で、パートナーのゴットフリートに連れられて、ディーター・フォン・ビルツバウムとベルノルトから金髪連続殺人の情報を得たのは、昼下がりの事だった。
「そうだよ、見たぜ、犯人がリュービクラル家の屋敷近くで姿を消したのを」
「・・・・気持ち悪いな、ビルつばウム、こんな美しい女性が多くいる席でそんな、血なまぐさい話は止めてくれよ」
僕は繊細なんだ、と目をそらしながらゴットフリートがそういって、持っていた荷物をアリスに乱暴に渡した。
「ちょっと」
「妻だろ、夫の持ち物をちゃんともっておけよ」
馴染みの女性が、ゴットフリートに近づき、冷たい目でゴットフリートは挨拶に行くとアリスに行った。
「~~っ」
扇をきつく握った。
同時刻、夜に差し掛かった時、美しい上流階級の貴族の女性にうっとりと見つめられながら、閣議を終えたルドルフは皇帝であるフランツに追いかけられていた。
「待ちなさい、ルドルフ、もう少し人の気持ちを」
「父上、でしたら、自分に発言をお許し下さい」
「・・・ルドルフ、お前は若すぎるんだ。我々は多くの民族や問題を抱えている。確かにお前の提案はすばらしいものはあるがお前は先進的過ぎる。ちゃんと、周りの違憲も聞く事もお前の役目だぞ」
「皇帝陛下に、ルドルフ皇太子殿下よ、相変わらず美しい親子です事」
「凛々しい横顔、あのお方をエリザベート様が独占なんて」
「まあ、皇帝陛下のお気持ちもわかりますわ、あんなに美しく洗練された方ですもの」
ほお、と貴婦人たちは熱い視線をルドルフに向けると、優しく慈愛のこもった笑みを浮かべる。
「父上、自分はこの国を守りたいのです。伝統を守るのは私の役目ですが、これからのオーストリア・ハプスブルク、二重帝国を国民の幸福を守り、発展させるのも自分の役目です」
美しい容貌の取り巻きはルドルフを崇拝し、守るようにルドルフの後についていく。
「殿下、跡でいつもの時間に」
「ええ、公爵夫人、いつもの宵の刻に」
「楽しみにお待ちしてますわ」
ルドルフは誰が見ても幸せそうな表情で、幸福感に包まれているように、くじけない強さを持っていた。
バルコニーで休んでいると、ローウェン家のロッテ嬢がカクテルを持ってアリスに近づいてきた。
「相変わらず、凛々しく乙良くいらっしゃる、貴方も電化の優雅なお姿を拝見しに言ったら、どうですの」
おっとりとニコニコ笑いながら、ロッテはそういった。
「・・・・・いえ、私はそういうのは」
「そうですわね、アリスにはゴットフリートというだんな様がいますものね。・・・ヴォルフリート様はまだ社交界に参加できませんの」
「一応、認められているのですが、弟はこういう華やかな席は窮屈だと、あまり行きたがらないのです」
「そうですか、せっかくあんな素敵ですのに、まだ結婚する気はナイト。お家はアリスが継ぎましたから、ヴォルフリートは少し自由にお相手を選べるのでは」
「・・・・相手」
くすり、と笑う。
「本当にアリスは尾可愛らしいのですね」
「ロッテ・・・・」
「でも、残念ですわ、公爵家に生まれて、同じ階級であれば、私がヴォルフリート様と結婚できたかもしれませんのに」
会場の中からルドルフはその会話を聞いていた。
軍の建物の中で、ギルバートは苦手なディーターとベルクウェインに出会う。
「おーっ、あいかわらずちじれているな、泣き虫ギルバート」
ニヤニヤ閉じ割るじみた笑みを浮かべている。高慢な笑みが見下ろすように、ギルバートに向けられる。
「・・・悪いけど、僕は用事があるんだ、君の相手をしている暇はない」
ギルバートはそのまま、ディーターの横を通り過ぎようとする。
「何だ、お前の友人をかけの材料にしようとしたこと、まだ怒ってるのか?暗い奴」
「違うだろ、軍に入ってすぐにエドガー先輩とひと悶着を起こしただろ、アーデルはイトの兄気味は正義感が強いお方だから」
