第2章

結ばれる絆 始まる物語










 馬車に揺られる5人全員が礼装に身を包んでいた。馬車自体も4頭立てで走らせ、中に絨毯が引いてある豪華なものだが、それ以上に2人の男性と3人の女性を包む衣装が豪華だった。男性の衣装は金糸銀糸をふんだんに使用し、胸には獅子の刺繍がなされている。こればかりは変わらない、西の伝統的な礼装だった。女性陣もドレスを着こなしている。桃色の髪の女性が一番豪華か。
 普段はそういった格好を嫌う西王も今日ばかりは文句を言わなかった。彼にとって目に入れても痛くない妹の晴れ舞台なのだ。自分の立場も考え、雑な格好は出来なかった。
 やはり落ち着かないのか、いつもの西王の様子ではなかった。
「そわそわしてるねぇ」
 それを見て宰相であり、彼の親友のベイトが苦笑する。彼の妹への溺愛ぶりを知っているから分からなくはないのだが。
「ネアはセシリアちゃんとは仲良かったの?」
 彼の様子にクスクス笑っていた王妃ユフィだったが、唐突に話題を作った。ゼロの妹、セシリアと貴族学校時代の同窓生であるネアもなかなかに落ち着いていなかった。西王であり大戦の英雄ゼロ・アリオーシュとこんなに近くにいれることが初めてだからかもしれないが。
「私とセシリアは、陛下とネイロス卿のような親友関係だったというわけではありませんよ。ただ同じ西の出身という面識はあったくらいで……仲良しとは言えなかったです」
 そう言いつつも彼女の表情は明るい。
「セシリアって今こんな風に言うのも変な話ですけど、可愛かったから男女問わずモテたんですよね。でも――」
 途中まで話して突然言葉を切った。全員が彼女の話に耳を傾けていたため、場の雰囲気が一瞬ぐらつく。ゼロは何となく分かったのか、目で続けろと合図を出した。
「陛下の御前で言いにくいのですが、やはりゼロ・アリオーシュという存在が彼女にとっても、他の者にとっても大きかったため友達から一線を越えられた人がいないんですよ」
 ゼロ自身セシリアに在学中彼氏がいなかったのは知っている。自分がプレッシャーになっていたと思うと複雑な心境なのだが、言葉で圧力をかけたことはない。
「それにセシリアもよく陛下のお話をしていたので、周囲の中でどんどんゼロ・アリオーシュという存在が神格化していくんですよ」
 セシリアの話をするネアは楽しそうだった。彼女もまたセシリア・アリオーシュを好きだったが、ゼロの壁を感じて仲良くなり切れなかった者なのかもしれない。
「人懐っこくて、運動神経抜群で、ちょっと子どもっぽくて、王妃のように学年のアイドルと言ってもよかったかもしれません」
 ネアの話を聞いて他の4人も貴族学校の思い出を少し思い出したりした。
「あのセシリアが王妃になるんだと思うと、落ち着かないですよ」
 ゼロやユフィも当然貴族学校時代のセシリアを知らないわけはない。だがやはり同学年の者の言葉が持つものは力強かった。
「セシリア様のドレス姿楽しみですね」
「泣いたりしちゃだめだよ?」
「うるせえ」
 どうやらもうすぐ南の王城のようだった。





 南の王城は建設以来一度たりとも落城の経験のない、エルフの森において最も歴史ある王城だ。年季の入った造りはいつみても威圧感を覚える。
 この城に入るのはゼロ自身2度目だった。初めて入城したのはシスカと初めてあった約3年前のことだ。即位したばかりだったシスカに会った頃はまさか彼が自分の妹と結婚するなど予想もしなかった。逆に自分とユフィが結ばれるきっかけになったときもあの時だったか。
 馬車を降り案内されたのは広い会場だった。舞踏会などでも使用されているであろうその場には、多くはないが知った顔が多かった。
 北王も東王も既に到着していたようで、遠くの方に2人が談笑しているのが見えた。
