しかともなか日記
1
「ダック・コール」 早川文庫 640円稲見一良(いなみ・いつら)氏の「ダック・コール」ば読みました。宝島社「このミステリーがすごい!」の1992年版で3位に入り、さらに1988~2008年まで20年間の総合ランキングで、6位に入った作品ですと。第4回山本周五郎賞も受賞しとるとです。タイトルのダック・コールとは、鴨の群れを呼び寄せるとに使う笛のことです。6編の独立した物語のオムニバス作品ですが、どの話にも必ず「鳥」が出てくるごとなっとります。だけん、タイトルが「ダック・コール」っちゅう訳です。6つのお話は、ある短いエピソードがまず「プロローグ」で語られ、つながっていく形式になっとります。それぞれのタイトルは、次の通り。「プロローグ」第1話「望遠」第2話「パッセンジャー」第3話「密漁志願」「モノローグ」第4話「ホイッパーウィル」第5話「波の枕」第6話「デコイとブンタ」「モノローグ」それぞれのお話ば解説しよると、えらい長うなりますけん、私の好いとう作品ばランキングしてみます。第3位「波の枕」※乗っていた船が火事で沈み、漂流してしまった漁師が食べ物はおろか、つかまる木片さえない絶望的な状況で出会った、不思議な海の生き物たちとの交わりを描いたお話。メルヘンともファンタジーとも言えるような、不思議な雰囲気の作品。第2位「ホイッパーウィル」※保安官の依頼で脱獄囚を追う手伝いをすることになった日系2世の元兵士の目を通して、異人種間に横たわる確執と、民族の尊厳とは何かを描いたハードボイルド・タッチの作品。タイトルの「ホイッパーウィル」とはある鳥の名前ですが、作品の最後の方でこの鳥の習性と物語のテーマが見事にクロスします。第1位「密漁志願」※ガンに冒された初老の男が、野生の感性を備えた少年に「密漁」を指南してもらうという設定の妙に、グイグイと引き込まれる作品。途中から登場する車椅子の老婆との交流や、成金趣味の悪者を懲らしめるために2人が協力して計画する「密漁大作戦」が痛快。しかし一転、物悲しい余韻を残すラストには、涙せずにはいられません。これを読むだけでも、この1冊を手にする価値があります。次点:「デコイとブンタ」※デコイ(鴨をおびき寄せる木でできた鴨)の視点で語られる、あるひとりの少年との出会いを描くメルヘンチックな内容。彼らが遭遇する事件と周到に用意された伏線に、心がほっこりと温まる作品。以上、書いたごと、面白か本です。オススメです。しかし、それ以上に面白かと感じたとは、「このミステリーがすごい!」の選者たちが、この作品ば「ミステリー」と認識して、投票したっちゅう事です。読む人によっては、「これってミステリーじゃなかろうもん!」と感じるかもしれまっしぇんね。しかし、私が「このミステリーがすごい!」に感謝したかとは、この作品ば「ミステリー」のジャンルに組み入れて選び出してくれたこと。もし、ランキングに入っとらんかったらこの本に出会えず、一生読んどらんかったかもしれません。また、読んだ後に感動する分には、この作品がたとえミステリーであろうがなかろうが、関係なかっちゅうことです。この作品の持っとう輝きは、ひとつのジャンルに収まるもんじゃなか、と思います。とにかくオススメです。P.S.言い忘れてましたが、作者の稲見氏はすでに病気でお亡くなりになっています。残念です。合掌。
April 10, 2008
閲覧総数 98