意地悪な笑みがニヤニヤと向けられ、ギルバートを不快にさせる。ベルクウィインは繁華街に欲ゴロツキのような男で、勝つことにこだわり、強いものには媚びる男だ。
「伯母様に報告の手紙は今週送らないのか?義務付けられてるんだろ、次期侯爵殿」
背が高く、漆黒の髪と整った顔立ち。ギルバートは訓練でディーターに腕を折られたことがある。ディーターには遊びでしかなかった。
ギルバートはきっ、とディーターを睨んだ。
兄貴分であり俺様で自分が世界中心で、軍の規律を破ってばっかりで、女性を泣かせることに喜びを感じる遊び人。苛める相手にはとことん冷たい男だ。
「良かった、ここに痛んだね、ギルバート、オリバー次官が読んでるよ」
「ブレーズ」
友人の登場にギルバートはほっと胸をなでおろす。
3
また、違う日、書類の整理にいそしんでいたギルバートはヴォルフリートに出会い、そのことをもらした。いじめっ子のディーター、正直言えば、嫌いな相手であるディーターとヴォルフリートが友達だということが不思議だったのできっかけを聞いた。
「は?ディーターと仲良くなったきっかけ?・・・貴様、仕事中に何をプライベートな話をしているんだ?あ?」
ギルバートはぎくりと方を震えさせた。双だった、ヴォルフリートは仕事中は人格が変わる二重人格だった。
温厚で優しく努力家なかれとSで怒りっぽい彼。両方ともヴォルフリートだ。
・・・・・なれないな。本質は善人ということはわかっているけど。
ギルバートはおびえつつ、信じなきゃと拳を強めた。
「それでどうなんでしょう・・・か」
じろりとヴォルフリートはギルバートを睨む。
「話せば作業に戻るんだな」
「は、はい」
「ディーターが昔素行の悪い不良だったのは知っているな。親に生活を正す為に軍に入れられたことも」
「うん、そうだね」
「アレは山岳地帯に訓練のために教官といった時だった」
「お前、皇太子殿下のお友達だろ、もう、飽きられたのか」
街の中で不審者がいないかチェックする仕事につきながら、上官や同僚と作業の確認をしていたヴォルフリートにディーターがいった。
「・・・・お前、俺が仕事中だということを」
「わかっているよ」
「前提がなさすぎだ、急に何なんだ、ディーター」
部下がついたヴォルフリートはあからさまに部下に怖がられていた。厳しく対応しているからだろう。若干Sっぽい。
「いやいや、前からだって、最近全然お声がかからないじゃん。目立つ仕事にお前外されているし」
「それは軍の上が決めた事だ、俺や殿下が関与しているものじゃない」
携帯用の銃が使えるか確認しながら、からかうような笑みを浮かべる。
「・・・それでどうなの」
「・・・飽きられたのだろうな。・・・俺はあの人を大切に思っていたけど、もう殿下に俺は必要ないのだろう・・・仕方ないさ」
「お前・・・・」
「今までがおかしい状況だった。殿下にはしたい、心から愛してくれる守る人間が多くいる、あの方は強いから一人でも大丈夫さ」
「そっか、終わった事か」
「ああ、これから俺はローゼンバルツァーの嫡男の独りで、ただのヴォルフリートだよ」
「ドジだな、ルドルフ」
「ヨハン様、ルドルフ兄様にそんな」
「だって、暴漢に襲われかけるなんて、危機意識が弱くなっているんじゃないか」
ルドルフの部屋でヨハンが呆れたようにルドルフを見る。
「幸い、首にかすった程度ですし、休めば大丈夫ですよ」
背が高く、美丈夫のエリアス、軍人が行った。落ちぶれた貴族のせがれで、才能があり、ルドルフの護衛のような役割を任されたらしく、ヨハンも気に入らないと思いつつも、従順はあるのでルドルフの好きなようにさせている。
・・・・長く、なりそうか。
ギルバートは覚悟を決めて、真っ直ぐな気持ちで聞こうとする。
「そこで2人組でキャンプすることになって、俺はその時、病気でいけなくなった班長の代理だった。そんな時、どのグループからも仲間はずれにされたディーターが」
