月臣邸

2005.10.02
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口の端をくっと吊り上げ、見下げられた気がした。

冷たい視線で俺を見下すのは、気に食わない顔面ピアス野郎。


「…なんだよ」

「あんたの負けだね」




指先で下唇のピアスを転がし、大層面白そうに笑った。
深いな笑い。

俺を見下し、バカにして蔑んでるような。







「黄泉は、俺を選んだんだよ」















「…あっ」




「る、瑠樺さん…? 挿れないの…?」
「あ? ああ…」


指の腹で秘部を撫で回すだけの俺を不思議に思ったのか、黄泉は見上げながら聞いてきた。



何故だろう。愛しいはずなのに――

今は、この染めた頬さえ嘘なんじゃないかと。



俺で遊んでるんじゃないかと思えてきて。















「黄泉、俺のこと好き?」
「えっ?…………うん」

その間は何?
その間の中にどんな意味がある?


ひつぎ






「…は? 知ってるに決まってるじゃん、毎日会ってるし。
 どうしたの?」


「…お前さ、……浮気してない?」




「…………瑠樺さんだってしてたくせに?」
「アレは…もうやめたじゃん」


泣きそうに顔を歪め、言おうとしていた言葉をぐっと飲み込む黄泉。


「……帰る」






上着を掴み、そそくさと黄泉は玄関に逃げていった。


辛い?
どっちが辛いんだよ。

俺だって辛い。
きっと黄泉も辛い……


俺は黄泉の心を知る術なんかもっていない。
でも、


心の中に棘が刺さってるなら…取ってやりたかった。

って、俺がその棘指しちまったんだよな、きっと。



ずっと一人で泣いてた?
ずっと一人で苦しんでた?



だから、柩の所に逃げた…?







弱いな。俺も、黄泉も。

お互い、正面から向かい合える強さを持てない。







「でも……」








愛してるんだ















うちに帰ると、柩が何故か玄関で俺を待ってた。
今、夜中の2時なのに……
この寒い中待っていたのかと思うと申し訳なくて、俺は急いで柩に駆け寄った。

「ひつ! どうしたの?」
「…ううん。泣いて帰ってくるんじゃないかなあと思って」


言って柩は、俺の頬を両手で包んだ。
ビクンと俺の体が跳ねるのを見て、柩はにっこりと微笑む。


「瑠樺さんのうち、行ってきたんでしょ?」
「…うん」
「……苦しくないの?」


「…苦しいよ……でも…………っ」






ハァ、ハァと

後ろから、必死に走ってきたような息の切れ方が響く







「でも、どうしても好きなの…っ誰よりも一番すきなの…!」



「黄泉っ!」









バッと、後ろから抱きしめられて。
柩から引き剥がされた。

キッと睨む柩の瞳には…
俺を抱きしめる瑠樺さんが映っていた。



「悪ぃ、柩。

 これ、俺のだから。ちょっかい出さないでくれる?」




低い声が脳髄に響いた。



「……アンタより俺の方が、黄泉を幸せに出来る」
「それでも…こいつは、絶対渡せない」


トキンと胸がときめくのは


きっと体が温かいから







イラついた様に唇を噛み締めた柩は、やがて俺たちの横を通り過ぎ道路へと出て行った。








後ろから抱きしめられたまま、玄関の前に立ち尽くす。

今の俺は顔が真っ赤だろう。だから、顔を合わせることが出来なくて。



どうしようもなく嬉しい。






「…あの、る」
「言うな」



ギュッと
抱きしめる腕に、力が入った。




「何も…言わないで…
 もう少し、抱きしめさせて」


「……うん」








涙が零れて

瑠樺さんの服に染みた。





俺の、証。






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Last updated  2005.10.02 16:30:49
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