人間仁科のブログ・八重山見聞録外伝

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カテゴリ: 島ネタ
泥睡に入ったら最後死んでも起きない
方がいる。これを昏睡型とする。

まるで死体か何かのように四肢が完全
に脱力。半開きの口唇からよだれを垂
らし、怒鳴ろうと蹴飛ばそうと往復ビン
タを張ろうと、顔にマヨネーズを塗りたく
ろうと絶対に目を覚まさない。ま、僅か
に眉間にシワを寄せるのが関の山で、
とにかく起きない。


うのだが、かなり恥ずかしいことや憐れ
なことされてもやっぱり起きないところを
みると目が覚めないのは演技ではない
ようだ。

で、『てめぇ』と書いたが実は昏睡型は
女性に多かったりする。札幌はススキノ
に五年。石垣島は美崎町に七年暮らし
た私が言うのだから間違いない。昏睡
型は女性気質の為せる技なのである。
具体的にどういう女性気質であるかは
後述する昏睡型憐憫事情・女編にてご

であってもその女性気質の多寡によっ
ては昏睡型となり得るわけで、怒型と
は又違った意味で昏睡型も結構始末
に負えなかったりするのである。



その彼は植え込みの中で寝ていた。

込みである。中級の宿泊施設の植込
みであるから、ま、それなりに手入れも
されていて植込みの中に寝ていて彼は
容易に私に発見された。

私は当時そのホテルで夜警のバイトを
しており、そこでは夜中に数回巡回を
しなくてはならないのであるが、その際
に彼を見付けたのである。

足だけが植込みから飛び出していた。
ホント、まるで死体である。それも変死
体。

人の気配もなくなった真夜中に、その
ような光景を知らない方が見たならば
驚くこと必定で、場合によってはホテル
の宿泊客なんかが発見したら警察だの
救急車だの闇雲に呼んで大騒ぎして、
挙句に夜警である俺の責任問題を取り
沙汰されて、結果、島のローカル新聞
などに氏名など載せられ、世間様から
は後指などさされて陰口やら罵詈雑言
やら叱責やら誹謗中傷やら励ましのお
手紙やらその他いろいろと受けること
となるやも知れず、そうなれば南の島
でひっそりと暮らさんと願いつつ日々
の生活を送る俺としては、やんごとなき
一大事に相違なく、そんな近未来のビ
ジョンが一瞬のうちに脳裏に浮かんだ
俺は彼を急ぎ揺り起さんと作業着ごし
にその肩に手を当てたのである。

力を入れた刹那、ぐにゃりと彼の肩は
植え込み中へと沈み込む。

えっ?まさか死んでないだろ。死体じゃ
ないだろうな。

でも、そう思って顔を近づけるとやっ
ぱり強烈な泡盛臭。息もしている。

くそっ!起きやがれこの野郎。オマエ
がこんなところで寝ていると俺が責任
を問われんだよ。畜生、このぉ、起き
ろって。起きろって言ってんだろ。おぉ
い。おいっ。畜生め。

そうやって声を張り上げ、ガクガクと
肩を揺さぶるのに彼はぴくりともしな
い。ただ低く寝息を立て、全身の筋肉
を弛緩させたまま植込みに敷き詰め
られた腐葉土なかに埋まりこんでいく。
五分以上も泥酔の君を起こす努力を
続けるも甲斐なく、責任問題的顛末
に恐れを為した俺は躊躇なく110番。

しかしながら。

「酔っ払いが寝ています。困っていま
す」などと電話口で訴えても石垣島の
おまわりさんからは軽んじられるのは
明白であるから、俺は少しばかり事態
を誇張、歪曲して告げたのである。

「多分、酔っ払いだと思うんですが…
なんか全然動かないし、もしかしたら
死んでるのかもしれません。心配だな
ぁ。なんか怖いなぁ。あのぉ、すぐに見
に来てもらえますか?お願いします」

五分とせぬうちに警官二人がパトカー
で到着。俺の目論みは成功。で両名
はすぐに男を起こしにかかった。

おい、おい。

おいっ!

と、結構ドスを利かせた調子でやるの
だが誰が起こそうと無関係とばかりに、
男はだらりと四肢を垂らし涎を垂らし
続けた。

いくら酔っ払いとはいえども寝ている
民間人をいきなりぶん殴ることも出
来ないし、警察の方は随分と逡巡さ
れたことと察するのであるがそれか
ら二十分以上も粘ってオマワリさん
二名は男を起こすことに成功する。

制服の警官に励まされ、注意され、
鼓舞されながら男は立ち上がり、粘
り腰で一生懸命に起こしてくれた警
官お二人に目を合わす事もなく彼は
唐突に歩き始める。それも、ものす
っごい千鳥足で。

物陰からその様子を見ていた俺は
「おい!おまわり、その千鳥野郎を
そのまま帰すんじゃねぇよ。だって
そうだろ。あの千鳥足はねえだろう。
歩いてないだろ、あれは」と思わず
叫びそうになったのであるが、物陰
に潜んでいた手前それも叶わずに
俺は仕方なくも千鳥男の追跡に…。

だが、追跡するまでもなかった。

男は三十メートルと行かないうちに
尻から路上に崩れ落ち、大の字に
倒れ込むなり又もや昏睡に入った
のである。

振り返れば警官もすでに植込み現
場から立ち去ろうとしていた。目の
前から消えてくれれば泥睡男への
興味もすぐに消えうせ、大ちどり足
野郎に対してなんのフォローもしな
い警察官の態度に沖縄県は石垣島
における泥酔者への鷹揚かつ投げ
やりな認識の在り方が透けて見えた
夜だった。

無論、俺も夜警にあたるホテルへと
そのまま戻ったのである。俺の責任
が問われないあたりで寝てくれるな
ら彼が何処で昏睡しようと知ったこっ
ちゃないのだ。







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Last updated  2007.12.25 09:29:08
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