「・・・彼が?」
「俺のスープに毒が少しあるキノコを入れて、気に入らない俺を腹痛にさせようとした。その時、皇太子の友人ということで俺は奴に嫌われてたからな。他の奴と違って、基礎体力もなく、馬鹿だったから。最低ランクの成績で教官には軍人の才能がないと、班長代理になったのもディーター以外の嫌がらせだ」
「酷いよ、そんなの、君と殿下は関係ないのに!!」
「何をいきなり、叫んでいる」
「背も低く、ひょろかった俺は教官には無視らレテ板から、俺は独りでアレに対処することになった」
「どうしたんだい?」
「ディーターは懐に入れた奴には甘いと聞いていたから、奴の装備を甘くして、二日目に洞窟に放り込んだ、クマがいると聞いていた洞窟にナ」
「・・・え?」
「さすがに憔悴していたな。俺もアイツのしつこさにうんざりしてたから、パンと水を持って一人で迎えに行った。アイツが気に入るように頼りない同級生を演じてな。そして、頃理だった。ただの人のいいクラスメイトAをしばらく通したら、今に至るとおりだ」
「・・・・・・・・・・・そんな、さすがに彼は嫌いだけど、そんなやり方はいけないよ。さすがにかわいそうだ」
「いや、途中で気付いたらしいぞ、殴りかかってきたからな」
「あぁ、俺が何で、むかつくやろうとディーターの馴れ初めを話さないといけないんだよ」
ベルクウェインはヴォルフリートと聞いて、あからさまに不機嫌になった。
「お前、アイツが温厚といってるけど、だまされてるぞ」
「そんな事ないよ、彼は優しい人だよ」
「でも、まぁ、俺もディーターもお前を苛めたけど、お前が思うほど、ディーター。根は悪い奴じゃないぜ、山でのことも途中で気付いて、ヴォルフリートとトラブルあったけど、それがきっかけで対等と思ったんだろうな。それからだよ、ディーターがアレとつるむようになったのは」
「病気を起こしたんだよ、ヴォルフリートの奴。寄宿部屋で、それで先輩の変なのに目をつけられて、・・まあ・・・・アレだ。その頃、アイツ、そばかすから急に顔がすっきりして、女みたいというか、アーディアディトの弟だったシナ、容姿が可愛い方になってきて、弱く見えたというか。目をつけられて、アイツが断ってたら、気に入らなかったんだろうな、屋上から落とされそうになった、落とされかけた」
「それって、殺人じゃないか!!」
ギルバートが机を叩いた。
「お、おお・・・まあ、そうだな。友達と思ったディーターは先輩に怒りにいって、暴力で訴えたわけで。教官に見つかって怒られたんだよ、ヴォルフリートと一緒に」
「ヴォルフリートは被害者じゃないか」
「いやいや、アイツアレでずるがしこいというか裏工作が出来る奴だから、ただの友人同士のトラブルだといって先輩の方をかばったんだよ。落とした先輩達や教官は事なかれ主義の奴だから納得したけど、ディーターがヴォルフリートを殴ったんだよ、お前がそれでは駄目だと」
4
廊下を歩きながら、待たせている、中庭へとギルバートは足を伸ばす。
「・・・・確かにアイツは過去に2度結婚しているが、・・・何故、僕の家に?」
「それが私と執事頭で事情を聞きまして、彼には正式な子供はなくなられた現在の妻との間のヨハネスだけだといいましたんですが」
「・・・・外で作った子供というわけか、・・・・年齢は?性別は?」
「・・・・・」
メイドの口は重く硬い。
「言いにくい相手なのか、わかった、君は下がって言い。相手は子供だろう」
「はい」
中庭では、赤い薔薇が咲き誇っていた。季節はずれの薔薇だ。
ギルバートは曇り空の中、ベンチに座る15歳ほどの黒髪の少年と同い年くらいの赤毛が混じったダークブラウンの15歳の少女の姿を見つける。
・・・今、彼は30代だ、・・・・やっぱり、事件を聞いた詐欺師か?
