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第21章
月下で死神は踊る
屋上に出ると、もう大分夜も深まっていた。日は完全に沈み、青白い満月が不気味なほど大きく見える。
―――ムーン……。月影の……巫女、か。
その月を見上げ、ゼロはふとそんなことを思った。
どことなく、月明かりの下では彼女が強くなるような錯覚を覚える。
ゼロは心の中でその考えを否定し、先へと進んだ。
そこいらの訓練場もよりも、ずっと広いこの屋上には、柵などがなく、一歩踏み外せば、数十メートル下の地面に落下するという末路を辿るだろう。
何が仕掛けてあるか分からないからが故に、リンは周りをよく見ていた。
この用意周到さも、戦いの上ではかなり勝敗を左右する。
しばらく進んでから、ゼロたちの視界に人影が入った。
華美な、薄青いドレスを纏い、長い髪を真っ直ぐに下ろしている。老若男女を問わずに、ありとあらゆる人を見入らせるほどの美貌を持ち、戦争とは無縁そうな女性がそこにいた。
ゼロを除く3人はそれぞれ戦闘体勢に入り、ゼロはムーンの方へと近寄った。
ゼロの間合いからギリギリ外れた、7メートルほどムーンと間を置いて、ゼロが口を開いた。
「ついに、ついにここまできたぞ、ムーン」
その声には達成感と、どこか悲しみを帯びさせていた。
「これが、最後の戦いだ……」
ゼロはゆっくりと愛刀に右手を沿え、柄をしっかりと握り一息に刀身を月光に輝かせた。そして鞘を遠くへと投げ捨てる。この敵を倒すまで、再び刀を鞘に収めるつもりなど毛頭ない、そんな気持ちの表れだ。
「ゼロちゃんは、どうしてそんなに戦いを求めるのん?」
不意に、ゼロの言葉を聞いていなかったかのようにムーンが子供のように首をかしげ、ゼロに問いた。
「求めてなんかいない。“どっかの誰かさん”が戦乱をもたらしたから、別の誰かが尻拭いするだけさ」
ゼロがそう吐き捨てる。
「“その人”のやり方では、あまりに人が死にすぎますから」
ユフィがゼロの言葉に付け足して言う。
「あらん?お生憎様、私もゼロちゃんもたくさんの人を殺してきたのは同じじゃないのかしらん?」
あえてゼロとユフィはムーンの名を伏せたが、彼女はあっさりと自分のことと認めた。
彼女は引かない。自分の信念を曲げる気はないというような、強い力を感じさせる瞳の輝き。
「先輩は、無抵抗の人を殺したりなんかしてません!」
リンが、ムーンの言葉を否定する。
「死んでいい人なんているのかしらん?一般市民も、兵士も、同じ命を持つんじゃないのん?殺した相手が誰だとか、そういう問題じゃないのよん」
ムーンの言葉は、一概に否定できなかった。
―――確かに、一理あるよなぁ。
ユンティがムーンの言葉に同意する。本気ではないようだが。
「目的が違う!俺たちは、差別のない、真の平和を築くために戦ってきたんだ!」
ユンティにも言うように、ヴァルクが叫ぶ。
「じゃあ、実は私も平和を目指してたのん♪って言ったらどうなるのかしらん?」
ムーンがヴァルクを挑発するように、そう言い放った。
どこか言いくるめられているような気がして、皆落ち着きを失っていた。
だが。
「俺たちは俺たち。お前はお前だ。俺たちの信念とお前の信念が同じなら、そもそも戦いになることなんかなかっただろ?どうなるもこうなるも、どうにもならないよ」
僅かに笑みを浮かべ、どこか余裕を持ったような表情でゼロが言う。
彼の言葉を聞き、皆落ち着きを取り戻し、平常心に戻った。
そう。彼女を倒すために、今までやってきたのだ。そして、今ムーンを倒し、この戦いを終わらせる。これを最後の戦いにするために。もう、戦わなくてもいいように。
今更悩む必要は、ない。
―――いくぞ!アノン!!
―――あぁ……。これで、終わらせるぞ!