 ゼロが会場に入ると視線が彼に集中した。やはり今回の主役の片方の実兄である彼の様子が気になる者は多いようだ。
「思ったより小規模だな」
 会場に入った時に渡されたグラスを持て余しながらゼロはそう呟いた。
「シスカ、友達すくねぇのかな……」
「こらこら」
 ちょっとした冗談だったのだがベイトのツッコミは早かった。流石に間柄が間柄だけに問題はないかもしれないが危険な発言に違いない。
「陛下たちの式の時はどうだったんですか?」
 当時はまだ軍と関係を持っていなかったアーファやネアはゼロの結婚式に関わっていない。当然思ってしかるべき質問だろう。
「あー……」
「うーん……」
 ゼロが目を細めて考えだし、ユフィの笑顔も少しだけ困惑の色を出した。
「戦争中で、西と南の人しか呼ばなかったからね」
「今回のより少なかったかもしれないな」
 振り返ればそういうことだ。
「陛下やユフィ様もお友達が……?」
『いやいやいや』
 ネアのまさか、というような表情での質問に二人合わせて首を振る。貴族学校時代に二人はクラブにも入っていたし、常に友達たちと一緒にいた。大丈夫、大丈夫だと自分に言い聞かせる。
「大丈夫。二人とも人気者だったから、いっつも誰かしらといたよ?」
 そんな二人の在学中をよく知るベイトがフォローしてくれた。こういう時は本当に頼りになる男だ。
「友達は数が多けりゃいいもんじゃない。立場や状況がどうなっても力になり合える信頼関係があることが大事なんだ。量より質だな。な?」
「仰る通りで」
 咳ばらいしてからアーファとネアに諭すように言うゼロに対しベイトもユフィも嬉しそうだった。ゼロとベイトの間柄を見ていると自分にもこんな関係の友達がいたらいいなと思えてくる。
「そういう関係の人だったら例え異性でも安心出来るし、逆に数がいっぱいいて異性も多いとちょっとムッとしちゃったりになっちゃうの」
 さりげなくユフィの発言は釘だったのだろうか。ゼロは我関せずといった表情だったが。彼が貴族学校時代にモテたのは否定しようがない事実だ。だから彼の周囲には常に女生徒が多かったのも事実。どうやらユフィの発言は実体験なのかもしれない。
「何だかんだでいっつも4人でいたよねぇ」
 思い出に浸るベイトの表情から時の流れを感じた。貴族学校時代の旧友の多くを大戦で失ったことも同時に思い出してしまう。
「しっかしまだこんだけしか集まらないとは、南王様はご学友が少なかったってのはマジっぽいな」
 見渡して見受けられる者の多くはセシリアの同級生たちだった。シスカと同世代の者がほとんど見受けられなかった。
「リンちゃんからも連絡受けなかったしね」
 ユフィがシスカの同世代での子の名を挙げる。リンちゃんと軽く呼んでいるが、西の騎士の中ではゼロに引けを取らない屈指の剣士だ。
「シスカ陛下自身がご招待状を出すのを控えたんだよ」
「ふぇ?!」
 突然現れた声にびっくりしてアーファが咄嗟にゼロに抱きつく。そうしてしまったことにまた焦ってすぐさま離れる光景が何だか微笑ましかった。
「ナナキか。話しかけてくるならもう少し普通に来てくれ」
 アーファに苦笑を浮かべながら、声の主にそう指摘する。声の主はナナキ・ミュラー、南の諜報部に所属するゼロと同世代の女性だ。暗めの赤い髪は短くしてあるが、サラサラと彼女の動きの影響で揺らめいていた。
「シレンよりはマシでしょ?」
「……確かに」
 一拍置いてユフィがそう答える。北の諜報部団長シレン・フーラーの現れるタイミングは神出鬼没としか言いようがない。貴族学校時代に何度彼女が驚かされたことか。
「シスカ様が招待状を出さない理由はなんなんだい?」
 最初のナナキの言葉を受けて、ベイトが質問する。
「結婚式を政治的干渉の場にしたくないみたいだよ」