「・・・・君、ちょっと・・・・」
服装を見ると軍服のような服を着ている。
「・・・・・貴方がギルバートですか」
その少年が振り返った瞬間、ぎくりとなった。瞳の色だ。瞳が右が青い瞳で左目が緑色だったからだ。
「・・・・・・君は」
少年と少女は立ち上がる。
「本当は他の兄弟も連れてくるはずでしたが、・・・すみません」
一ミリも少年は表情を崩さず、クールな表情で艶やかな雰囲気を漂わせながら、じっとギルバートを見た。
「・・・その、君は本当にヴォルフリートの」
「はい、息子です。父・・・が捕まったというのは本当ですか?」
「・・・でも、年齢が合わないよ」
「はい、僕と彼女は父も知りませんから。僕が生まれたのは15年前、今まで父の知り合いに育てられました、ギルバート。父が14,15歳の時、僕は、ローゼンバルツァーの手で双子の異能者として父が知らない間、サンプルの父の一部をつかって、人間の恩などもに生ませ、造られたそうです、ウサギや犬が新たな種をニンゲンによって生み出されるように。・・・しかし、今、問うべきは僕の事情ではありません、ニンゲン達から父を救うことです、ギルバート、協力しなさい、ヴォルフリート父様を刑務所から出します」
「お父様は異能者・・・私たちの家長です。私達全ての異能者を世界から保護する義務があります。滅ぶ世界にお父様が付き合う必要はありません」
「・・・よろしく、ヴォルフリート」
「・・・・姉をお願いします、アロイスさん」
アリスがアロイスを紹介したのは、オペレッタでの会場だった。本当のところは心配だった。アウグスティーンに言われた事はすぐに聞いたが、誤解だといってくれた。いつだって、ヴォルフリートはアリスの味方だった。
「君が認めてくれて、嬉しいよ」
「自分も貴方に会えて、光栄です、アーディアディト姉さんが好きになった人ですから」
穏やかな清涼とした微笑だった。
「僕は二人を応援しますよ、ゴットフリートの方は僕も何とかしますから」
「ヴォルフリート・・・」
「家のための夫婦なんておかしいから、そうでしょう、姉さん?」
「ヴォルフリート!」
アリスが明るい笑顔を浮かべる。包み込むような笑顔を、なぜか方を震えさせながら、ヴォルフリートはアリスに向ける。
翌日、容疑者の一人にローゼンバルツァー馴染みの情報やや交鈔やの友人や妹分、ゲルマン系の医者や看護婦が警察に連れ込まれる事となった。
「昨日はルーマニアにセルビア人、スロバキアにダルマティア人か」
「書類にはんこをお願いします」
「ふう・・・・・」
長いまつげに触れて、切れ長の瞳をルドルフは揺らしていた。
「それと、女官がルドルフ様にお部屋に早く入れてくれるようにと。掃除のものがあのような荒れた部屋を持続させてくれるなと」
「後で行っておく・・・」
「お願いします」
エリアスが書類を持って、部屋を出ようとした時、ああといいかけた。
淡い色の艶やかな髪をかきあげて、紅茶を飲もうとしたルドルフはなんだと答えた。
「そういえば、ヴァルフベルグラオ家のご長男、ルドルフ殿下のご友人、昨日の夕方ドナウ川で作業時間中の終わりですか、エルフリーデ様とデートしてましたけど、あのカイゼルひげの自慢家の部隊、大丈夫なんですか。白いドレスに薔薇の飾りをあたまにつけて、あれ、彼の趣味ですかね」
「え?」
「あのおてんばもあんな女性らしい、艶やかな表情できるんですね、でも、元気はなかったですが」
「へぇ、ギルバートがベルクウェインに。君たち仲悪いんんじゃないっけ?」
趣味の読書とカメラにいそしみながら、ヴォルフリートはディーターの自宅でまどろんでいた。ディーターは足を組んで、イスに腰をかけて、シャツを緩めて、気ままに過ごしていた。わかりやすい明るいイケメンだ。社交家で女性には優しいから、悪い一面も別の印象を与えるようだ。
「やぁだ、ディーターったら」
側には遊び相手のバレエの踊り手がいた。
「アイツ、俺が好きだからな」
「あからさまに嫌いだろ。君のポジティブは君の悪いところだな。ディーター、何故、双思うならいじめを?」
「してねえよ、アイツが勝手に深刻に捕らえて、突っかかるんだよ。まじめで正義ナ奴はこれだから」
ディーターははっと笑う。
「ヴィルフリートも大概だけど、君も底意地、相当だよ。ディーター、君、サド?マゾのどっちなんだ。さすがに腕を折るのはどうかと思うけど、気に入ってるなら君こそ仲良くしたら」
「俺のときは性格悪く・・・いや非道に振舞いながら冷静なんだよ、お前」