アノンは、もう割り切った。たとえこの戦いを最後に、この身が消えようとも、この最後の時をゼロと共有できるのだから、後悔はない。この想いは、この胸の内だけに。
ゼロが先陣を切って飛び出した。その速さは今までになく、目にも止まらぬ速さ。その刃には、一撃必殺の威力も篭っている。
だがそのゼロの高速の刃も、ムーンに紙一重で避わされる。紙一重の位置だが、表情には余裕が伺える。
ゼロの斬撃に続くように、リンの5連撃が繰り出される。だがその攻撃も全てほんの僅かな動きで避けられる。
その隙にムーンの背後に回ったヴァルクの攻撃でさえ、後ろを向いたままのムーンの短剣の前に止められる。
驚きを隠せないヴァルクとリン。
得体の知れない恐怖と、見えない勝利を感じ、リンは本能的にゼロの背後に入った。
「もしかして……その程度で私に勝つつもりなのかしらん?」
不敵な笑みを浮かべながら、ムーンがそう言い放つ。
ムーンはゼロの方を向き、その背後にヴァルク、左手にユフィと包囲されているのも関わらず、余裕を見せていた。余裕そうに、隙だらけのように見えるが、隙がない。
「今のはほんの小手調べさ」
その態度に対してゼロも余裕を見せる。だが、内心では必死に戦略を考えている。4対1なのに何故だ、と。
「あらん?お生憎様、私も今のは」
悠長に喋っているムーンに向かって、ユフィが光の矢を放つ。完璧な不意打ちだったが、ムーンは見向きもせず、その方向に手をかざし、障壁を生み出して防いだ。
「まだ4割くらいの力なのよん♪」
しかも、顔色一つ変えず、一瞬の驚きも見せずに、だ。
その反面、ユフィは信じられないといった風に唇を噛み締めた。
―――けっこう、威力込めたんだけどな……。
化け物じみたムーンの前には、過信するに値するはずの“ナターシャの魔力”も凡人のそれと同等のように感じてしまう。
空に浮かぶ月は、先ほどまでよりも、少し近付いた気がする。
その青白い月光に照らされ、ムーンが輝いている。
少しずつ、絶望が芽生え始めた。
その頃。
勝利を収めた屋外では、シスカの治癒魔法によりベイト、シックス、セティの3人が完璧に復調し、ゼロたちへの援軍に向かおうしていた。
そこに、ライトを担いだライダーが現れた。
「シスカ陛下!こいつを助けてやってくれないか?!」
その声は仮設療養所に大きく響いた。
「ん?今度は誰だい?」
その声を聞き、シスカが姿を現す。そして彼はライダーの担いできた青年を見て、少し驚いてみせた。
「これはこれは、東のライト国王じゃないか」
言っているほど、驚いていないようだが。
「ゼロが、こいつにはまだやってもらうことがあるからって、治療してやってくれないか?」
いざムーンの所へ、と思っていた3人が顔を出す。そしてその会話を聞いていたベイトが口を挟んだ。
「ゼロらしいな」
そう言って軽く笑う。出来ることなら死者は少ないほうがいいという彼の考えは、まだ貫かれているようだ。
「ん~~~……」
シスカが少し思案する。
「ま、ココで恩を売っておけば、後々有利だからね、OK。いいよ」
そう軽く答える。だが、その表情に隠れた黒い考えに気付き、4人は血の気が引いた。
―――この人だけは、敵に回したくないな……。
4人とも同じようなことを考える。
ライトを奥に運ばせ、シスカも奥のほうへ姿を消した。
「ミューは無事か?」
ふとライダーがベイトに尋ねた。ベイトは何の疑問も持たずに、左手にあるテントを指差した。
「けっこうやられたみたいだけど、無事っていえば無事だよ。あそこで、安静にしているよ」
「さんきゅ」
ベイトの言葉を聞き、ライダーはそのテントの中へ入っていった。
テントの中で彼が見たのは、病人が着るような、白い清潔な服を着たミューの姿だった。見える範囲で、所々に小さな傷を負ったりしているものの、幸い顔には目立った傷は見受けられない。
だが腹部の辺りに巻かれた包帯が、少し赤く染まっているのを見てライダーは痛ましい気持ちになった。
「ミュー……?大丈夫か?」
横になっているミューの傍らにしゃがみ込み、彼は声をかけた。普段の彼の声ではない、優しく、柔らかい声。だがこれが本当のライダーの声なのかもしれない。
「え?あ、あ……!ラ、ライダー?」
彼女は彼の接近に気付いていなかったようだ。相当慌てている。
「おうよ。約束ちゃんと果たしたぜ」
ニッと、ミューに向かって笑ってみせる。
その言葉を聞き、彼女は嬉しそうな表情をしたが、すぐに、彼の服にやぶれて赤く染まっている部分があることに気付き、心配そうな顔になった。