「森で一番栄えている商業国の王様だもんな。単純な祝儀を隠れ蓑にして取り入ろうとする輩がいてもおかしくない、か」
 ゼロが瞬間的にシスカの立場と状況を考え、そう結論付ける。ナナキも頷いていた。そういった輩がいてもおかしくない、というよりは、いなければおかしいというレベルだろう。
「ちょっと、寂しいね」
「でもそれがセシリア様へのご配慮なんですよね」
 ユフィとアーファが悲しそうな顔を浮かべた。
「あいつだけだったら別にそういった輩も大した問題じゃないんだろうが、うちの妹は顔に出すからなぁ」
 いずれは政治的な場に慣れていかなければならないのだが、と妹を案じると一抹の不安が残らないでもなかった。
「どうやらもうすぐ始まるようね。私は警備があるから、それじゃ」
 入口と反対側の方から楽団の演奏が始まった。それを聴き、ナナキが外へと出ていく。何かあってはいけない、そういう日なのだ。
 ゼロたち西の面々もそちらの方へ移動する。新郎新婦の入場と考えると、落ち着かない。そんな様子のゼロを見てユフィは彼の腕を抱いた。言葉など必要とせず、ただそれだけの行為で不思議と落ち着けた。自分がしっかり見てやらなくてはいけない、そう思いだす。
 ゼロらが近づいていくと、周囲も気づいたのか自然と一番近くの場所が譲られた。
 そして扉が開き、歓声が上がった。
「奇麗……」
「ああいう格好すると、やっぱり王妃になるんだなって思うね」
 礼服に身を包んだシスカに手をひかれ、純白のドレスに身を包んだセシリアが現れる。薄く化粧しているのだろう、おしとやかさなど無縁の普段からは考えられない美しさがそこにはあった。
 シスカに手をひかれる彼女の表情は幸せに満ち溢れていた。
「セシリアちゃんも、大人になったね」
 隣から声をかけてくるベイトに、何も言い返せなかった。
 会場の中心まで歩いて、新郎新婦が立ち止まる。
 シスカが一旦深呼吸をした。
「今日は僕たちのためにお集まりいただき誠にありがとうございます。こうして西王ゼロ・アリオーシュの妹であるセシリアを妻に迎えることが出来、喜びとともに、これが今後の南の発展にも繋がっていく、そう思います。まだまだ若輩者の僕らですけれども、これからは二人手を取り合って森の繁栄のために尽くしていきたいと思います。今後ともどうかよろしくお願いします」
 立ち止まったシスカの発言は、普段の彼からは想像も出来ないような丁寧さがあった。若い貴族だけではなく、重鎮の貴族たちも出席しているからであろうが、ゼロは違和感を覚えずにはいられなかった。
「それではどうか、今日を楽しんでいってください」
 それを音頭に乾杯が行われる。出会った頃は野心だらけの少年だった彼が、終戦から2年を経てこうも成長していたと思うと不思議な気分だ。
 色々思い出してしまうことがあったのか、ゼロは新郎新婦から離れ、壁際の方に移動した。

――セシリア・コライテッド、か……。
 ああやって幸せな二人の様子を見たのは初めてだった。彼女が自分の側から離れていくという実感はいままでなかったのだが、それを現実として見せられるのは正直辛いところもあった。今までずっと自分が守って来た、見守って来たのに今日からは自分以外の者にその役目を委ねるというのが、飲み込めない。
――16で王妃か……そう考えるとユフィと一緒か。
 いま振り返れば自分が結婚したのは17の時で、王妃となったユフィは16だった。事実としてそうだとしても、あのときのユフィと今のセシリアが同じようには思えないのは兄という視点が入ってしまっているからか。
 祝いの場だというのに気が付けば給仕の側の壁に背をもたれかけさせて一人グラスを傾けているゼロがいた。
「何一人でそんなに飲んでるのー?」