「は?」
ディーターはすねたような表情になった。
「なのに、お前、ギルバートには感情的だろう。何と言うか、むかつくじゃん。俺達、友達なのに」
「君がギルバートを苛めるのは賛成してるだろ、僕は君と違って別にアイツの事なんか気に入ってないし。それこそ、自殺でもしろと思ってるよ、ジプシーのくせに大貴族ぶってさ、いいコぶって、薄気味悪いんだよ」
「でも進んで付き合ってるだろ、お前」
「・・・・・まさか、僕が理由という気か?ごめん、それだったらゴメンこうむる」
「わかったよ、いじめねえよ」
「面倒くさい奴だな、君は。・・・・僕だって、あいつとは付き合いたくないさ」
「は?」
「田舎に住んで、ひきこもりたい~」
「それは駄目だ。ほら、いつもの、薬、飲むだろ?」
5
夜に差し掛かる時、ヨハネスが挨拶に上がり、ヴォルフリートはその後をついていき、今日の予定について、ヨハネスと宮殿内で会っていた。厳しい深い色合いの碧い瞳に深い皺、高貴さと厳格さ、隙もない動作。
誰もがヨハネスの姿を見ると、恐れおののき、敵であるものは一応の敬意を払う。
「しかし、貴様、全然父親に似ておらぬな」
「ローゼンバルツァー公、今はそのような」
「・・・・硬い事を申すな。若者は学ぶ時間が私より多いではないか。どのような事情であれ、お前が皇族とつながりを持っていたこと、私は感謝すべきだな。私はよい孫を持ったようだ、どうだ、あれとは話をしているのか」
「世間並みには」
「・・・ヴォルフ、お前、今も私の約束を覚えておるか」
書類を持つ手が止まる。
「私は宝をお前にやるつもりはないからな、だが、殺しはしない。私は約束を守る男だ」
くっくっ、とヨハネスは笑う。
「方針も変えないと、異能者は罰するべきものだと」
「我が家のしきたりだ、神に愛された帝国に異能者は存在しない」
気がつくと、一度戻ったはずなのに。スイス宮の近くに着ていた。部屋には明かりがついて、使用人や女官たちの声がする。白い雪が、空から降っていた。
・・・・アウグスティーンに切り刻まれて、帝国は異能者を切り刻む。日のあたる場所を約束された人間があそこにいる。言葉一つで異能者の命を奪う、エリザベートの息子が。
ズキズキ・・・。
キィィ・・・ン。
「能力使いすぎたか・・・・・」
早く犯人を捕まえないと・・・・・、それに、それに。
「アンネローゼ・・・・・」
ヨハネスがいつ態度を変えるか。頭の中にはアリスの姿が浮かぶ。
千里眼や未来が見える能力も人の秘密を特力もいつも頭の中がぐちゃぐちゃで、記憶はあっても、他の自分になる。
「貴様、また・・・殿下に付きまとって」
「・・・え?」
頭が痛いのに、大声で叫ぶな。能力に心が追いつかないから、複数の兄弟が自分の中にいる。それはわかっている。
「お帰り下さい」
「・・・・君は」
何かをいっているが良く聞こえない、耳がキーンとする。
「ここはもう貴方がいるべき場所ではありません、殿下に貴方は必要ありません」
「え、ああ」
「貴方は殿下の特別ではない、・・・・誰の子かもわからぬものを愛するわけがないでしょう」
「・・・・・」
ヴォルフリートの目が見開く。
「帰れ、下郎」
エリアスの目が鋭くなる。思い鉛のようなものが胸の中を落ちていくような感じだが、ヴォルフリートはそれが何なのか理解できない。
・・・・友達を失ったんだな、本当に。
それだけがわかった。
「はい!了解しました!」
反射で答えた。ただ、なぜか、嫌悪感みたいな感情が一瞬、走った。友情や恋情や情愛という種類のものではなかった。
帰ろう。
後ろを振り返り、ヴォルフリートは雪の中を機械的に歩いていった。
アンネローゼの周りを何とかしないと、ヨハネスやローゼンバルツァーがある限り、・・・だが、彼女の力は凶器だ。
方法を考えなければ。彼女が自然に生きられる場所を。
・・・・それに奪われたくない、他の男に。
特別だ、だから、盗られたくない。好きだ、・・・・好きなんだ。
自分ひとりのものにしてみたい。
・・・僕らしくない。
あの事件で特別は怖いものだと知ったのに。大切に、彼女が笑える場所を。
手に入れたい。
「馬車、拾えるか・・・・」
しばらくして、王宮を離れるほどの距離となったその時、表通りを歩いていると、一台の質素な舞台が止まった。
ガタンッ
「・・・殿下、あの」
「いい、歩いていける・・・・」
御者にそういって、厚手のコートを着た美貌の皇太子、ルドルフが出た。
・・・・大切な友達?
