ナ チ ュ ー ル

ナ チ ュ ー ル

未題



小説
未題

一章 メール







不安の谷間

人間の住んでいない
無言の谷が
昔はほほえんだ。

人々は優しく光る星を頼りに
夜毎に、彼等の淡青の塔から
花の群れを見張しようと
戦の庭に出かけた。

花の真中に日もすがら
赤い太陽がものうげに横たわる。

いまは訪客は悉く
悲しい谷間の不安を告白するであろう。

そこには何ものも動かないものはない
怪しい孤独の上を覆う
大気の外は何ものも。

ああ、朧のヘブリディスのまわり
冷海のように慄えている木々は
吹く風に揺られることもなく。

ああ、名もない墓に
揺れ、ないている百合の上
無数の型の人間の目のよう
よこたわる董の上に
曙から夜更けまで、絶え間なく
不安の空を、さらさらと流れる雲は
風たえて吹かれることもなく。

花は揺れる その芳しい項から
永遠の露が、滴り落ちる。

花は嘆く 細やかな莖から
永久の涙が賓石となって、降る。



ポー 詩集より









明日になったら

幸い夢の中

棘がひっかかっていないかどうかを

たしかめよ

きみはすでに

罪人の罪よりもすこし重く

罪人の衣褒よりもすこしみすぼらしく

あまたの時を過ぎたのだから



もしも夢見た世界が

こないうちに

ちいさな恋のいさかいで倒れたら

きみと少女の骨を

戦士がとおる路に

晒せ

あまたの若い戦士たちは

まことともうそともわからぬうちに

すでに孤独な未来へ

ゆくのだから




もしも 大事のまえに

ちいさな事がまちぶせていたら その

ひとつひとつに花燭をともし

あたりのわるかったものに

微笑を 耐えられずに死んだものに

花飾りを

ほどこせ

きみはすでに

罪を世界におい

安息を戦士たちの肩から

盗んでいるのだから



明日になったら

幸い夢の中に幸い夢をきずき

孤独な戦士よりも孤独な未来へ

君もゆけ

すでに戦士たちはためらい

きみは待たれているから







隆明作品集より

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