「この傷は?大丈夫なんですか?」
そっと傷口に触れ、彼を見上げるように不安そうな声でライダーに問う。
その表情に彼はドキッとした。真剣に彼女を可愛いと思う。
「こんなの、お前の傷と比べたらかすり傷だよ」
貫かれる程の攻撃をくらったのは事実だが、ユフィの魔法のおかげでもうほとんどなんともない。
「そうですか。良かった……。ずっと、貴方のことを心配していたんです。私との約束のせいで、無茶をしていないだろうか、と」
ミューはそこで言葉を切った。とても屋外の戦いにおける一番の勝利の立役者とは思えない。年相応の、乙女のような挙動。
「でも、無事で良かったです」
ミューは目にうっすらと涙を貯めながら、最高の笑みでライダーにそう言った。
ライダーは思わずギュッと彼女を抱きしめた。
「心配かけて、悪かったな……」
そのライダーの照れくさそうなぶっきらぼうな言葉の中の優しさと、彼自身の温もりに包まれ、ミューは幸せそうに目を閉じた。
「もういいんです……。ちゃんと約束を守ってくれたんですから……」
二人の、お互いへの好意が見事に繋がった一瞬であった。
少し疑問に思ったベイトはライダーとミューの仲を知り驚いたが、どこか嬉しそうに笑いながら、自分もテュルティのところへと足を運んだ。
「テュルティ?」
ベイトが、彼女の眠っているであろうテントに入り、彼女に声をかける。
「なぁに?」
彼の予想に反して、彼女は起きていたようだ。
「起きてたのかい」
小さく笑いながら、ベイトは横になっている彼女の隣に腰を下ろした。
彼女は外傷こそ大してないものの、肋骨が数本折れているらしく、しばらく安静が必要とシスカに判断された。流石の彼女も、これには従った。ムーンとの直接対決に参加できなかったことを彼女が残念そうにしていたのを、ベイトはどこか安心したように見ていたものだった。
「うん。流石にこんな時だもん。眠れないよ」
仰向けに、首だけベイトのほうに傾けて、その目でベイトを見上げながら、彼女は彼にそう告げた。
「それに、寝ている間にゼロたちが負けちゃってたらどうしようって思うと不安だし……」
視線をクールフォルト家の方向に向ける。彼女の幼いような、不安そうな表情を見て、ベイトは柔らかい笑みを浮かべた。
「大丈夫。そんなことはさせやしないよ。僕も、これから向かうしね」
安心させるつもりで彼はそう言ったのだが、余計に彼女を不安にさせてしまったようである。
「ベイトは死んじゃったらヤダよッ!」
身体を起こし、彼に抱きつく。ベイトは困ったような笑顔で、彼女の頭を優しく撫でた。
「僕は死なない。だって、テュルティが祈っていてくれるし、テュルティが僕の帰りを待っていてくれるから。僕は、絶対に死なないよ」
それはただの口約束で、とても信じるには値するようなものではなかった。だが、段々とテュルティの不安はほどけていった。
「ムーンを倒して、西に帰ったら言おうと思ってたんだけど……。あのさ、この戦いが終わったら、その……あの……」
さらに彼は何かを言おうとしたが、照れて言葉を探した。
テュルティが不思議そうに顔を上げて彼を見つめる。
「僕と……結婚してくれませんか?」
思い切って、ついに彼はそう告げた。彼女はその言葉に衝撃を受けたが、すぐに満面の笑みに変わり、頷いた。
「はい……喜んで♪」
彼女の答えを聞き、ベイトも嬉しそうに顔を真っ赤にしながら微笑んだ。
「良かった……もしここで断られたりなんかしたら、どうしようかと思ったよ」
明らかに照れているベイトに向かって、テュルティはニヤついていた。
「私が断わる理由なんてないよ♪」
そして思いっ切り顔を近づけて、優しくキスをする。
ベイトはさらに顔を真っ赤にし、照れていた。
「行ってらっしゃい。気をつけてね?」
ニコニコしたまま、テュルティがそう言う。
ベイトは彼女の顔をまともに見ることができなかった。
ただ一言「ウン」と頷いて、彼女のテントを後にする。
―――ベイト……。死んだら、許さないかんね……。
残った彼女はただひたすら、彼の無事を祈っていた。
たったものの数分程で、ゼロたちは皆ムーンの前に倒れ伏していた。
彼女の圧倒的な戦闘力の前に反撃することはおろか、避けることも、防御することも出来なかった。
「もう終わりかしらん?意外と呆気無かったわねん♪」
ムーンがゼロを見下している。
―――クソッ……一体、何が起こったんだ?
