第19章真実の歌


銃の音が鳴り響き、頑丈な門の中にヴェータとアロイスは送り込まれた。新しい主人は役立たずで弱虫で甘いアロイスを嫌い、ヴェータはからだが弱く、アロイスのお荷物だった。両親は旅の途中で死んだ。頼るのは、お互いだけだ。
「ホラホラ、歩け」
死にたくない・・・。
教育も受けられず、アロイスは労働をして、僅かなお金でヴェータと共に生きていた。
愛されたい・・・。
普通の親と家を持つ子供になりたい。
そんな時に、囲いの側で、ブルーコスモスの強襲はに襲われる現場に紛れ込んでしまった。
「しまった!」
「車を戻せ、殺されるぞ!!」
「見ろ、コーディネーターの擁護派だ」

ズダァァァァン!!パンパン!

「お兄様!!」
「大丈夫、お前は僕が守る!!」
自信はなかった。逃げることしか想像できなかった。街中を走り、追われて、街角を曲がり、家と家の間を走り、階段でブルーコスモスの男達に囲まれる。
「・・・へえ、珍しい」
「北欧か?随分美しい兄弟だな」
アロイスの顔が真っ青になる。ヴェータはぎゅっ、としがみついた。
「・・・殺すか」
「仕方ない、コーディネーターのようだしな」
「悪く思うなよ、恨むならお前らをコーディネーターとして生んだ親を恨むんだな」
ジャキ、と銃がアロイスに向けられる。

「喧嘩したのか?レンと」
「・・・自分は悪くありません」

「エリアがアンジェリアと・・・」
ステージがざわめきだす。
「嘘、あのネットアイドルの?」
「・・・・貴方がエリア?」
「はい、アンジェリア」



                 2

誰もいない劇場で、仮面の少女、サーシャがアロイスを待っていた。
「・・・俺を呼んだのはお前か」
「お久し振りですね、ベルツ」
「お前は誰なんだ」
「魔女の息子と共に帝国に廃棄されたニンゲンですよ」



「ラクス・クラインを逮捕しろ」
「・・・私が新しいプラントの議長となる」
「その人は、デュランダル議長の死を隠していたのだ」


「離せ!」


「父上、どういうことです」
「私もどういうことだか」
「アレン、お前・・・兄を。リカルドをはめたのか」
「・・・自分は、キャンベルの計画を助けただけです」



                  3
黒髪の背の低い少年は辺り前のようにオレンジが入った紙袋を片手に、ズボンにシャツという普通の格好で家の間から現れた。
きょとんとアロイスと男達をみている。
「はぁ・・・」
状況を見ても、動揺すらしていなかった。
「ふぅん」

「アジア系?」
「そんなことはどうでもいい、一般人に見られたんだ」
「どうする」
「・・・関係ない奴を殺すか」
殺す、と聞いて、アロイスは悲鳴を上げた。
「止めて、関係ない人、殺さないで!!殺すなら僕だけで!!」
簡単にアロイスは投げ飛ばされ、殴られた。
「触るな、汚らわしい!!」
「!?」
アロイスの体が転がり、ヴェータハアロイスにはしりよった。男達が背が低い少年に近寄る。
「止めて!!」
少年はきょとんと不思議そうに男達を見ていた。



「皇女エリザヴェータ・ゼーダ・エル。アドヴァキエル・・・、俺の皇帝に売られた妹だ」
「・・・・死んだはずじゃ」
「プラントで生き別れたとお前は言っていた」




                 4
「・・戻ってきて、シェリル」
「・・・だって、ラクス様は私たちの」
「何故・・・」


カインはなれた手つきで男達から銃を奪い、リーダーらしい男の腹に銃を放った。
「何!?」
表情はあどけなく、とぼけた表情だが、男達を蹴り上げると、回転して、着地をした。
「わーっ、びっくりー」
「いつの間に俺のナイフを!?」
男より、カインの方が動きが早く、袋の中からシャーペンを取り出し、男達の目に正確にシャーペンを突き刺す。
「ええと、おじさん達、鬼?」
銃が撃たれ、カインは避けると、ナイフで足元を引き裂いた。
「僕、もう捕まったの?」
きょろきょろと辺りを見渡しながら、男の首を掴み、ナイフで喉元を引き裂いた。
「先生、どこに言ったんだろ、これもテスト?ア、全員、死んじゃった」
頬に血が飛び散り、カインはぬぐった。
「手もべっとりか」
くるり、とカインはアロイスの方に振り向く。アロイスはびくついた。
「このままだと僕はゲームオーバーか、うん、君を使おう」
ヴェータとアロイスの服を掴むと、カインは歩き出した。
「ちょ、なにを、どこに?」
「うん?君たち、羊。僕、鬼から追われるニンゲン役。羊がいると、先生、テストが甘いんだ」

