人間仁科のブログ・八重山見聞録外伝

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絵を描いているうちに俺は気が付いた。絵を描いていると多く
の人がその周りに集まってくることに。別に人を集めたくて描く
わけではないが某(なにがし)かの注目を浴び、多少なりとも賛辞
を受けるに至っては描かざるを得ず、気分はもうすっかり山下清
(放浪画家)だ。
 でもあまり調子に乗ると失敗もある。つぎに行った町でも宿
の庭先なんかで絵を描き、他の旅行者や現地の方々など数名の
賞賛を受けて良い気分でいると、宿の主人が出てきて言う。
「ワシの肖像画を描いてくれんか。頼むよ。描いてくれたら宿代

いに懇願され、宿代なしとの提案に心動かされ、つい承諾してし
まい大失敗となったのである。主人を一時間あまりで描き上げた
のも束の間、今度は長女(10歳)がアトリエに現れると「なあ日本
の友よ、かわいいかわいいワシの娘も描いてくれんか。なぁ頼む
よ。もちろん明日もただで泊まってくれてかまわん。なぁ頼むよ。
お願いだから娘も描いてくれよ、な」
 と言うことで、日が暮れて筆先が見えなくなるまで3時間あまり
馬車馬のように描き続け、くたくたになって俺は気が付く。宿代が
ただなんて言っても二泊分で200円ってとこではなかろうか。と言
うことは、つまり時給換算にして70円にも満たないではないか。こ
れまさに骨折り損のなんとかってやつかも知れないと。

との教訓を得た俺は山下清先生の眠る東の地へ向かって手を合わせ、
それ以降は時と場所を選んで描くようになった。わけでもないのだ
が、そこらから先のインド西部やパキスタン、イランと続く酷暑地
帯の直中(ただなか)にあっては絵どころではなくなってしまったので
ある。(つづく)





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Last updated  2005.12.21 10:57:05
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