「!・・・・お前」
・・・・・本当に?
ぼんやりした目でヴォルフリートはルドルフを見る。
「・・・失礼しました、皇太子殿下がここに来るとはしらず。それでは、自分はここで帰らせていただきます」
敬礼を取り、軍人らしく従者の表情と言葉で対応して、姿勢正しく頭を下げて、会釈すると、下がる。友達ではないのだ、そういう時期は終わった。
皇子様の友達は、僕の役ではない。アンネローゼを愛し、守るのが僕の大切な事だ。メインにでない事になったのだから、新しい僕で一人で考えて行動しよう。
いつ、殺しあう仲になるかもわからない相手に僕は情報を与えてはいけない。特別じゃなく、ただの帝国や皇族に従う一軍人。近づく事などありえない。
「・・・・私を舐めるなよ、ヴォルフリート」
振り向くと、皇太子ルドルフがいた。
「私がいつでもお前に乞うと、好意を見せ続けると思うな、お前なぞ、私に必要ない」
「・・・・・わかりました」
それは好都合だ。枠をそっちから外してくれるとは。
「僕は・・・貴方の友達でも、貴方は僕の友達ではありませんものね」
「!!そうか、お前は、・・・・本当に貴様は最低だ。・・・もういい、目障りだ!!帰れ」
キャンキャン騒ぐなよ。慣れていることだろう、ルドルフ様。
「―ええ、僕も貴方が最初から大嫌いです、全てを持ちながら当然としている貴方が」
「僕達の不幸の上に貴方の幸福があると思うと」
「・・・・何?」
「・・・僕は貴方を憎み、蔑む気持ちをとめることを、忘れることが出来なかった。貴方は・・・君は、僕が異能者を妬み、嫌っていると思っていたんだろう、はっきり言います、それは違います。
僕は異能者である事を、彼らの敵になった覚えはありません」
「お前・・・何を・・・・、私を惑わせようと・・・」
「僕は守るという約束を破棄します、もう貴方を守りたくありませんから。アーディアディトを、あの人を、僕の大切な人を帝国の為に利用する貴方を」
「キサマァァ!!」
「―僕は僕の力で守ります。貴方には負けません。・・・それでは失礼します、ルドルフ皇太子殿下」
表情がこぼれそうになる。激昂が激しい。
「ヴォルフリート・・・お前が勝てると思うのか・・・・!!」
「―失礼します、皇太子殿下殿・・・!」
ルドルフをしばらく見た後、ヴォルフリートはルドルフを背中に向ける。
完全にルドルフの気配がなくなるまで、ヴォルフリートは歩き続け、人通りの多い街角に差し掛かると、表情をピタリととめた。
「あ、馬車を探さないと、家に入れないか」
妖しい光と異国の匂いがヴォルフリートの身体の横を通り過ぎていく。派手な衣装の夜の女性や抱き合う男女を横目に、ヴォルフリートは歩く。
特別はなくなった、それでよかった。
「腹、減ったなぁ」
そういえば、今日は恒例の墓参りも黒猫に会いにも行っていない。
女の子と遊ぶのはしばらく止めて、アンネローゼに他の男が近づかないようにしないとな。
「ばれたら殺されるな」
その界隈を抜けようとしたその時、襟元をつかまれた。
「!?」
整えられた白い指先がヴォルフリートの顔を覆そうとする。
振り返ると、見慣れた高貴な瞳があった。淡い艶やかな髪も。
「え」
エリザベートの美貌を受け継いだ顔立ちが男の表情になっていた。
「嘘だ」
「はい?」
「お前が必要ないなどと、嘘だ」
君、帰ったんだろう。何故、ここにいるんだ。ルドルフ様はそういうポジションではないだろう。
「・・・すみません、いみがわからないのですが」
裾がきつく閉めすぎてないか。
「・・・エリアスやほかのものも私はいらぬ。・・・・私は、お前だけがいればよい」
全てが演技ではないが、え、あれ?