彼らにはムーンの動きの片鱗さえ見切ることができなかった。辛うじて目で追えたとしても、それは目で終えるギリギリの速さで、身体が反応しない。
ゼロはゆっくりと立ち上がり周りを見た。ヴァルクもリンも、ユフィも、ボロボロだが、その眼に秘めた闘志はまだまだ燃え盛っている。
そう、負けるわけにはいかないのだ。
余裕の表情をしている、今まで相手にしたことがないほど強いムーンに対して、確かに自分たちは脆弱でちっぽけかもしれないが、勝つためにここにきたのだ。
密かにユフィがゼロの方へ歩み寄った。
近付くにつれ、彼女の負った傷の一つ一つが、ゼロにとって苦しかった。
「ゼロ、ちょっと早いかもしんないけど、私の奥の手、使うね」
彼女がゼロの耳に小言を囁く。
「もしかしたら、もう会えないかもしれないけど、許してね」
彼女の囁きのその言葉には、軽い口調で言う内容とはかけ離れた、重い言葉。
「え?」
ゼロには、ユフィの言葉が理解できなかった。
「詠唱中は無防備になっちゃうから、ちょっとの間、悪いけど護ってね」
ゼロたちに笑顔でそう言うユフィ。彼女の詠唱が始まったのを見て、ムーンは魔力の波長の変化を感じた。一瞬、怪訝そうな顔をする。
―――コイツァ、古代魔法じゃねぇか。
ユンティが気付いた。大戦中、この魔法で自分は魔法の祖ナターシャに敗れたあの記憶は、忘れもしない。
―――古代魔法だと?
アノンがユンティに聞き返す。
―――あぁ、覚えてるだろ?連合軍側の、ナターシャが俺に対して唱えたあの魔法を。
―――あ、あの魔法を再び唱えるというのか?!
アノンは絶句した。確かに強力な魔法であり、ムーンもただではすまないだろう。だが、その魔法は余りに魔力を消費するために、並の魔法使いでは数十人を必要とするのだ。それを一人の力で唱えるとなれば、魔力が底を尽き、肉体の組織を維持することさえ出来なくなり、多大な被害と共に術者も消滅する可能性が高い。
アノンの前主であるアリオーシュの愛した女性ナターシャは、同等の魔力消費をする古代魔法を唱えたことによりその肉体を崩壊させたのだ。あの時、自分の無力さを嘆いていたアリオーシュの悲痛な表情は、未だに忘れることはできなかった。
―――ゼロ、彼女は死ぬ気だ……。
アノンが、黙っていられず、暗い顔をしてゼロに告げた。
―――なんだって?!
思わず聞き返すゼロ。だが、アノンは真剣な表情をしていた。
―――彼女の唱えている魔法、古代魔法詠唱に伴う魔力消費は、それくらいのものだ。だが……助ける術がないわけではない。
アノンの言葉に、ゼロは聞き入っていた。だがその間に。
「その魔法……どうやって知ったかは知らないけれど、発動させるわけにはいかないわねん♪」
多少の焦りを含んだ声で、ムーンがそう言った。ユフィを狙って短剣を投げつける。
だが、その短剣はリンの剣の前に落とされた。
「私だって、ユフィさんを護るくらいできるんです!」
リンがユフィの前に立ち、その横にヴァルクも並んだ。
「あんたの様子を見る限り、相当ヤバイ魔法なんだろうな。だったら、是が非でもこの魔法は発動させてもらわなきゃならないってのがこっちの筋ってもんだろ」
挑発するようにヴァルクが言う。
二人がユフィを護っている間、ゼロはアノンからユフィを助けるための方法を聞き、少し困惑した表情見せた。
―――それしかないなら、迷わずやるが、流石に自信はないな……。
内心苦笑いしながら、アノンにそう言う。自信はなくともやらないわけにはいかないのだが。
―――貴方なら、出来る。
どこからくる保障なのかは分からないが、そうアノンが言い、ゼロの身体に何かが入ってくるような、そんな感覚がした。
―――この手から、放出するように……。
ゼロはユフィの肩を抱いた。ユフィが一瞬驚いた顔をしたが、すぐに詠唱に戻る。
ユフィの身体に力が溢れてくる。それは温かい、心強い魔力だった。
そう、アノンがゼロに伝えた、ユフィを救う方法とは、ゼロがアノンの魔力を借りて、その魔力でユフィを支援するということであった。実際の所、アノン自身の魔力は、かなりのものがある。今までアノンがゼロに魔力を貸さなかったのは、ゼロ自身に魔法の才能がなかったがためであり、彼女単体ならば魔法の行使も可能だったのが事実だ。