 あえて近寄らなかったのだろうが、流石に見かねてかユフィがゼロの側へやって来た。少し離れたところにアーファがいたのだが、今ばかりは彼女も近づけなかったようだ。
「顔赤くなってるよー?」
 そう言われればだいぶ飲んだような気がしなくもない。別段アルコールに弱いというわけではないが、どんなに飲んでも平気というわけでもない。
「ユフィが俺のとこに来る時、シックスさんどんな感じだった?」
 ユフィにも兄がいる。自分の妹を自分以外の男の下へと送り出すという経験をしたのは一緒のはずだ。
「ん~、お兄ちゃんかぁ。別に普通だったよ。だってさ、4年近く付き合ってたし、ちょくちょくゼロもうちに遊びに来てたでしょ? たぶん既に半分家族だと思ってたと思うなぁ」
 彼女の言い分も当たり前と言えば当たり前だ。ユフィの兄、シックス・ナターシャは貴族学校時代の剣術部の先輩であったし、彼女の家に泊まりに行ったとき共に風呂に入ったこともある。戦場で命を救ったのは結婚した後だったか。
 自分とシスカとの状況とは違う、前提があったのだ。それに対して今回のことはそういった前段階の経験がない。二人でいるところを見たのすら初めてなのに、それが結婚の場なのだ。自分のいなかった2年間をこんなにまで悔やむことはあるまい。
「やっぱり、ダメ?」
 そう聞かれて頷くのは流石に憚られた。
「……欲張り」
 答えを察したユフィの反応は予想外だった。意味が分からず怪訝そうな表情を浮かべてしまう。
「だってー、私がいるじゃん。それなのにセシリアちゃんもいて欲しいなんて欲張り以外の何でもないでしょ?」
 まさかの論理展開だったが、そう言われて反論できる論理をゼロは持ち合わせていなかった。妹が可愛いから、では通用しないに決まっている。
「それに今なんかアーファだって側に置いてるくせに。少しくらい人の気持ち考えなさいってのー。私2年間ずっと待ってたんだよ? 何のための私? それとも私なんかゼロ様の手にかかれば扱うのなんか簡単だとでも?」
 どうやら彼女も酒が回っているようだ。それと最近の不満やらが相まって少し面倒くさいことになっている。だが彼女の言葉は純粋に自分の胸にとどいてくる。
「昔っからさー、色んな女の子と仲良くなってさー、私が知らないとでも思ってんの? 私がどう思ってたか考えたことあったー? 馬鹿にしないでって話。私なんかずーっと一途にゼロだけを見てきたのに、どうせ最後の一線だけ越えなきゃいいとか思ってたんでしょー? 他の女の子と仲良く話してるの見るだけでもあんましいい気しないっての。だけど私ずっと我慢してきたんだからね。好きな人に嫌われたくないから、一緒にいたいから、女の子はいつだって不安なの。わかってるー?」
 こんな風にはっちゃけて本音を愚痴られたのは初めてかもしれなかった。言われること言われることに対してゼロ自身「すいません」としか言うことが出来ないのがほとんどなのも情けない話だが。
「だから、分かってあげないと。セシリアちゃんにとってゼロがどんなに大切な家族でも、好きな人はシスカ様なの。シスカ様に嫌われたくないから、自分より兄の方が大切なんじゃないかって思われたくないから、セシリアちゃんはゼロから離れていかなきゃいけないの。セシリアちゃんのその勇気をゼロが邪魔しちゃいけないよ?」
 額を人差し指とコツンとされる。何だか胸がすーっとする思いだった。彼女は、ユフィは自分のことをここまでよく考えてくれている。この簡単な事実を少し忘れかけていたのかもしれない。
「お前はホントにいい女だな」
 呆れたような笑みを浮かべたゼロに対して、ユフィは満足げに笑みを浮かべていた。
 もっと彼女をかまってあげなくては、純粋にそう思う。
「どうしてもセシリアちゃんが恋しくなったら、アーファで我慢しなさい」
 少し離れたところで会話を聞かないようにしていたアーファだが、突然ユフィに指をさされ驚きの表情を浮かべていた。