「好きだ・・・・好きだ」
それは貴方の趣味でもその趣味の好みと自分は違うだろう。
「好き・・・だ・・」
大体、面食いじゃないですか。というべきではないだろう。
ヴォルフリートは振り返り、仮面を外して、ルドルフと向かい合う。
「・・・・傲慢が過ぎますよ、皇太子殿下」
間違えるなよ、皇太子殿下。
「・・・貴方の耳はロバですか?僕は、貴方が嫌いです。そうやって、上から押し付け、人の話も利かずに押し付けてくる貴方が」
そういうしかあるまい。僕に彼氏や彼女役は無理だろ、選びたい放題なのだから、僕がならなくても。本命は他に見つけられる。
「離せよ」
「・・・ヴォルフリート」
ヴォルフリートは乱暴にルドルフの手を離した。
「帝国には逆らいませんし、軍人としてはおつかえしますが、あなた個人に命を捧げる気も、帝国が壊れていくのに誰にも意見を聞いてもらえず、誰にも理解も助けも求められない、異能者を助けることもできないお人形のあなたに、エリザベート様の代わりを求める孤独な貴方に忠誠など誓えますか」
ルドルフの目が見開く。驚いたようだ。
「御可哀想なルドルフ様、どんなに叫んでもないても、誰にも声さえ届かないなんて」
くっ、とヴォルフリートが残酷な笑みを浮かべる。
「き・・・さま・・・」
肩が震える。眉がつりあがる。
「特別な愛なんて、この世に存在しませんよ」
「・・・・男が男を愛するなんて、気持ち悪い」
「貴様!!」
ルドルフがヴォルフリートの肩をつかむ。
「それとも、あの男のようにアウグスティーンのように焼いて、慰めモノにして、自分のお人形にする気ですか?」
炎のような激しいものが、凍土にともった炎のように冷たすぎるなど甘い、何かがルドルフを突き刺す。
「自分のカードにするために。貴方は元々ローゼンバルツァー家に反対していたからですからね」
「―違う、帝国のために血を流すものをいることを許せないだけだ、何より、お前がその手を血で染める事だって」
「僕が決めたことです。貴方を守る以上に、姉さん・・・いえ、彼女を守るためには必要だった」
「彼女・・・?どういう・・・・」
「教えませんよ、頭が宜しいのですからご自分で考えては?」
ヴォルフリートはルドルフの身体を突き放した。
「待てっ」
「―お話はすみました、失礼します」
6
「・・・アンネローゼの為か」
ヴォルフリートが背中を向けた瞬間、その言葉はほとばしっていた。ルドルフはハッ、となる。
その瞬間、ヴォルフリートの身体が激しく揺れる。
「・・・何故、その名前を」
声は冷静だった。だが、振り返ってはいない。
「彼女とは、皇帝舞踏会で、・・・母親の付き添いで一度会ったことがある」
ルドルフの心臓が震える。
「ヨハネスからも聞いた。お前とアンネローゼは憎みあって、会うたびに激しくぶつかり合ったと、ローゼンバルツァーの使用人もそういっている」
「・・・それなら、何故、僕の好きな人があの女になるんです」
「金髪連続殺人事件だ、あの事件で加害者はある手紙を常に所有していた。手紙の内容は乙女たちのお茶会というナの推理する為の個人の集まりだ。犯人はその集まりに参加し、その参加者に恋心を抱き、犯行に及んだ。貿易関係で事故にあった男も死ぬ前の前日に、ある人物とあっている。
ローゼンバルツァー家に脅迫状を送ったものの数人かはその手紙を持っていた。しかし、いずれも告げた名前は―ー」
「だから、何です、それが僕の好きな人とあの女と何の関係が」
「これは先日、ヨハンがお前の持ち物を偶然検査した結果、偶然、見つかったものだ」
ヴォルフリートが振り向いた。
「青い薔薇の花弁?」
「お前の軍服にもついていたとお前の同僚が告げていた。乙女たちのお茶会で使われていた古い洋館でよく青い薔薇は咲いていたそうだ」
「花屋にも聞いたが、ここ数年で青い薔薇を売った店はなく、またどの薔薇の製作者も青い薔薇は生み出していない、少なくともウィーンに関しては。だが、あるところにだけ奇跡的に咲いているところが合った」
「・・・どこです」
「教会だ」
「教会?」
「宮殿に最も近い教会といえば?」
ヴォルフリートはハッ、となった。
「洋館も教会のバラもどちらも外から持ってこられたもので、兄弟の薔薇だ。そして、その教会はお前が行く墓参りの後に水曜日による場所だ。アンネローゼは塔から出ていないが、その日は医者の診察がある」