そしてその魔力を、ゼロを仲介としてユフィに送り込む。ゼロ自身には魔法の才能がないため魔力を留めておくことができないから、ゼロがユフィに触れているときにしか送ることはできない。
―――ありがとう、ゼロ……アノンちゃん……。
ユフィは二人に感謝しながら、長い詠唱を続けた。残りは3分の2程度。時間にして、5分ほどである。
ヴァルクとリンの、長い5分間が始まった。
援軍として、セティ、ベイト、シックスがクールフォルト家内を疾走していた。
目指すはゼロたちの所。
3人は、必死に足を動かした。
ムーンが接近し、魔法で剣を作り出した。ヴァルクとリンに合わせてなのか、どこか余裕の表情で、右手に光り輝く魔法剣を構えている。
ムーンが動く。その速さは、ゼロの動きに匹敵するほどの速さ。
だが、ユンティと憑依していて、本気のヴァルクはその動きを見切ることが出来た。彼女を倒すという強い気持ちが、彼をさらに強くしている。
リンも心を落ち着かせ、ムーンの動きをコマ送りのように見切っていた。
ゼロの強さの陰に隠れるようだが、この二人のどちらでも、本気の勝負ならばゼロと相打ちできるほどの実力は持っているのだ。
そんな二人を相手にして、ムーンの剣は簡単に飛ばされた。
「あらん♪」
だが、それでも余裕のムーン。右手を軽く振ると同時に、また同じような剣を出す。
今度はヴァルクが目にも止まらぬ、神速の速さでムーンに迫り、剣を振り下ろす。
その剣を辛うじてムーンが止めると、すぐさまその剣を引き、突きを繰り出す。
「!」
その突きは、ムーンのドレスを捉え、その服が裂けた。白い肌の部分が露わになる。
心なしか、ムーンの余裕が少なくなったように感じる。
そして背後に回ったリンが、ムーン目掛けて一閃しようと剣を振りかぶった時。
ゾブッ
異様な音と、激しい激痛がリンの右腕から感じられた。
振りかぶられた剣が、むなしく乾いた音をたて床に落ちる。
「ッッッ!!!」
見れば、先程ヴァルクが吹き飛ばしたムーンの魔法剣が、何故か知らないが自分の右腕を貫き、深々と突き刺さっていた。
慌ててヴァルクがリンに駆け寄る。
「本物と違う、魔法だからこそこういう使い方も出来るのよん♪」
まるで全てが狙い通りというように、ムーンは二人に向かって笑っていた。
―――油断した……。相手はあのムーンなのに、正攻法だけでくるはずがないじゃない……!
貫かれた右腕はどこか神経を痛めたのか、上手く動かない上に、動かそうとすれば激痛が走る。すなわち、自分はもう戦力にはならない、戦えない、ゼロの力に、なれない。
そんな考えが浮かび、リンは計り知れない悔しさを覚えた。
ユフィに魔力を送っているゼロは、精神を集中させているのか目を閉じている。彼が今の自分を見たらどう思うだろうか、そんなことを考えてしまう。
「ヴァルクさん、すいません……」
リンが悲痛に、なんとか声を絞り出す。
「心配すんな。詠唱完了まで、俺一人でなんとかしてやる」
ヴァルクは、負傷したリンを庇うように、ムーンと対峙した。
―――ヴァルク、あの魔法の完成まで、あと3分てとこだ。
真剣な眼差しで、冷や汗を流しながらムーンに向き合う彼に、ユンティがそう告げた。
―――ふむ……。たった3分、そのたった3分に命を賭けるか……。
すっかり自分も脇役が型にはまってきたと、どこか自分を揶揄しながらもヴァルクは改めて気を引き締めた。
最強の敵ムーン。
その敵にゼロたちは勝てるのか。
そしてユフィの唱える、命をとした古代魔法とは。
果たしてゼロは彼女の死を救えるのか。
ヴァルクは詠唱完了まで無防備のゼロとユフィを護れるのか。
その窮地に、3人の騎士が急ぐ。
天秤にかけられた勝利は、どちらに掲げられるのか。
森の意志を知るは、森だけである。
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