ドレイクガンダムがラルクのMSを迎えに来た。
「ラルク!」
「・・・・レン」



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「ベルツ、お前も悪だな」
「地球連合の計画に参加し、投資を積極的に誘うお前よりはマシだろう」
「貴方・・・」
「大丈夫だよ、ハニー。お前の為に、新しい子を用意したよ。とても美しい子供だ」
一枚の家族写真をとった。
穏やかな優しい家族がそこにあった。


新しいことを覚えることは、アロイスにとって喜びだった。世界が広がっていく。ヴェータもよく笑うようになった。優しい母に優しい父親。おびえる必要のない充実した生活や学校。アンジェ姫という初恋。庭園の中でよく声を出して遊ぶようになった。ヴェータは自分よりおてんばとなった。
光にあふれた世界だった。
「あはははは」
「お兄様ったら」
全てが満ち足りていた。


「逃げたか」
「どうなされます?」
「追跡しろ、あの女はコーディネーター、プラントの裏切り者だ」
「はっ」



よそ行きの衣装を着せられて、車である研究所に向うこととなった。着いた場所は山奥の研究所だった。雨が降って、大きな看板は濡れていた。
「お父様、ここは・・」
「ここにカインがいる」
「え・・・」
「お前には、一ヶ月、カインの相手をしてもらう、頼むぞ」
「・・・はい、お父様」


部屋に入ると、カインは壁一面にラベンダーを油絵の具で書いていた。看護士らしい女性が2人は言ってくる。
「・・・お姉さん、アレは」
「V-0013、カインです。それでは、カインの相手を頼みますよ。あの子は集中すると、周りが見えなくなりますから」
「行くわよ」
女性は出て行くと、カインとアロイスだけが残された。
「・・・・君」
不安げにアロイスはカインに話しかけた。
「・・・・・・・・ん?あれ、ア、この前のシルバー羊」
「アロイスです」
脚立からカインが降りてきた。



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ヴェータとカインが花の冠をつけながら、ベルツ家の別荘で庭の中で遊んでいる。
「すっかり、仲良くなったわね」
「はい、お母様、ヴェータも気に入っていて、放っておくと、なかなかカインを返してくれません。妹が取られたみたいで、少し焼けます」
「そう・・・」
「カインも元気になったら、学校に行けますよね。あ、手紙を書いてもいいですか?」
「アロイス、あまり、あのこと距離を近くするのはどうかしら?」
「何故?」


ザーッ
「まさか、奥様がプラントとからんでいたとは・・・」
「・・・・」
「お母様・・・」
父親の隣には、看護士の女性の姿があった。
「アロイス」
「カイン・・・」



「カインを廃棄させろ」
「いいんですか、坊ちゃんの親友でしょう」
「あれはMSのパーツに過ぎない・・・アロイスは干渉しすぎている。アロイスを守るためだ」


「お兄様、私、カインのお嫁さんになりたい。昨日、着たアスタール家の子が教えてくれたの」
「ああ、シャルルさんの弟の」
「駄目かな?」
「いいよ、明日、カインに会いに行くから、僕が聞いてみる」

「よいか、カインには訓練といって」
「・・殺すのだぞ」

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「・・・本当に、ベルツさん、家に言っていいの。僕だけ卒業なんて」
「・・・ああ」
カインはベルツにてを引かれて、アロイスたちのいる屋敷に向った。


「約束、カインは僕が守る」
「約束、アロイスは僕が守る、エリザヴェータも」
「2人の約束だ、何があっても」
「僕は、いや、俺は裏切らないよ」


「・・・アロイス、カインを殺せ、アイツはファントムペイン・・・殺人兵器だ」
「え?」
「お兄様、お母様とカインがお兄様と誕生日プレゼントを、・・・お父様、お兄様、どうかしたの?」
「いや・・・」

星空を3人で眺めた。



「・・・奥様、早く、屋敷の外へ」
「主人は・・・」
「大丈夫です、きっと・・・」


「お父様から離れろ、人殺し」
「助けるのか?本当に」
「こいつは殺すぞ、お前の親友だけじゃなく、これから多くの人を」

「アロイス、カインを戦士に戻す」
「いいわね、もう同情は止めなさい」
「アレは近づいてはいけない子だ」

「アロイス、・・・奥様とヴェーたが」
「・・・アロイス?」
「・・・親戚の人がアロイスの財産狙って殺しかけて死んだって、・・・・お医者様が言ってたけど」
「ゴメン、アロイス、ショックだよな。だんな様もテロでなくしたばかりなのに」
「何と言えばいいか・・」
「カイン、星を見に行かないか」
「え?」
「星が見たいんだ、君と2人で」

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