「・・・・」
「抜け出せなけないわけではない。メイドや従者をごまかし、母親をごまかす手段はいくらでもある。それに彼女は常に塔に閉じ込められているわけではない。彼女が行ける場所は病院か、趣味のオペラ座か、そして教会だ」
「・・・・空論です、今のは貴方が創造したことで、青い薔薇の花粉がついていたからって、僕と暴力女があっていたことには」
「それなら、私が会いに行っていいのだな、彼女には事件を関与した可能性がある。異能者であるお前を使い、何かをしていた、それでなくても彼女は事件を起こしているのだからな」
・・・・カシャァァァン。
仮面が滑り落ちた。ルドルフが顔を上げ、ヴォルフリートの顔を見た瞬間、ルドルフはぎくり、となった。
ガタガタと肩を震えさせ、寒さに震えるようにして顔を青くし、
「・・・ぅ、・・っあ、・・・・・ああ」
手を震えさせ、顎に手を当てる。
「・・・っあっ。・・・・・ぅ」
ボロボロと涙をこぼす。
「違う違う・・・・・違う・・・・。彼女は、違う・・・」
表情が強張って、体から力が抜けていく。
立ってもいられない。
「・・・・いや、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ」
「だめだ、だめだ、だめだ、だめ」
バン、と豪快に叩く。
「ごめんなさっ、ごめん・・・・、いやだ、君が・・・いやだ」
「ヴォルフリート」
「・・・・アンネローゼ、イヤだ」
「・・・ヴォルフリート」
「イヤだ、お願い、僕を嫌わないで!!」
「ヴォルフリート、おい!!」
「違う、僕は好きでああされたんじゃない!!行かないで、アンネローゼ!!」
「ヴォルフリート!!」
ルドルフはヴォルフリートを抑えた。
「あ―ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
雪が降り注ぐ。
「ひっ、・・・ひっ」
ひっくひっくとヴォルフリートはないている。ルドルフはしがみついたままだ。
「ひっ」
「・・・ヴォルフリート」
身体がビクッ、と震える。
「・・・・・あ」
ヴォルフリートが戻った。
「大丈夫か・・・・」
ヴォルフリートの顔が赤くなり、後さずる。
「・・・あ」
「すみません、ヘンな所見せて・・・・」
「ヴォルフリート・・・」
ルドルフがヴォルフリートに手を伸ばそうとする。手をはじかれた。
「・・・帰ります」
ー雪が降る中、ルドルフはヴォルフリートの青い目と緑色の目を見る。長いまつげに雪がかり、始めてであった頃に比べると、随分整って、15歳の時と比べると、きりりとした目つきになった。
あんなにも否定されたというのに。
・・・何故、アイツにこだわる?
ヨハンにいつか言われた言葉だ。
そんなもの、私のほうが知りたい。邪魔ならば、今までのように切り捨てればいい。割り切って、他の人間のように、駒として使えばいい。アーディアディトのように。
「そんなにもアンネローゼがすきか」
「はい・・・・」
頬が若干緩くなった。
―誰が赦すものか、そう感じた。押し付けるな、だと。迷惑だと。
ルドルフの高貴な瞳が鋭く尖る。激しい怒りに似た感情が体の奥から湧き上がる。
「ルドルフ様?」
肩を乱暴に掴み、引き込もうとする。ルドルフの顔を見た瞬間、身体中の血が引いた気がした。
「!・・・ルドルフ様っ」
唇を近づけて、奪う。
「う・・・」
離れようとすると、またキスをした。息が切れるまで、ヴォルフリートを離さなかった。
「新しい契約を交わすぞ、私がアンネローゼを保護する」
「何を・・・っ」
「その代わり、お前は私を好きになれ」
目が大きく見開く。
「・・・・・何を」
ヒュウ、と冷たい空気が流れた。
「これは契約だ、ヴォルフリート」
「本気ですか?」
「ああ」
正面からルドルフはヴォルフリートを見た。
ヴォルフリートはルドルフにそのまま馬車に運ばれた。
バルカン半島はまさに暴発間近の危険地帯となっていくのを、多くの民族を抱えるルドルフやフランツは、武力や討論、外交を持って対処する事になるが、見えない力で巨大な力を持っても出来ないまでに事態は加速していた。
動乱の時代へと突入しようとしていた。
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