「へ?」
「あの子とセシリアちゃんほとんど年変わんないでしょ? あの子で我慢しなさい」
 無茶苦茶な台詞だった。
「アホか」
 だがさっきまでのモヤモヤした気持ちが晴れたのも事実。彼女と話すことによってだいぶ楽になった気がする。
「私がいるんだから、妹くらい気前よくあげちゃいなさい」
「よく言うよ……」
 ここまで直情的なユフィも珍しい。だが悪い気はしなかった。
「早く子ども欲しいなー」
 最後の呟きは聞かなかったことにする。自分とユフィの子どもが欲しくないわけではないが、まだ早いと思うのだ。もう少し国政を安定させてからでないと落ち着いて育児も出来ないのではないだろうか。
「なんでこんな隅っこにいるのさー!」
 突然この会の主役がやってきた。ずっと一緒に育ってきた声を、その身体とともに受け止める。
「ドレスだっつーのにどんだけアクティブなんだお前は」
 果敢にも抱きついてきた妹に突っ込みをいれつつ、衣装を直してあげるゼロ。あきれ顔の兄とは対照的に妹は嬉しそうでしょうがなかった。
「探したよ、義兄さん」
「義兄さん言うな」
 少し後から現れたシスカの発言に嫌悪感を露わにする。
「自分だってお兄ちゃんのこと義兄さんって言うくせにー」
「それは別に嫌がられてないからいいだろ?」
「ユフィお義姉ちゃん、アニキワガママだ!」
「そうねー、ワガママで困るわー」
「いい加減にしてくれ……」
 面倒なのが増えたとでも言いたげにゼロが眉間に手を当てる。西王とその王妃、南王とその王妃、立場こと凄い位置の4人だが、中身は至って普通のエルフなのだ。そんなことを実感させてくれる会話だ。
「てっきり1番にあいさつに来てくれると思ってたのに全然来ないんだもん、まさか来てないのかと不安になっちゃったよ」
「まぁ、色々とな」
 こうしてシスカを目の前にすると複雑だった。彼は正直に男らしさなどとは無縁な存在だし、個人的な戦闘能力もセシリアに及ばないかもしれないレベルだ。その彼に妹を託すというのは武人の家系で育ったゼロとしてやはり飲み込めない部分も強い。
 だがシスカと話しているセシリアを見るとどうだろうか。そこにあるのは今までに自分が見たことのない活き活きとした妹の表情だった。甘えるような、頼るような表情でなく、対等な関係の中に見出した信頼関係が垣間見られるような、そんな妹の表情だった。
 おそらくセシリアのこの表情を引き出したのは、彼が初めてだろう。
――やっぱりここいらが手放し時なんだろうな。
 そして実感へと変わってくる。ユフィの言葉を受けた影響もあるだろうが、彼女はもう自分の手元から飛び立っていくべきなのだ。それがお互いのため、そうなのかもしれない。
 自分に甘えすぎてしまう妹のため、愛する人のために強くなろうとする義弟のため、自分をもっと見てもらいたい妻のため、そして何でも自分で抱えようとしてしまう自分のために。
「妹くらい譲ってやるよ」
 その言葉は脈絡もなく出た。ゼロの余裕の笑みの真意を測れず、シスカもセシリアもきょとんとした表情だった。その言葉を発したゼロの胸中に様々な思いが駆け巡る。二人を目の前にしてのこの言葉の重みは、今まで何度も個別には二人の結婚を認めてきたつもりでも、重みが違った。
「これで西と南も安泰だなぁ」
 二人に背を向けてそう呟くゼロ。平和を望む彼らしい言葉だとは思うが、シスカはどこかしらの違和感を拭えなかった。
「ありがと、お兄ちゃん」
 ゼロの様子をくみ取ったセシリアが後ろからゼロをそっと抱き締める。
 西王の頬を伝った涙が、何よりも二人を祝福するのだった。






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